第164期 #5

世界は無数の星になる

 夏休み最後の日の夜、学校の屋上で真っ暗な夜空を見上げていた彼の目の前で、空が砕けた。うっかり落としてしまったガラス細工をハンマーで何回も叩きつけたみたいに、文字通り粉々に砕け散った。
 世界はもうヒビだらけだったのだ、と彼は思った。だから、心が揺れることもなかった。
 無数の夜空の欠片は流れ星のように、重力に引き寄せられるように地上に向かって落ちていく。
 世界が、泣いているようにも見えた。

 もう、来ちゃったの?

 声が聞こえて振り返ると、そこには二度と会えないと思っていた少女が静かに笑って佇んでいた。
 彼も優しい笑みを浮かべて、

 いつまでも一緒だ、って約束しただろ。

 口を開いて何か言い出そうとした彼女を遮って続ける。

 先に約束を破ったのはそっちなんだ。文句は、言わせない。

 彼女の目に一粒の涙が浮かんで、頬を伝って、壊れていく世界に吸い込まれるように溶けていく。
 彼は彼女に近づいて行って、その小さな身体をそっと抱きしめた。

 おやすみ。

 小さくそう呟いて、目を閉じた。
 懐かしい匂いがして、彼女の身体は温かくて、すすり泣く声だけが耳に響く。
 世界が終わる。


 その学校の屋上は、その年の二学期以降、閉鎖された。



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