第179期 #2

蝉の声

二人に子供が無理だと分かった時、それは夏の一番熱い日で蝉の声が空に響いていた。普通の出会いをして、成り行きで結婚をした。世間の人も、そんなものだと思う。私は男なので、自分の子供を持てないのは少し嫌だった。けれどそれ以上に妻は子供を持てないことに、悲しみを感じていた。だから養子をとることにとした。何の問題もなく、ごくごく平凡に時間は過ぎ去り、それなりの反抗期も過ぎて高校へ。高校から都会の大学へと進んだ。子供は結婚をして、孫の顔を見せに来る。妻はどうかは知らないが、私は少し嫌な気持ちにとなる。自分の子供でない子供を育て、なぜ自分の孫でない孫の成長を喜ばねばならぬのか。私たちは、いや私は時間の流れを計算していなかったのだ。子供は、やがて大人になるということを。今年も蝉の声が聞こえ出すと思う。子供を持たない道もあっただろうにと。わたしは今、少し不幸を感じている。確かに、感じている。



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