第177期 #4

神輿とまわし

 天気の良い午前の休日に小説を書こうとして、パソコンの前に座り、目の前の乾いた窓を開ける。開けた窓辺に小鳥が一羽、なんてのは想像だけでまずあり得ない光景である。
 外がやけに騒がしいので、パソコンから視線をはずして窓の外を見た。祭りの行列、そして神輿。はて、今日は祭りであったかなどと考えていると、神輿のかつぎ手のひとりと目が合った。すると、祭り上げられて神輿をかつぐ。わたしはふんどし姿である。ご神体を神社に奉納するために観音開きの扉を開けると、やけに賑やかなので、何事かと見やると、目の前は祭りの行列、それに神輿。はて、今日は祭りであったか。不思議に思い、窓の外の光景を凝視していると、祭り上げられて神輿をかつぐ。いつの間にかわたしはふんどし姿である。観音開きを開けると、やけに騒がしいのは祭りの行列であった。はて、こんな立派な山車がこの界隈にあったのか。町内で山車を管理しているというはなしは聞いたこともない。驚いて見ていると、祭り上げられて神輿をかつぐわたしは、ふんどし姿でパソコンの画面を見ている。窓の外はやけに賑やかである。今日は祭り日和である。奉納相撲の力士は相撲中継で見たことのない顔であった。力士は四股の体勢から土俵入りの型をとる。左手は支えるように自身の乳の下にあて、右手は肩の高さに水平にのばし、足の裏は地面に付けたまま、前傾姿勢からじりじりと少しずつ起き上がる。
 天気が良いので、観音開きの窓を全開にした。ごくわずかな風の流れが部屋の中と外の空気を入れ替えていくのが分かった。まわしをした力士は大きな手を器用に使いキーボードを叩いている。神輿行列が町内を廻り終えると力士の奉納相撲が執り行われる。神輿をかついでいたわたしは黄色の小鳥を指先にとまらせた力士と目が合った。力士は背中の羽根を使って開け放った窓から器用に飛んで、ご神体を奉納してある観音開きを静かに開けた。ご神体の黄色い小鳥は何という名であろうか。力士の飼っている小鳥とも似てはいるが、窓辺に小鳥がとまって、などということは絵空事である。絵空事でもいいと思う。
 パソコンから視線をはずして延びをする。外がやけに騒がしくなった。見ると、神輿。続いて山車に祭り行列。こんな立派な祭り、ここいらにあったのであろうか。不思議に思い、窓の外の光景を凝視していると、開けた窓辺に力士が一羽、静かに舞い降りた。



Copyright © 2017 岩西 健治 / 編集: 短編