第179期 #4
「パパ凄くいいよ」
外は激しい雨。
耳障りなベッドが軋む部屋の中、貴方は私の中で激しく指を動かし囁く。
「リナ凄いよ」と。
ベッドの軋む音が激しくなり、二人が接合すると、喘ぎ声が部屋中に響き渡る。貴方が私の中で、絶頂に達したその瞬時に、私は枕元の刃物を貴方の背中に刺し込んだ。
現実を受け入れられない表情の貴方を見て、
「どうしたの?」と言葉をかけると、苦痛に耐えられない表情へと、変化していく。
紅い色の刃先が空気に触れると、引き締まった貴方の裸体は、紅い液体を噴き出し、私の上へと崩れ落ちた。
コマ送り画像を見ている様に、ゆっくりと。
「息、まだあるね」
接合部を外した後、仰向けになった貴方の上に跨り、再度、紅く染まった刃先を胸元へと刺し込む。裸体は一瞬ピクリと反応した後に、動きを止めた。
紅い液体が私の身体に降り注いだ。
「花びらみたいに綺麗」高揚感が増した。
刃物を引き抜くと、開ききった瞳を閉ざし、緩りと貴方から降りる。
「ごめんね。痛かったね。二度も刺したから」頬を撫でながら呟いた。
紅く染まった裸体を目にすると、思い出が蘇った。
一年前。十八歳の誕生日に、
「僕が、リナを愛してあげる」って紅い花をくれたね。
「私のパパになってくれるの?」
七歳上の貴方は、その言葉の後に優しく頷いてくれたね。嬉しかった。親から貰えなかった、無償の愛が漸く手に入ると思ったから。
「なぜ、急にさよならって言ったの? 電話が繋がらないから、部屋へ行ったのよ。中から知らない女の人が出て来たの。誰だったの?」疑問を投げかけるが、返答は無い。『さいごに愛してほしい』そうメールしたら、逢ってくれた。
「あれ?」異変に気づき、動かない裸体に触れてみた。
「冷たい。私の身体で温めてあげるね」裸体を抱きしめ、擦るが温まらない。紅い液体は個体化し、黒ずんだ紅へと変化していた。
「温まらない」
「大好きだよ」
貴方の愛しい下腹部から、顔へと目掛けて舌を這わしていく。
ヒヤリとした舌触りを感じ、蒼白な唇まで到達すると、舌を中へ押し込んでみた。貴方の舌は激しく動く事はなかった。ほんの少し前の様に。
肉の塊と化した貴方に言葉を贈る。
「前に誰かが言ってたの。親より子供が先に死ぬのは、親不孝者なんだって。だから、ちゃんと最期を看取ってあげたのよ。褒めてね。パパ」
微笑んだ後に、窓に目をやる。いつしか雨が止み、光の線が射し込んでいた。