第18期 #9

見えないキズ

あなたのその定規をかして?
ユナはそのキラキラと光るジャスティスの新品の定規を欲しがった。
でもジャスティスはそれを誰にも触られたくなかった。
いいからかして。私のほうがきれいに線が引けるわ。
ジャスティスは仕方なくユナに定規を差し出した。
ユナはジャスティスの手から奪うようにして定規を受け取った。
ジャスティスは心配でならなかった。
ユナはこれまでにもいろんな人の大事なものをかりては壊していた。
でもそんなことユナはまったく気にしていない。
心配をよそにユナはたくさんの線を引き、自分の好きな形を描いた。
三角形四角形、たくさん角形。
ジャスティスは壊されないうちにと、ユナに定規を返してと言った。
ユナは意外にもすぐに返してくれた。
少しびっくりしたが安心してジャスティスは定規を受け取った。
でもそんなにうまくいくはずがなかった。
定規には目立たないが小さなキズがついていた。
それは持ち主のジャスティスにしかわからないくらい小さく、他の人が見たら、なんだたいしたことないじゃないかと言うかもしれなかった。
それでもジャスティスには大事な定規だった。
仕事が忙しいジャスティスのお父さんは、日曜日にも仕事がある。
そんなお父さんと休みの日に、算数で使うからと近所の文房具屋さんへ一緒に買いに行った定規だった。
ジャスティスはユナが嫌いになった。ユナを恨みさえした。
ジャスティスに「恨む」ということがどういうことかちゃんとわかっていたかどうかは定かではないけれど、ジャスティスはユナを恨み、憎んだ。
自分のもつ、あまりよくない気持ちは全部ユナにぶつけてやる..
それは遠足の日だった。
ジャスティスはユナがめずらしがりそうなものをたくさんリュックに詰めて持って行った。
ユナは予想通りジャスティスの持ってきたものに興味を示し、二人はみんなとは離れてそれらで遊んだ。
中にひとつ、プロペラで飛ぶおもちゃの飛行機があった。
ユナはそれをすごく気に入り、ずいぶんそれで遊んだ。
飛行機が崖の方に飛んでいった時だ、ジャスティスはユナの後ろから思いっきり体当たりした。
二人はまっ逆さまに崖の下に落ちたが、どういうわけかユナは助かり、ジャスティスは即死だった。
落下直後、ユナはパニック状態でよくわからないことを喋っていた。
しばらくして怪我が治っても、遠足に行ったことくらいしか、ユナには思い出せなかった。
ジャスティスの死は、ただの事故として、人々に悼まれた。


Copyright © 2004 マーシャ・ウェイン / 編集: 短編