第175期 #7
一見すると何もない部屋がこの家にはいくつかある。
まず、客間。だからもともとそんなに物は多くなかったと記憶している。
次にお義母さんの使っていた部屋。この部屋本当に何もない。押入れもいつも扉は開け放たれている。
他は1階にある収納スペース。ここはジャングルか? ってくらいものが入っていたのに、今は何もないガランとした空間になっている。
どの部屋も1階にある部屋ばかりだ。
この家の1階がやたら物が少ないのは、お義母さんが亡くなって、キミが全部処分しちゃったからだ。あれもこれもと捨ててしまった理由はボクにはわからないけど、思い出したくないのか、思い出として自分の中にだけしまっておきたいのか、見事なまでにお義母さんとの記憶を一掃してある。
ちなみに、ボクもキミもミニマリストってわけではない。その証拠と言うわけじゃないけど、2階は恐ろしく物が多い。
特にキミは仕事柄たくさんの本を読むから、キミの部屋は所狭しと本が詰まっているし、2階の収納スペースも本が詰まっている。
2階の収納スペースにはキミの本以外に、唯一お義母さんの形見である婚礼箪笥が3本しまってある。
これはボクがお願いして残してもらったものだ。
キミの着物をしまうためにはどうしても箪笥は必要だから、せめて半分の2本だけでも残しておいてよ、とお願いしたら、かなり悩んだ末に3本残った。
ある日掃除しているときに思った。この家、重量バランスが悪いんじゃないかって。
だって、キミの部屋は仏間のある部屋の上だし、ボクの部屋はお義母さんの部屋の上だ。
婚礼箪笥も2階に3本しまってある。なにより、紙の重量が半端ない。
「上の方が確実に重たいよね」
ボクは持っていた掃除機を止めて、天井を見上げた。傾いたりはしていないのだろうか?
実はちょっと捩れているとかだとどうしよう。もうこの家そのものがお義母さんとの思い出なのに。
この冬、雪はちゃんと両側に落ちていただろうか? どちらか一方にしか落ちていないとか?
う〜ん、と思い出しているところにキミがきた。
「どうしたの?」って聞くから、なんとなく2階が重たいから不安になって、って答えたら、「じゃあ、空部屋に天井までの壁を十字に作ってもらおうか?」って返ってきた。
え? と聞き返したボクに、そうしたら、重さも分散されてそんな心配なくない? ってまじめそうに言ったキミになんだかボクはどっと疲れた。