第179期 #3

世界人類に平和が訪れるなら。

『拝啓 世界人類が平和でありますように。』
歩いていた道の一角にそんな貼り紙。思わずせわしなく進ませていた足をとめてしまった。
何を急に・・・。そう思った。だって、通学途中に、こんな何変わらぬ平凡な毎日の真っ只中に。そんな貼り紙を見たら変な気持ちにもなる。
誰の願い事だったんだろうか。そんなことを考えてから、「馬鹿馬鹿しい」そう、鼻でふん、と皮肉めいた溜め息をする。そんなことを願うほど、僕は今の生活に、『僕』という僕に不満はない。それが、自分の家が裕福だとか、成績がどうとか、ルックスがいいとか悪いとか、そんな単純なものではなくて。生活は人並みだし、むしろ成績もルックスも散々だけれど。僕基準では、何喰わない日々だ。
世界人類の平和。そんな大それたことは、この大きい地球の中で、自分で作った小さな小さな世界に閉じこもっているだけの僕に言えるはずもなく。スクールカーストなんて、馬鹿馬鹿しいものもできた世の中だ。そうそう他人の心配なんてしてもいられない。
自分のアイデンティティーの確立に忙しい僕たちは、毎日戦争のように自分を守りあって互いを傷つけあう。なんて平和なんだろうか。小さな世界の、小さな王様になりたくて。
そんな僕も、その一員ではないか。そのために、カースト制に日々翻弄されている・・・、まったく。くだらなくって、反吐がでる。
あぁ、まぁでも、そんな平和こそが天国なのだ。何事もなくただ毎日を水の中で泳ぐように漂う。それこそが気が楽なはずなのに。人類なんて、殆どが僕と同じようなものだ。『人種』なんて、関係がないし、今の時代は如何に自己が確率出来ているか、それだけなのかもしれない。
ふと、腕時計を俯き加減に確認する。急がないと流石に学校に遅刻してしまう時間帯だった。まだ、気になる貼り紙に、後ろ髪を引かれながら、足を動かし始めた。
あわよくば、世界人類に幸あれ。
出会ったそれを思い出しながら、僕は今日も静かに、密やかに生きていく。



Copyright © 2017 さばかん。 / 編集: 短編