第153期 #13

目撃者

 声を出せと言われる。言葉を発しろと言われる。そうしないとおまえはここで終わりだと言われる。
 何が終わりなのかについては、教えてはもらえない。その時が来れば、引き立てられ、押しやられ、連れて行かれるのだ。
 どこに連れて行かれるのかについて、知ることはできない。
 声はとうの昔になくした。言葉は身体中を渦巻いているが、自身を表現する道具として使いこなす能力はとうの昔に失った。
 ただ、うなだれる。
 打たれる。殴られる。蹴り倒される。
 おまえは知っているはずだと言われる。見ていたはずだと言われる。それをそのまま口にすればいいと言われる。何も難しいことはないと言われる。
 それが困難でないと言えるのは、言葉を操る訓練を受けているからだ。喉が声を発するように。顔の筋肉が言葉を発するのに適した動きをするように。自分のなかで散逸してあふれかえっている言葉が、理をもった一連の意味をもった流れとして発声できるように。
 わたしは身体のなかで同じ言葉を繰り返す。何度も繰り返す。何度も何度も繰り返す。何度も何度も何度も繰り返す。
 わたしには何ひとつ理解できたものはなかった。
 それを伝える術は、わたしにはない。わたしはただうなだれ、打たれ、殴られ、蹴り倒される。
 いつになったら終わりがやってくるのかは、まだ知らされていない。いつ知らされるのかも、当然のごとく、知らされない。
 わたしには、いつも、いつでも、知らされない。ただ、流れていくだけ。



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