第179期 #5

夢?

その日は別にいつもと変わりなかった。朝起きて、親と朝食を食べて、身支度をして、学校で授業を受けて。しかしいつもと違ったのはその先だ。私が家に帰っったとき、そこに、私の家のあるはず場所に家が無かったのである。
母は専業主婦だ。家にいるはずだ。そう考えた私は母に電話をかけた。
『もしもしお母さん?今どこにいる?』
『え?家だけど。それにしても雨が凄いわね』
雨。雨は降っていない。少なくとも私のいるここには。この女は何を言っているのだ、と思った。電話を切って、スマホの天気予報アプリを開いた。現在の天気は“雨”。雨?降っていない。頭が混乱してきた。今度は友達に電話をした。一番信用出来る幼馴染だ。
『もしもし?今、雨降ってる?』
『何言ってんの、見れば分かるでしょ。土砂降りだよ』
『……そっか、ありがと。切るね』
私がおかしいのだろうか。ますます頭が混乱してきた。自分の家が無くて、自分の周りには雨が降ってない。でも実際は家はあって、雨が降っている。考えていると頭が痛くなってくる。そこで気付く。今日は何月何日の何曜日だ。今は何時何分何秒だ。今私はどこにいるのか。昨日は6月の21日の水曜日だった。スマホを開いて確認する。
「今日は6月の……21日、水曜日……」
日付が変わっていない。しかし昨日とは違う朝ごはんと昨日と違う時間割だった。私は混乱と恐怖で思わず走りだした。そこで小石に躓いて転んだ。と同時に目の前が真っ暗になった。
「はっ!」
私は、どうやら寝て夢を見ていたらしい。ベッドから落ちて床に寝そべっていた。学校から帰ってきて、とても疲れていたのでそのままベッドに横になったんだ。
時刻は午後6時。リビングにいったが、そこには誰もいなかった。夢のせいで不安になったがテーブルには置手紙が置いてあった。
“買い物に行ってきます 6時半くらいには帰ります”
ほっとしてソファに座る。母が帰ってきて、夕飯を食べ、風呂に入って、そのまま寝る。随分と疲れていたのか、すぐに瞼が重くなっていく。
その時の感覚はまるで夢の中で夢を見ているぐらい曖昧だった。
そういえば初めて自分を後ろから見ていたな。後ろから?



Copyright © 2017 生甲斐 幸星 / 編集: 短編