第179期 #6

四郎

 身長が低く、頭頂部がはげ、肥満のため腹は出ていた。胸からへその下にかけ直線を描くように剛毛がはえ、ところどころで渦をまいた。つぎはぎの擦れた衣服。親の顔知らず。

 四郎は吉岡の畑で野菜を作る仕事をしていた。四郎は仕事の帰りに川で光る石を見つけた。その石を宝石商は一千万で買い取りたいと言った。そのことを吉岡にはなすと、俺の畑で仕事をしたからその石を見つけられたのだろう、だったら石は俺のものだ、と言った。そう言われた四郎は吉岡に石を渡してしまう。その後、その川には、にわか翡翠ハンターが群れた。

 ある日、吉岡の命令で薪をひろうため冬の山へ入った。薪をひろった帰り、四郎は足を滑らせ崖下へと落ちてしまった。幸い命は助かったが、腕が一本折れていた。四郎は折れた腕を簡易の添え木で補強して、ふたたび薪を背負い、ゆっくりと山をおりることとした。四郎が途中のわき水で喉を潤していると、そこでも光る石を見つけた。吉岡にそのことをはなすと、俺が薪をひろわせたのだから、その石は俺のものだ、と言った。そう言われた四郎はその石を吉岡に渡してしまった。その後、わき水に小さな金鉱脈が見つかった。
 私腹を肥やす吉岡。ろくな治療もできなかった四郎。四郎の腕は曲がったままである。

 半年後、四郎は仕事をうしなう。住む場所もうしなう。しかたがないので、四郎は村はずれの朽ちた寺で雨露をしのいだ。寺には地蔵が一体あったが、だれも手入れをしなかったので、苔むし、一見地蔵だとはわからなかった。
(ひとりじゃなくてだれかと暮らしたい)
 四郎は曲がった腕で地蔵を毎日磨いた。そんな四郎を見て村のものたちは笑った。

 川で魚を獲った。
「私が昨日見つけた魚です」
「すまなかった」
 四郎はナツに魚をすべて渡してしまった。
 四郎はカエルを食べて空腹をしのいだ。

 山で栗をひろった。
「俺が目をつけていた栗だぞ」
「すまなかった」
 山でとった栗をアキにすべて渡してしまった。
 四郎はカエルを食べて空腹をしのいだ。

 冬の前、寺に野良猫が迷い込んだ。四郎はその猫をハルと名付けた。しかし、ハルは数日で死んでしまった。
 ハルとも暮らせないほどだめな人間なのか。
 自分を恥じた四郎。ハルを地蔵の脇へ埋める。四郎は曲がった腕で地蔵を無心で磨いた。
 ハルが死んで、冬がきた。
 空腹をしのぐカエルはもういない。四郎はひとり。ハルは死んだ。



Copyright © 2017 岩西 健治 / 編集: 短編