第15期全作品一覧

# 題名 作者 文字数
1 遠い日の花火 長月夕子 890
2 闇と田中 Shou 1000
3 発明父さん 三浦 249
4 裸の男 のの字 997
5 カフェ ma- 999
6 駅前の整形外科 安南みつ豆 995
7 ドライブ こめとりうを 660
8 小麦粉 荒井マチ 894
9 シルエット みかりん 999
10 Nobody knows ともとも 874
11 真夜中のケーキ マーシャ・ウェイン 993
12 赤井都 1000
13 ある試験の日 朝野十字 1000
14 大瑕瑾 ツチダ 1000
15 裾野 ユウ 1000
16 総菜屋の猫 戦場ガ原蛇足ノ助 984
17 虫嫌い Nishino Tatami 991
18 スタート 西直 1000
19 耳を噛まれる 海坂他人 1000
20 蝉の声 ワラビー 941
21 (削除されました) - 1000
22 (削除されました) - 990
23 カイロ哀歌 五月決算 1000
24 彼岸の花火 サトリ 1000
25 夜空のむこうの黄金世界 赤珠 998
26 落ちる 川島ケイ 1000
27 反面教師 朽木花織 998
28 逢澤透明 1000
29 スクリーマーズ るるるぶ☆どっぐちゃん 1000
30 古いアパート 曠野反次郎 1000

#1

遠い日の花火

雨が車窓をするりするりと逃げていく。その隙間を流れる景色を見ながら、私はそれを何度も過去とダブらせていた。
「どうした?」
「、、この辺もよくドライブしたなーっと思って。」
東京タワーもお台場の観覧車も、泣き出した空に滲んで輪郭がぼやけていた。ワイパーの音がページをめくるように車を進ませる。
思えば、車の中で付き合う事を決めた私たちは、思い出という思い出がすべて車の中だった。休みになれば、二人でいろんなところへ出かけたものだ。とても、幸せな日々だった。
こういう日が来ると、知ってはいたけれど。
「何か飲む?」
と彼が聞いた。
「いらない。」
と私は答えた。しばらく静かにしていたかった。ラジオがサザンのTUNAMIを流すといった。
夏には6時間かけて、日帰りで新潟に行くなんて無茶もやったな。車のライトを消したら天地もわからない暗闇に、蛍の群れが舞い上がり、その光がそのまま星のようだった。綺麗だった。いろんな思い出が、際限もなくあふれる。息もつけないくらい。
「ねえ。」
「なに?」
「もう少し、このままでもいいんじゃないかしら?」
彼は困ったような顔をした。
「もう、決まった事だから。」
そう、そうだった。もう、何度も何度も話し合った事だった。もう元には戻らない。過ぎてしまった時間の流れには逆らえない。
海へ行ったときは、タイヤが砂にとられて大変だったよね。雪の積もった冬には、タイヤを滑らせて遊んだりして、それも結構楽しかったよ。二人で買い物もよく行った。いっぱいの荷物をいっぱい私たちの部屋に運んだの。そういうことの一つ一つが、私たちを作っていったのよ。
車は静かにスピードを落とした。
「ここで、降りてくれないか。」
私はうなずいて、ドアに手をかけた。
「ほんとにいいの?」
「もう、しかたない。」
「、、、そうね、、。」
私は車を降りた。雨の中、走り出す後姿を見送る。
さようなら。さようなら。日産昭和63年製S13シルビア。いろんな思い出を有り難う。
あなたはいい車だった。けれど、私たちには排ガスの規制からあなたを守ってあげられない。
シルビアはゆっくりと解体工場に入っていく。私の頬を濡らすのは、雨かしら。


#2

闇と田中

むかしむかし、田中という男がいました。ある日、田中は自分の机の下にある暗闇に入っていきました。田中は勇敢な男でした。暗闇の中をずんずんと進みましたのです。しばらく行くと、田中は暗闇に出会いました。
「真っ暗だな。」
田中は言いました。しかし暗闇は何も言いませんでした。そこで田中はまたずんずんと進みましたのです。しばらく行くと田中はまた暗闇に出会いました。周辺は真っ暗だったのかもしれません。
「どこもかしこも真っ暗だ。」
田中は辺りを見まわしたり、手を宙にすかせたりしましたが、何も見えません。田中はなんだか怖くなってきました。ずんずん、ずんずん歩いてもたどり着くのは闇、また闇。とうとう田中は座りこんでしまいました。田中は床に手を触れました。
「冷たいな。」
田中は言いました。田中はそこに怯えた気持ちであぐらをかきました。でも、時がずんずん進むにつれて田中は恐怖を感じなくなりました。なぜかお腹もへらず、眠くもなりません。だんだん田中は退屈になってきました。田中はランダムに歩き回りますのですがやっぱり行けども行けども闇ばかり。田中は退屈のあまり一人で喋るようになりました。
「おい闇。俺のことを話してやろう。」
田中は自分のこと。彼女のこと。家族のことなどを何回も何回も闇に話しました。田中は自分の知っている歌を全て歌いました。日本の国歌まで歌いました。そして自分でたくさん歌を作って、それを何回も何回も歌いました。

それから数千年がすぎても田中はまだ闇の中に座っていました。歳もあまりとっていなくて、すこし髭が伸びたぐらいでした。でも、田中はもうほとんど何も覚えていませんでした。たまに闇に向かって何かを話すのですが普通の人にはそれがただの叫び声のように聞こえるのでした。田中は彼女の名前を忘れ、父親と兄貴の顔の区別がつかなくなり、母親がいたことを忘れました。それに気づいた田中は涙を流しながら闇にむかって挑戦的に叫び声をあげました。

田中が最後に覚えていたのは自分の名前でした。
「田中雄三。田中雄三。田中雄三。」
田中は自分の名前を忘れまいとずうっと言い続けました。田中の名前がどんどん闇に吸い込まれていきました。時との競争の始まりです。しかし、時はずんずん進み、いつしか田中の声も聞こえなくなりました。闇がいままでに増して濃くなったような気がします。

私が地下室の電灯を消すと、辺りは深い田中でつつまれました。


#3

発明父さん

 「お届け物です」
 昼寝を邪魔されて渡されたものは御骨を入れるような桐箱だった。
 誰からだろうと寝惚け眼で伝票を見ると、実家の住所が書いてあった。
 「また変なもの送ってきてえ」
 わたしは開ける気にもならなくて、そのまま棚に上げてしまった。
 寝直すべくソファに転がる。
 がたん、と音がした。
 びっくりして、わたしは恐る恐る箱を下ろしにいった。
 がたん。
 「いわっ」
 わたしの腕から箱が飛び上がる。
 蓋が開いて、そこから紙切れが出てきた。
 『父さん特製びっくりするくらいおいしいお漬物』
 どっと疲れた。


#4

裸の男

 久しぶりの帰郷だった。
 固い背もたれの感触が懐かしい。私がこの散髪屋に世話になったのは中学の頃。目を閉じて聞くオヤジの声は昔のままだった。
「こんな町にもコンビニが出来て、商店街は寂れる一方だよ。どの店も年寄りばかりで後継ぎがいない」
「何処も同じです」
 オヤジの世間話は愚痴と同じである。朴訥な口調で、手先だけは別の生き物のように髭を剃る。
「そういえば」と私は、昨夜の奇妙な出来事を思い出した。
 真向かいの「鮨源」に鮨を食いに行くと、夕方だというのに客が一人しかいなかった。
「店主の源さんも店を畳もうと考えているらしい。あれだけ暇ではね」
 オヤジが口を挟んだ。
 それでも昨夜の客はいい客ではなかったろう。私と同じ草臥れた中年営業マンという感じで、なぜか一言もしゃべらない。
 目の前で鮨を握っている源さんも、ただむすっとしている。奇妙な雰囲気だなと思ったが、しばらくして、客の方が驚くべき行動をとり始めた。ネクタイをするりと外すと、上着を脱ぎ、シャツを脱ぎだしたのだ。
 源さんが見て見ぬ振りをしていると、男はどんどん服を脱ぐ。上半身裸になったかと思うと、ズボンまで脱ぎ始めたのだから尋常ではない。
「ばか者!」
 さすがの源さんも、ついに怒声を上げた。すると、裸の男は、何ともいえぬ笑顔になり、そのまま裏寒い店外へ出て行ってしまったのである。店は元の静けさに戻り、源さんは再び無口になった。
 奇妙なことだが、そこに一種不思議な厳粛さが漂っているようだった。
 ふと気がつくと、今の話を聞いていたオヤジの態度が少しおかしい。
「源さんが大声を上げたって…そうか、それはよかった」
 オヤジは、感動に震えた声を出すのである。私には何のことかさっぱりわからない。
「どういう事ですか?」
「二人は、親子なんだよ。ぐれて家を飛び出した息子が、勘当を解いてもらおうと何度も店へ通っていたんだ。源さんが怒ったのは、親が子をついに認めたという事だ」
「しかし、服を脱ぐことに何か意味でも…?」
「親と口をきくことが出来ないのだからしかたなかった。刺青を消すには、皮膚をやすりで削ったり、酸を塗って洗い流したりしなければならない。大変な根気と苦痛がいるものだ。親子の絆を取り返すために、あの子は一生懸命がんばったんだろう」
 かみそりを持つ手が止まったままになった。
 オヤジは自分の顔を隠すように、私の目の前を温かいタオルで包んだ。


#5

カフェ

お気に入りのカフェのお気に入りの席。

「いらっしゃいませ」
「うむ。いつものヤツな」とは言わずに、おずおずとキリマンジャロとか言う。お姉さんも心得ている様子。コーヒーの出し殻を入れた灰皿を音をたてずに置くと、そそくさと店の奥に引っ込む。
なにも言う必要がない。
「いやー、急に雨降っちゃって、参った参った!」とか言わないでもいい。
「昨日も飲み過ぎちゃってさ〜、もう爆笑〜♪」とか口が裂けても言わない。
阿吽の呼吸ってもんがあるのだよチミ。
主に、それは指先および目もとで語られる2人だけのボディーラングィジ。

おれが入店する。お姉さんがそれを見る。おそらく(あっ!)とかいう感情がこの場合相応しい。おもむろに着席。いつものシート。上着のポケットから、ほとんど全部をテーブルにガチャガチャ放り出す。(財布・タバコ・ケータイ・鍵束 以上)
お姉さん、分かっている。
おれが何をオーダーし、どのぐらいソコに留まるかを知っている。
お姉さん、慌てない。
おれの一連の儀式(ガチャガチャ)を見届け、おれがそこら辺の雑誌に手を伸ばしてパラパ、ココで水を入れる。
お姉さん、分かっている。
まだだ。
まだ、タバコに火を付けていない。
まだだ。
おれがボックス型のタバコの開閉口に人さし指を突っ込むと同時に、お姉さんはメニューを手に取る。
2人の距離は、まだ5メートルはある。
軽く深呼吸。
客前に出る時の彼女のクセだ。
ダテに通っているワケではない。そのくらいこっちだって知ってる。
もうお互い3回は相手を見ている。が、その視線は絶妙のタイミングで決して絡み合うことはない。
それが、2人の間の約束事なのだ。
誰が何と言おうと、それは決まっているのである。
タバコに火を付けて、凝りをほぐすようにしながら軽く首を鳴らす。そして、胸一杯に溜め込んだ煙を、ふーっと吹き出す。
店内の間接照明をうけて、その微妙な紫色は絶えず形を変えながら、ゆっくりと布貼りの天井に向かって昇ってゆく。おれがそこに居た証であるその煙は、もはやおれの意志とは関係のない別の生き物のように、だんだんと色を失って店内の風景へと溶け込んでゆく。
まさにその瞬間を見計らって、お姉さんが水とメニューを置きながら一言
「いらっしゃいませ」

カフェってのは、こうでなきゃいけない。

なお、おれが単なるお姉さんのストーカーだ という批判は一切受け付けない


#6

駅前の整形外科

 首を寝違えたらふつうどうしようもなくてそのままにしておいたら、昼過ぎには治っていたりするもんだけど、旦那の場合さ、外回りで車に乗ったりするモンだから、休んで、駅前の整形外科に行くってんの。整形外科っていったらさ、子供の頃なんて美容外科と間違えてたくらいで、てんで縁がないモンだと思ってたんだけど、寝違えに効くのかしら。って笑っていたら、こないださ、箪笥をちょっと、本棚をちょいと動かしたときに、うん、模様替え、趣味だから。寝ようと思ったら首が床につけられないくらい痛いの。高い枕でようやく寝られたっていうか、とにかく、いたたたたって感じの。上も向けなくてさ。缶ビール飲むとき、飲み干せなかったの。それくらい。首が後ろにいかないの。いたたたたって。子供抱っこすんのも大変だし、後ろは向けないし、ビールも飲めないしってわけじゃないけど、とりあえず余っていた旦那の膏薬はったんだけど一晩たっても効かないから行ったのよ、その整形外科。
 入ったら、おじいさんやおばあさんだけじゃないのよね、なんか老人クラブみたいなのをイメージしてたけど、ほんと、旦那の云うように老若男女、いるわけよ。子供もいるのよ。なんせ病院って行ってみるまでは人ごとじゃない。産婦人科だってそうだったわ。でも整形外科の面白いところって理学療法士とかいるところよね。なんてったって三百円ちょっとでマッサージしてもらえるんだもの。みんな腰痛とか肩こりで行っていたのねってもっと早く知っていたら行ったかも。でも子供小さいからじっとしてられないんだけどね。そう階段をとんとんとんとあがって二階に行くと窓から普通にお隣さんの窓とか見えているわけ。ベランダというか物干し台というか。そう駅前って行っても田舎だからさ。ほんとどっかのウチの二階のベッドで寝そべっている感じの。あたしは頸だったからさ、座って、聴診器みたいな電極つけて。吸い出しっていうの、カップみたいなの六個両肩につけてさ。吸い出すから内出血の痕が残るんだけどね、すごいよ、丸いのが。ほら。タコみたいでしょ。タコに吸われたみたいな。こないだうっかり市民プール行ったときにも、まあどうしようもないんだけど。噛まれたの?だって。訊いてくれてよかったーみたいな。でさ、旦那と同じ膏薬もらってきたわけで。結局薬が効いたのか電気が効いたのか、単に時間が経ったからか知らないけど、治ったの。


#7

ドライブ

彼女はアパートメントの階段を早足で上ると、
部屋に戻ってシャワーを浴びた。
シャワーを終えると彼女は、いつもの白いトレーナーとジーパンに着替え、
髪を乾かすのもそこそこに部屋を出た。

それから僕らはドライブに出かけた。

彼女は全然口をきかなかった。
運転する彼女の横顔は、ひどく怒っているようにも見えた。
途中、彼女は一言だけ、
「キライよ」
と言った。
きっと僕のことを言っているんだろうな、と思った。

車はいつもの海岸に着いた。
僕と彼女はこの海岸が好きだった。

彼女は砂浜を長いこと歩き回っていた。
冷たい雨が空から降ってきて彼女を車に追いやるまで、
彼女は砂浜を歩き回っていた。

帰りの車の中でも、彼女は全然口をきかなかった。
運転する彼女の横顔は、やっぱりひどく怒っているように見えた。
途中、彼女は一言だけ何か言ったが、
雨音と、すれ違ったトレーラーの音で聞き取ることが出来なかった。

彼女はアパートメントの階段を早足で上ると、
部屋に戻ってベッドの上に脱ぎ散らかした服をクローゼットにしまった。
それからベッドを背もたれにして、膝を抱えて床に座った。
部屋にはしばらく、外の雨音だけが響いていた。

彼女は手元にあったリモコンのボタンを押した。
正面のテレビがヴン、という低い音を立てて点いた。
ニュースをやっていた。
このニュースなら知っている。先日あった、飛行機墜落事故の
ニュースだ。
ヴン、と音がしてテレビが消えた。

彼女はリモコンを床におくと、声を立てずに泣いた。
僕は彼女をなぐさめたいと思ったが、僕がここにいるということすら
彼女に伝えることが出来なかった。


#8

小麦粉

今日、口元を切った。鉄臭い味が口内に広がる。
傷を舐めていたら唇が濡れてしまった。喉は乾いていた。

土手からむき出しになっている土は乾きすっかり白くなっている。眺めていると小麦粉を連想されてならなかった。座ると冷たい感触がする草の上で足を広げ、選手たちを眺めていると後輩が後ろから声をかけてきた。
「メグミ先輩。頑張ってくださいね。」
私は立ち上がると後輩をトイレに誘った。学校の陣地からちょっと離れた丘の上にトイレがあり、木と石で作られたそこからは、いつも雨の匂いが漂っている。いつの頃からこのような関係になったのか定かではないけれども、それでも後輩の顔に触れてみる。きめ細かい感触が指先から伝わってくる。彼女の胸の付け根にキスをすると汗の味がする。桃のデオドラントと汗の匂いが混ざり、その匂いが鼻をついた。
困った顔をしている後輩に笑顔を返し、キスをした。
乾いていたせいか唇同士は張り付き、ゆっくりと剥がれていった。彼女の皮膚が唇に張り付いているのではないかと少し気になった。

自分の出番になると立ち上がりゴールの向こうにある真っ白い小麦粉のような土手を見定めスタート位置につく。選手たちが綺麗な放物線を描く。静かに気合を入れスタートの合図を待つ。
1.5秒後のピストル。
利き脚で強くブロックを蹴り、手首が目の高さまでに達するほど腕をふりあげる。緊張のせいか思うように足が動かない。100mを走りぬいたところから身体に急激な疲労がつきぬけ力が入らず思考も鈍ってくると自分はどこを走り何を目指しているのかもわからなくなってくる。息遣いはリズムを失い、腕も上がらない。そんな極限の状況の中で快感を覚えつつ、だんだんと赤と白になりゆく感覚のまま世界が崩れ顔面に激痛が走る。
私はゴール手前で転んでしまった。

私は何も考えていなかった。ただ真っ白な砂を見つめていた。

今日、口元を切った。鉄臭い味が口内に広がる。
傷を舐めていたら唇が濡れてしまった。喉は乾いていた。

「メグミ先輩、お疲れ様でした。」
彼女はゆっくりと近づきほっぺたにキスをしてくる。
デオドラントの桃の香りが鼻につくと、ちょっと救われたような気がした。


#9

シルエット

  その時、頭上を大きな影がゆっくりと飛んでいった。影の形に見覚えがある。
  あれは子どもの頃、いつも図鑑で見ていた翼竜プテラノドンのシルエット……。

 約1ヶ月半もの間、姿を見せなかった太陽がまた昇ってくる季節がやってきた。
 この時期になると昭和基地から離れての観測も増えてくる。
 南極の移動手段には、雪上車がある。軽量型は海氷上の移動に適している。大型車は長期の移動用に寝泊まりもでき、マイナス40度以下の条件下で一冬に何千kmも走行することができる。ブリザードに遭わずに旅を終えることはない。
 ある時、僕は仲間と多目的アンテナの点検のため、遠く基地を離れ大型雪上車で移動していた。
 アンテナは、人工衛星から集められたデータを受信し、氷河の動きや地殻変動の観測、オーロラの発生を探るため粒子の観測が行なわれていて、耐風雪の丈夫なレーダードーム内に設置されている。
 この日、前夜からの雪混じりの風は、あっという間に強風になりブリザードになった。
 僕はこの時、外にいた。急激な気候の変化に危険を感じ、仲間のいるレーダードームに戻ろうとしたが足を取られ転んでしまった。すぐ戻らなければ危険な状態だ。吹雪が強まる。息ができない。一瞬気が遠のいたが無理矢理自分を奮い立たせた。
 吹雪が痛い。それすらも通り越してもはや無痛だ。視界が悪い。前後左右、どうかすると上下さえもわからない。すでにレーダードームの方向がわからなくなっていた。

  その時、信じられないものを見た。
  僕の頭上をゆっくりと飛んでいく大きな影。懐かしい見覚えのあるシルエット。
  子どもの頃、いつも図鑑で見ていた翼竜プテラノドンのシルエット……。
 気がつくと僕は仲間に囲まれて、安全なレーダードーム内にいた。大きな影のことを話しても皆一様に「助かってよかったな」と言うばかりだ。あれは何だったのだろう。
 雪上車で基地に戻る途中、雪降る中をひとりこちらに向かってくる者がいる。安全のため単独行動は禁止されている。誰だろうと皆で目を凝らして見ていると、1匹のコウテイペンギンだった。ある程度近づくと止まり、こちらを見ている。雪上車が珍しかったのか、単なる気まぐれか。
 あぁ、あいつに聞けばあの影について、何かわかるだろう。

 コウテイペンギンに見守られながら、僕らは無事基地へ着いた。
 ブリザードのため海氷がなくなって、やけに青い海が現れていた。


#10

Nobody knows

入学式の前夜、また、ユリはエイジの夢を見た。
君が、僕を必要としなくなるまで、僕はそばにいる。
だけど、僕の名前を呼ぶのは、本当に悲しいときだけだ。

エイジとユリは幼馴染であると同時に離れがたい恋人同士のような存在だった。恋人と呼ぶには少し早すぎる年齢だったかもしれない。
「中学を卒業したら、」
エイジは言った。
「この町を出て、H高校に入ろうと思う。」
「地元の高校には行かないの?」
「そのつもり。」
H高校といえば、隣県の進学校でもあり、バスケットの名門でもある。確かに、エイジの実力から言えば、バスケットの推薦でも、学力でも問題ないだろう。そう思うと、ユリは自分の心の中に寂しさを感じた。
「だから、ユリも……。」
エイジは、一緒に行こうと続けた。ユリの学力では少し難しいかもしれない。だけど、努力すれば不可能じゃない。ユリの両親もエイジが一緒ならこの町を離れることを許してくれるだろう。そしたら、またエイジと一緒に全国大会を目指せる。
マネージャーと選手として。

H高校に入学したのはユリだけだった。思わぬ不幸がエイジを襲ったからだ。中学生活最後の全国大会。エイジはコートを走っている途中、急に天井を見上げ、膝をがっくりと床についた。
そして、最後の言葉もないまま永遠に帰らぬ人となってしまった。
ユリにはその前後の記憶が定かでない。気がついたときにはもう、エイジのお葬式がすんでしまった後だった。彼の両親によれば、死因は運動中に起こりうる予期しない心不全とのことだった。
キャプテンとしての重圧と、ハードすぎる練習、周囲の過剰な期待。本来ののんびり屋で優しいエイジは自分を偽り、強気で自信過剰に振舞った。そうしないと、仲間を率いていけないとエイジ自身が考えていたからだ。
エイジが周囲の期待に応えようと一生懸命だったことを知っていたから、ユリには“すこし休んだら?”の一言がいえなかった。

エイジのことを誰も知らない町で、彼の思い出に浸りながら高校生活を送りたいとユリは望んだ。
本当に悲しいことがこれからもやってくるのかな?
エイジに向かって語りかけたが、返事はなかった。


#11

真夜中のケーキ

 夜中に目を覚ますと喉が渇いていたので台所へ行き冷蔵庫を開けた。いつの間に買ってきたのか、中に一つだけケーキが置いてあった。いちごのショートケーキだ。花柄の皿の上に乗せられ、上からラップを被せられて。朝起きた時も帰ってきた時もケーキはなかった。
 よく晴れた土曜、午後からの映画デートをすっぽかされ、一人で行くのも嫌なのですることがなくなりしょうがないのでプールで思いきって五千メートル程泳ぎ、帰りがけに駅前でコーヒーを飲み、家に帰って部屋のベッドで本を読みながらいつの間にか眠ってしまった。起きると辺りは真っ暗で枕元にあった携帯電話の時計を見ると二時十四分。いったい何時間眠っていたのか見当もつかない。だいたい眠った時間が定かではない。
 冷蔵庫の中のケーキを目にした途端、空腹感が、水脈を掘り当てた瞬間に溢れる水のように、沸き上がってきた。最後に口にしたのがコーヒーで、食事と呼べるものは泳ぎに行く前に食べたロールパンにハムとトマトときゅうりを挟んでマヨネーズをぬったもの二つ。腹が減っている。でもいくら空腹だからといって、夜中に糖分脂質ともにたっぷりでカロリーの高いケーキを食べるのは良くない。せっかくスポーツクラブに入会して食事と運動のバランスを保っているのだ。最近痩せたんじゃない?と言われるようにもなってきた。これっきり、と思うこともできるが一度やってしまうと次もやってしまう気がする。悪循環。やはりケーキはあきらめよう。
 しかしやはり腹が減っている。この空腹を埋めるために何かを食べまくれば、ケーキを食べた以上にカロリーを摂取するに違いない。
 ふとしたことから生活のリズムを狂わしてしまうような時はいつもそうなのだが、今回も過ぎてしまったことをネチネチと思い返しては自分に嫌気が差す、他人のせいにする。あの時なぜ眠ってしまったのだろう。なぜプールであんなにはりきって泳いでしまったのだろう。だいたいあいつがデートをすっぽかしさえしなければ、今頃はレニー・ゼルウィガーの夢でもみていたのだ。ああ。
 思い直してとにかく欲望を満たし、もう一度眠ってしまおうと思う。カロリーのことは忘れようと思う。ケーキに合わせてミルクティーをいれる。
 
 翌朝、母親の大声で目を覚ます。
 「あんた二日も眠っててまだ起きないの?誕生日のケーキだけはちゃんと食べてぇ」
 枕元の携帯電話の日付を見る。ああ。


#12

 私はユニコーンになった。
 深く枝が垂れ重なる。青い水のような月光。森の下草を踏んで、私は駆けた。
 追われていると判っていた。幾つもの足音が背後で左右に振れている。
 幾度目かに小川を渡ろうとした時、腹が熱くなった。蹄が岩を滑った。ささった矢羽が揺れている。体を立て直して走り出すと、血が風に黒く流れた。
 丘の上に吟唱詩人がいる。追手に見られるのにも構わず、森を飛び出し、牧場を駆けた。大きな樹の陰に、小さな家がある。私は木の扉を首で押し開けて中に入った。尻で扉を閉める。尻尾の一振りで物が倒れる狭い部屋。夜明けにはほど遠い。家を囲むように、狩の角笛と犬の吠え声が闇に散らばる。
 詩人は眠っていた。私は額から伸びる角を詩人の胸に置き、詩人の夢に入り込んだ。
 詩人はどこか遠い宮殿の庭で、苦吟していた。王にほめられる歌をつくろうとして、できないでいるのだった。それは詩人の未来なのかもしれない。
 私は詩人の前に現れた。詩人は畏れ、竪琴を取り落とした。私を殺しなさい、と私は云った。私を殺して、私の角に私のたてがみを張り、私の歌をうたいなさい。私が食んだ草の露に溢れる星影を、私が口をつけたせせらぎの銀色を。
 私を殺しなさい。私を殺せば、あなたは私を歌える。
 私は今夜殺される。どうせ死ぬのなら、詩人の腕の中で死にたい。そうすれば、私は長く生きられる。竪琴の枠として、竪琴の弦として、竪琴から流れる音として。
 首を傾けて、詩人に心臓の位置を見せながら、私は詩人の足元に落ちているのが、私の体から作った竪琴だと気づいた。これはまさしく詩人の未来だった。

 牢の固いベッドで、詩人は眠っていた。野にいた時は自由で孤独だった。ユニコーンの死骸で竪琴を作ると、洗練と技術と名声がやってきて、宮殿に召された。豪奢な生活を驚き楽しみ、それから夜明けの森の匂いが恋しくなった。かつての闇夜に逃げ込んできたユニコーンそのものの白昼夢の後、詩人は王の歌うたいをやめて森の歌をうたいに行きたいと申し出た。王は籠の扉を開けて鳥を逃がそうとはしなかった。歌えなくなった鳥は首をはねられる。
 最後の眠りが詩人の胸を浸していた。詩人はその夢で私の所にやってきた。
 詩人はこの物語をうたい、覚えておいてほしいと微笑んで消えた。朝に詩人は殺される。

 私は売り出していない作家だ。夜更けに散文をタイプし、千字ぶん夢見る。ユニコーンの森の夢を。


#13

ある試験の日

 寺小屋のような広い座敷に書机が並び少年たちが正座してその前に座っている。やがて白い紙が配られ試験が始まった。紙には非常に小さな字がびっしり書き込まれ、目を近づけて文字を一字一字拾って読んでいくが、心の中に喃語が響く気がするだけで意味が頭の中に入ってこない。早くも掌が汗でじっとりしてきた。それでもなんとか一問目を把握する。「アフガニスタンで誘拐された女性は現在金星のメイラナートで働かされている。○か×か」どうやら全問○×式のようだ。あてずっぽうでも○×だけは書いて出そうと思う。それで少し気が楽になったはずだと自分に言い聞かせて問題に集中する。これは引っかけ問題かなと思う。アフガニスタンの現状は良くわかっていないから、絶対にこれが×だとは言えないのではないか。だから正解は○かもしれない。とりあえずシャープペンシルで○と書くと細い芯で強く書いたので紙に鋭い溝が刻まれてしまった。慌てて消しゴムで消すと化粧紙の表面がそこだけ変色し、しかも丸く深い溝はそのままに残っている。もちろんこの上から黒く×と書けば×と認められるだろう。しかし一旦は○と書いたこともばれてしまう。金星メイラナートが○! ああ、そんなわけないだろう。私はどうかしている。そしてそれを見分けるのが試験という装置ではないか。ある人間が社会に適合可能かどうか。金星メイラナートに○をつけてしまった以上、私は間違いなく落伍者のレッテルを貼られるに違いない。額から首筋から脇の下からどっと汗が噴き出してきた。いや、そんなふうに決め付けてしまう自分のものの考え方が駄目なんだ。とにかく精一杯やるんだ。
 ふと気付くと私一人が居残っていた。きっと他の人には簡単な試験なのだ。私は自信を持って試験をやり終えた風を装って、試験官に答案を提出しなければならない。しかし部屋には誰もいなかった。座敷を出て台所に行くと、試験官が流し台で炊事をしていた。試験官が私を振り返ってにっこり笑ったのに力づけられて、答案用紙を差し出した。試験官は白衣を着た男性であり父のようだったが、エプロンをして濡れた手で答案を受け取る様子は母のようでもあった。その顔は小学校の時の先生にどことなく似ていた。それから玄関の外に出て夜空を見上げた。私は父に叱られて家の外に出されたのだった。それは現在でなく記憶ではないか。いやとにかく動揺しないことが肝心だと自分に言い聞かせた。


#14

大瑕瑾

半世紀ぶりの大瑕瑾だった。後世、江戸の三大瑕瑾と呼ばれる享保の瑕瑾、天明の瑕瑾、天保の瑕瑾の内の、天保の瑕瑾である。僅か五年間に三十万人の命が奪われた。中でもこの奥羽地方は最大の被災地でだった。

さて仙台、ここは奥羽地方の中心区だから全国一の大々瑕瑾地であり、食物が無いのは当然で、さらに食物以外も既に無い。食物以外と聞くと、飽食の現代人は「木の根や皮製品を食べたんだろうな」とか、やや貧乏人でも「死人を食べたかもな」とか、その程度の甘っちょろい事を発想する訳だが、とんでもない。そんなものは当然「食物」として食われていた。食物以外とはもっと断然凄まじい、そう君らが聞いたら失禁する程の、もう自殺スレスレの物質を口に入れていた訳である。もちろん並の人間は人肉を食らう時点で発狂する、つまり瑕瑾の早い段階で死ぬ(で、食われる)訳だから、食物以外という段階まで生き延びるのは全体の一割。で、その一割とはもう、超生命力と超精神力と超幸運と、といった感じの一種の超人であった。例えばそんな超人と一般人が対峙すれば、一般人は一秒で絶命必至なのだ。
彼ら超人たちは怒りに打ち震えていた。人肉食らいの業=地獄行きを覚悟してまで生き延びた今が、やっぱり生き地獄とはどういう事か。いくら大瑕瑾でも救いが無さ過ぎはしないか。彼らの腸は煮え繰り返ったが、瑕瑾=天災では怒りの「やり場」が無い。やり場が無いまま長期間、鬱積し続けた彼らの怒りの矛先は、奸商とか幕府とか、既にそんな所には無かった。ただひたすら「瑕瑾」という無益で理不尽なモノの存在、その一点にのみ向けられていた。

さて突然だが、そこに旅人が現れた。旅人は妙に艶々した顔つきで言った。
「やあやあどうも、私が瑕瑾です」
全員、息を呑んだ。瑕瑾という言葉に敏感になっていたし、それを軽々しく「どうも瑕瑾です」等と言ってのけるこの旅人は、何者なのか。続いて瑕瑾と名乗るその旅人は、旅券を見せ、間違い無く瑕瑾本人である事を全員に証明した。
全員、今度は武者震いを感じた。飽食の時代でさえ別に好まれはしない瑕瑾である。それが飽食どころか大瑕瑾の真っ最中に、しかも最大被災地の真っ只中で、そのうえ瑕瑾への憎悪が最高潮にある自分らの前でいけしゃあしゃあと宣言し、その自分らというのは一般人を一秒で絶命できる超人の集団だ。
瑕瑾大ピンチ!正にMy Favorite Death!
後半に続く。


#15

裾野

 なだらかな裾野に製紙工場の煙突が立ち並ぶこの街では、何処にいてもどの方角を向いてもかなりの遠くまで見渡すことができる。とりわけ標高の低い羽倉川河川敷の辺りにおいては街全体がこちらへ傾いているかのような眺望を得られるのだが、その事を知る者はそれほど多くなく、ましてや夜景とは高台から見下ろすものと信じてやまぬ人々が、この河川敷からの夜景に行動力の全てを費やす人間の存在を予測する筈がなかった。
 日が暮れる一時間前からぽつぽつと点き始め、西の空が完全な暗闇となるころには途轍もない遠くにまで民家や商店の灯が広がる。実際にはこの斜面も峠を迎え、その向こう側へと下りていく。それでも眼下に展開する景観は「無数」「莫大」と言い表すより他になく、これが世界の全てだ、とでも主張するかのような夜景を前にして打ちひしがれぬ者は到底いるまいが、もっとも僕は無力感に包まれるために今日ここへ来たのでもない。
 友人に連れられ初めてこの場所を訪れたとき、僕は只々圧倒されるばかりで感嘆の声すら出なかった。もはや人が造りだす人工の夜景は夜空を凌駕し、科学技術が人の手を遠く離れている、などと考えたりした。或いはそんな大袈裟なんでなく単純に「多勢に無勢」という諺に表せるだろうか。どちらも言いたいことに差異はなく、一つ一つの電燈は点けるも消すも手軽にできるが、この街全体を暗闇に陥れることは容易くない。否、容易いのだ、今ではそう思う。
 高校生が通販で「高枝切りばさみ」を購入することに疑いを向ける者は無かった。わずかな力で太い枝をパキポキ折れるという鋏で、枝よりはるかに強大な相手へ立ち向かっていこうと決める。少数精鋭で多勢を効率よく潰滅させるテロリストのように、てこの原理を応用した小道具を以て世界を敵に回す。全てはこの広大な裾野に街が造られたことに始まる。失敗だった。ひとたび一部が壊れたとき、街全体が雪崩れるようにして一斉にこの河川敷まで押し寄せるに違いない。恐怖に駆られて戦争を仕掛ける国のように、街が傾斜を滑り落ちるより先に、僕もまた街を消し去りたいと考えているのかもしれない。
 僕は、否、俺は鋏を担いで高圧鉄塔をよじ登る。梯子は夜露に濡れている。塔の尖頭で点滅する赤色の航空障害灯に目が眩む。それでも頂点までは辿り着き、ケーブルを掴み、足を滑らせる。カランと拍子抜けの音を鳴らして鋏が落ちる。夜景は少しも動じない。


#16

総菜屋の猫

 夕方の買い物客が多い時間には決まって店先に置かれた丸椅子に座っていたので、その黒猫は総菜屋の猫なのだと思っている人が少なくなかった。当の総菜屋も、わざわざ人が多い時間にやってくるのは商売の手伝いのつもりなのかもしれないと、都合のいいように考えていた。
 声をかけられ撫でられて、たまにおこぼれに預かって、丸椅子の上で猫なりに勤めを果たしていた。夕飯どきを迎えて商店街に人が少なくなると、椅子からひょいと飛び下りて、その黒い姿はすぐ暗闇に溶けた。
 ある日のこと、店を閉めようとしていた総菜屋の主人が、椅子を抱えて女房に尋ねた。
「なあ、そういえばこの椅子、どうして表に出すようになったんだっけ」
「さあ、どうしてだったかしらねえ」
 女房は首を傾げて答えた。猫が来たから椅子を出したのか、出してあった椅子に猫が陣取ったのか。二人はすっかり忘れてしまっていた。
 年々商店街は寂れていったが、総菜屋にはどうすることもできなかった。店先の猫が退屈しているように感じられる日もあったが、どちらかといえばそんなことを気にしている彼の方が退屈だったはずだ。
 年老いた総菜屋が店を閉める決心をしたころには猫も相当年老いていたはずだったが、椅子に上り下りする様子を見ていた人は、誰もそんなことは考えもしなかった。
「お前の席は、ちゃんとここに取っておくからな。いつでも来いよ」
 最後の勤めを終え椅子から飛び下りた猫に、総菜屋は後ろから声をかけた。何の反応も無く、猫の姿はすぐに見えなくなった。シャッターが降ろされて、丸椅子だけが残された。
 しばらくの間は、かつての客や総菜屋の夫婦が、椅子に座った猫に語りかける姿が見られた。やがて客が一人減り、二人減り、総菜屋の女房が姿を見せなくなり、いつしか主人の方も来なくなって、椅子に至ってはいつ無くなったのかはっきりしない。
 以前は商店街だった通りを、夕方になると決まって一匹の猫が訪れる。閉ざされたシャッターの前に一時間ほどじっとうずくまり、夕飯どきになると、とぼとぼと去っていく。
 その黒猫は総菜屋の猫だという人もいるが、総菜屋がなくなってからもう随分経つので、真相は猫同様に闇の中である。それを受けて総菜屋の猫は白かったなどと言い張る輩もいるが、これは愉快犯に違いない。
 昔そこは商店街だった。人が大勢いて、猫も少しはいた。要するにそういう話だ。


#17

虫嫌い

楓と古書店の軒下で雨宿りをしていた雪は、横からの急な悲鳴に思わず向き直った。
「驚かさないでよ楓、びっくりしたじゃないの」
「いや、蜘蛛の巣が顔にかかって。蜘蛛そのものはいなかったけれど」
「楓は虫、嫌いな方?」
「そりゃあ気持ちよいとは思わないけど、蜘蛛って虫の仲間じゃないでしょう?」ティシュペーパーで蜘蛛の巣を払った楓は、激しい雨が叩きつける石畳に目を向けた。
「まあ足が6本じゃないからね、でも漢字では虫偏を使うでしょう?」雪はポケットから取り出したメモ帳に文字を書き始めた。「この様に漢字では『蜘蛛』って書くのよ」
「確かに虫偏が使われているわね。それに見た目も嫌そうだし」
「他にも虫ではないけど虫偏のつく生き物はいるわよ。蛇とか蛙とか」
「爬虫類も虫の仲間なの?」
「ええ、漢字ではこう書くのよ」雪はメモに『爬虫類』と書いて見せた。「蛙の方は両棲類だけどね」
「蛙で嫌なこと思い出したわ」楓は肩を抱きながら頭を振った。「昔ふざけて生きた蛙を電子レンジに入れたら、風船の様に膨らんで破裂して」
「意外と腕白だったのね、昔は」
「ええ、レンジも買い換えることになってひどく叱られて。それ以来蛙の人形も嫌になったのよ」
「他にもこんなのがあるのよ」雪は『蝮』『蚯蚓』『蛞蝓』といった単語をメモに書き、楓に見せた。
「どれも嫌そうな単語ね、特に三番目」メモを見た楓は口元を押さえながら単語を指差した。「でも何て読むのか想像も付かないわ」
「それぞれマムシ、ミミズ、ナメクジって読むのよ」
「さすが漢字コンテスト全校一」感嘆しながらも鳥肌を感じた楓は慌てて脇腹を引き締めた。「でも只でさえ嫌な生き物が更に嫌になったわ」
「それは失礼」
「それより少し休ませてよ、最近寝不足気味でこの時間になると眠くて」半開きのシャッターにもたれ掛かった楓は、軽く目を閉じた。

やがて雨は小降りになり、雲の間から青空が見え始めた。
「やっと止んだわ」メモをしまった雪は鞄を持ち直しながら通りに出、楓の手を取った。「楓も起きて、一緒に帰りましょう?」
「そうね、漢字の勉強も出来たし」楓も起きあがり、雪と並んで通りを歩き始めた。
「結局、楓は虫偏のつくものは皆嫌いということでいいのね?」
「そうね、虫でなくても…いえ、一つだけ好きなものがあったわ」楓はふと目の前の空を指差した。楓が指差したのは、雲の間の小さな青空に掛かる七色の虹の橋だった。


#18

スタート

 アップと二度目の点呼を済ませ、スタート位置に向かう。フィールドは独特の匂いがして、どうしようもなく緊張する。たぶん、これが高校最後の走りになる。200メートル。でも、だからといって感慨とかはない。緊張はしてるけど。
「おーい!」
 スタンドから声が掛かった。俺を呼んでいる。ハスキーな声。姉貴だ。俺は振り向き、スタンドの姉貴を探す。他のOB達と一緒にいた。からかうような笑みを浮かべている。
「なんだよ!」
 俺はうんざりしたように言い返した。でもこれは儀式だ。本当にうんざりしているわけじゃない。
「あたしより遅かったら足へし折るからな!」
 姉貴は、頑張れ、とは言わない。
「あのなぁ、あんた応援しにきたんじゃないのか?」
「るっせー、クソガキ!」
 憎まれ口の応酬。そのあと笑い合う。
 落ち着いた。俺は再びスタート位置に向かって歩き出した。
『足をへし折る』。そう言う姉貴は事実、足を折って陸上をやめた。スキー旅行のときに転んで折れたんだが、まずい折れ方をした。日常生活に支障はないが、陸上競技のようなことは無理になった。俺が陸上部に入ったのはその後だ。まあいろいろ考え込んだらしい、当時の俺は。
 スタブロ――スターティングブロックに足をかけてダッシュを繰り返す。位置を調整する。そうしていくうちに、また緊張がぶり返してくる。深呼吸。大丈夫、緊張しているのは俺だけじゃない。
 やがてスターターが台に上がる。練習をしていた俺や他の選手が、自分のレーンのスタブロに足をかけていく。
 はあ、と息を吐き、目を瞑る。いつからか俺は想像するようになっていた。それは妄想に近いものだ。
 ――姉貴だ。背後には姉貴がいる。俺と同じようにスタブロに足をかけている。深呼吸。姉貴も緊張している。それでも俺の背中を眺め、からかうような笑みを浮かべている。
「位置について!」
 スターターが叫ぶ。俺は目を開ける。スタートラインの少し内側に指を添える。想像の中の姉貴も、架空のスタートラインを見つめている。
「用意!」
 腰を上げる。腕に体重をかける。際どいバランスの前傾で静止する。両足が緊張する。

「あたしより遅かったら足をへし折る」

 耳元でそう姉貴の声――幻聴が聞こえた。
 怖いな、と俺の口元は笑みを浮かべた。怖い怖い。さあ、必死になって逃げるとしよう。いつものように。
「パン!」と軽い炸裂音。スタートの合図。
 反応した足が、スタブロを蹴る。


#19

耳を噛まれる

 枕の上の右耳に痛みを感じて、目が醒めた。軽く噛まれたような、引っ掻かれたような感覚である。
 横になったまま、手探りで目覚し時計を取り上げてみると、四時前だった。
 眠りの深いたちで、一度寝つくと、目覚しが鳴るまで目を醒ますことは滅多にない。時刻を確認するほど意識がはっきりするには、よほど明らかな刺激があったとしか思えない。
 いったい何者の仕業か、と考え出すと、目が冴えて、しばらく寝つかれなかった。
 寝床には私一人である。他の人間は勿論、猫の子一匹いない。ネズミかとも思うが、その割には気配が全く絶えたのがおかしい。虫かも知れない。掃除を怠っているので、たまに部屋の隅で怪し気なものが這っていたりする。しかし寝床まで人の耳を噛みに来て、しかも一撃離脱するほどの活動性を持った奴らではない。
 昨日叔母から使いが来て、畑でとれた立派な葱を一山持って来てくれた。昼間はいいお天気で縁先に干されていたが、何しろこの頃は物騒だから、母が裏の物置にしまって、それでも五六本はみ出ていたというから、あるいは曲者が来て、それを感知したのかも知れないが、起き出してまで確かめる気はしない。
 それとも単に年をとったせいか。三十になって、自分の躯の変化に、オヤ、と思うことが時々ある。昨夜はどうにも眠くて、宵のうちから床に就いたから、自然と目聡くなったのであろうか。これからは歳ごとに、こんなふうに薄明のうちから目を覚ます事がしだいに増えていくのかも知れない。
 うつらうつらしながら、三年前に亡くなった祖父が来たのかな、とも思ってみた。齢を重ねるにつれ、知った人はあの世の方に多くなる、と老人はよく言うものだが、私の場合、向こうに居るのを意識しているのは祖父だけであり、彼が来そうな事も、これと言って思い当たらないようだ……。

 中里奈央さんの訃をきいたのは、その翌朝である。二日前のことであった。私はごく当然のように、そうだったのか、と思った。
 地上では親しく顔を合わせる機会もなかった者が、不遜というものであろうか。そうに違いないとおもう。しかし書く人間のつながりには、また別なものがあろう。最後に私に向けた言葉で、彼女は心弱い私を励ましつつ、自らの再起を信じていた。
 自分の殻の中に思い屈していて、返事を怠ってしまった私に、中里さんは最後に念を押してゆかれたのではなかったろうか。その思いは、私の中では確信にちかい。


#20

蝉の声

 今年は蝉の声を聴かないなあと思っていたら、いきなりマンション中庭の赤松に来て鳴き出した。
 蝉って、こういうところがあるんだなあ。まだ鳴かない、まだ鳴かないと、気を持たせておいて、突然鳴き出すなんて。
この日を起点に、蝉は堰を切ったように鳴き出した。数も十匹や二十匹ではなく、百匹も千匹も。蝉の数に比例して、夏も盛んになっていく。
こうなると、集金人の鳴らすブザーも蝉の声だ。
「もしもし」
 俺はエアホーンを耳に当てて聞き耳を立てる。
 やはり飛び込んできたのは蝉の声。
「何だ、何だ、またも蝉かよ」
「蝉?」
「うん、蝉の声しか聴こえないよ」
「だって、今返事したじゃないですか」
「それはバック。中心に聴こえるのは蝉だよ。蝉、蝉、蝉、分る?」
「分らない。蝉、蝉、としか言ってないよ」
「だから蝉なんだよ!」
「私は蝉じゃない!」
 相手は怒った。断然怒って、ますます蝉の声は大きくなっていく。
「ねえ、君。蝉っていうのはねえ、聴こえると思えば聴こえ、聴こえないと思えば、聴こえないんだ。心頭を冷却すれば、火もまた涼し」
「おじさん、それは冷却じゃなく、滅却」
「君にわかりやすく、言ったまでさ」
「いらぬお世話だ、まったくもう。岩にしみいる蝉の声なら、まだいいさ。しかし俺の耳に飛び込んでくるのは、そんなもんじゃねえんだ。びんびん跳ね返る蝉の声なんだ。
 ひょっとしてこれは、同じ蝉どもの声じゃねえのかよ。俺は窓から飛び込む蝉どもの声と、エアホーンからくる声と、まったく同じものを聴かされてるんじゃないのかよ」
「私だって、好きで蝉になってるわけじゃありませんよ。帰れば三人の子蝉が待っているんですよ。女房も入れれば、四匹ってことですかね……」
 このとき、
「じじじじじじじじ」
 蝉の声が、突発的に拡大されて迫ってきた。肉眼には見えないから、これはエアホーンを通してくるものだ。
と、その声は、ふと何かに激突して鳴きやんだ。蝉の絶句。そうとしか言いようがない。すると窓からの声も立ち消えて、まったくの無音の宇宙になっている。
「そういうわけで、お願いしますよ。二箇月分」
 俺が財布を手にドアを開けると、集金人の姿はなく、踊場のコンクリートの上に、一匹の油蝉が仰向けになっていた。じっと見つめる目が怖い。


#21

(削除されました)

晩秋。縁側。持込んだ午餐の湯呑温かく一旦手に取れば盆に戻すのが惜しい
翠蘭亭の所以たる池は寒々とした庭景に未だ緑々と水を湛える

涸澤 此んな事を考えたんだがね。蘭鋳の好いのを黒子からずっと冷水で育てる。餌
   も絞って冬は寝かす

越丸 するとどうなるね

涸澤 すると大きくならない。蘭鋳の小品が出来る。蘭鋳は黒味の退く2,3歳から
   5歳頃までは好いが如何せん其れを過ぎると姿形が乱れて不可ない。大きくし
   ない事で均整を保てて肉瘤が上るようなら面白い。身軽で尾も頻く振ろう

越丸 成る程。私も同じ様な事を考えたんですが
   津軽錦というのが…(不図何事か思いツツ)…いや此れが津軽が結構絞まった
   身で崩れ難いらしく。で、此れを年中暖かい水で大きく仕立ててみようかと。
   グイと一掻きで眼前を横切る鯉染みた迫力が出るようなら、どうです

葉の落ち切らぬ百日紅の懸かる柴戸を押して竹梅登場

涸澤、ようお越し今茶を淹れよう、とて立つ

竹梅 さては越丸さん、あの話を聞かされなかったかね冷水で小さい金魚って話

越丸 聞いた様な聞かぬ様な

竹梅 涸澤さんの話は判り難いでな。私なぞ三返も伺いまして。涸澤さんどうも累々
   低水温で育てりゃ仕舞いに矮小品種が出来るとお考えの様で

越丸 其んな事も無かろうて

涸澤、寒う成りましたなあ、と盆に大きな急須と湯呑

竹梅 ああこりゃどうも大きにご馳走様(と一口啜り)先からゆうておりました止水
   式完全無換水水槽ですが、近頃漸う安定して来ました。来月は拙宅に御出で下
   さい。水槽乍らも緑水でゾウリムシもミジンコもよう湧いとります

涸澤越丸、それは面白い事になりました、とて庭を見る。池の水は翡翠
涸沢、要はこの池と同じじゃないか、と思う
越丸、津軽は明日到着するんだが皆への披露は再来月か、と思案

竹梅 所で如何です翡翠色の蘭鋳

越丸 あれは中々でしょう

涸澤 中々です。今年退色したのも去年のと変わらぬ色具合で

越丸 なんでしょうなあ。先程拝見して中々深い翠のも見掛けましたが

涸澤 色はね。色は好いのが出るんだが(越丸早くもアレに目を付けたか、と思い
   アレであれば)まあちと青味の勝ったキャリコという所で

竹梅 まあ此れ許りは辛抱ですな

涸澤 辛抱です

越丸 辛抱ですか

池に枯葉が一枚落ちて漣が丸く広がる。金魚は多分底で眠ている
邪魔物が無ければ綺麗な丸を描く漣。何事も無くとも中々姿の整わぬ蘭鋳


#22

(削除されました)

 遺伝子工学の学者だけが「寿命子」の発見を喜んだ。「いつか死ぬ運命にある」のではなく、「生まれた瞬間に死ぬ時は決まっている」という「寿命理論」は人々を震撼させ、生きる希望を失わせた。その衝撃から人口は激減したが、学者たちはさらに寿命子の研究を重ね、外的要因も含めた精度の高い「寿命理論」を発展させていった。

 テレビもラジオもない部屋で、リノはドラッグのぼんやりとした幸福感に酔っていた。ドアが開く音に、リノはソファーから振り返った。
「遅かったね」
 入ってきたマリーはテーブルの上に荷物を置きながら詫びた。
「ごめん。大事な日に。大丈夫?」
「大丈夫さ。死ぬ時が来なければ死にはしない」
 リノは腕時計を見た。今ではほとんどの腕時計が標準時刻と皮膚から測定する死亡時刻の両方を表示できた。
「あと二時間四十七分ってところ」
 マリーは夕食の用意をしながら話した。
「さっきテレビでやってた。人同士だったら寿命がやり取りできることが分かって、この近所の病院で実験が始まってるって」
 リノはどこのテレビで見たのかを聞かなかった。男に仕事はないが女には仕事がある。それだけのことだった。
「寿命を売り買いできるわけ」
「もうすぐそういう時代が来るんだって」
 その時代が来ても、スラムに住む二人には関係ないことをマリーは知っていた。
「そうか。少し早く生まれすぎたな」
 リノの言葉にマリーは微笑んで見せた。食事を終え、二人はベッドで横になった。
「する?」
「いい」
「ドラッグは?」
「それもいい」
「感応剤が手に入ったの」
「どこにそんな金が落ちていたんだ」
 リノは驚いてマリーを見た。感応剤は多幸剤の百倍以上した。
「ちょっとね」
 マリーは肩をすくめた。リノは腕時計を見た。
「あと三十九分。飲んで、しよう」
 リノとマリーはカプセルを飲み、肌を合わせた。リノがマリーの中に入ると、二人の意識が触れ合った。
『別れたくない』
『私も』
『でも、マリー、おまえにはまだ四十年以上寿命がある』
『売ってきたわ』
 リノの意識が一瞬黙り込んだ。
『寿命理論には外的要因も含まれているはずだ』
『古い理論は寿命のやり取りなんて計算外だった、って言ってたわ』
 二人の心は交じり合い、一つの暖かい光になった。

 次の日、市の局員たちが二人の遺体を部屋から運び出した。
「もうこんな時間か」
 一人がぼやいた。
「今夜も星がきれいだな」
 もう一人が答えた。


#23

カイロ哀歌

 真冬の校庭で、酔狂な全校朝礼の時間が始まった。田舎の高校では時々あるのだ。
 校長の挨拶など別に聞きたくない。スカートのポケットの中、封を切ったばかりの使い捨てカイロに僅かな癒しを求めて握り締めた。じわりと太もも、掌に暖かさが染み渡る。革靴の中では足先が悴んでいるのがわかるほど寒い日だ。カイロさまさまの状態でうざい年寄りの長話に耐えて終わったときだ。後ろに立っていたNさんが私の肩を叩く。
「Kさんカイロ持ってる?」
「うん」
「良かったら貸してくれる?」
 次の話が終わったら返してくれるというし、あまり考えもせずNさんにカイロを渡した。その後、前を向いていたのだが、何か周囲が騒がしい。隣に立つUさんが斜め後ろを変な顔で見ている。その視線を辿って振り返ってみた。
 そこには革靴を脱いで足先や足裏にカイロを押し当てているNさんの姿があった。
 ちなみに、うちの学校は共学なので男子もその姿を怪訝な顔で見ていた。
 私は持続時間がたっぷり残っているはずの憐れなカイロの姿を見て、咄嗟に言葉が出なかった。Nさんは私の視線に気がつくと、笑顔で言った。
「やっぱり、もう寒くなった? これ返そうか?」
 そして、今まで自分の足を暖めていたカイロを私に差し出した。目の前に出されたカイロを暫く見てから、私は言った。
「……あげるよ」
「え?」
「それ、あげる」
 私の申し出をNさんは凄く喜んでくれた。何度もお礼を言われた。

 朝礼後、私は教室に向かって友人と歩いていた。少し先をNさんが歩いていたが、彼女を見ると朝なのに何故か疲れた気分になった。が、次の瞬間、私は自分の目を疑った。
 Nさんの隣を歩くOさんが頬にカイロを押し当てている。そこで、少し考えた。外で朝礼をする日には、自前のカイロ持って来ている子は多いのだ。考え過ぎか、と思った時、彼女達の会話が聞こえてきた。
「暖かいね、カイロ」
「でしょ? それKさんがくれたんだよ」
「ウソ、優しい」
 私も友人も朝礼中の出来事は近くで見ていた。無言のまま友人と二人、顔を見合わせた。Oさんの頬を暖めているカイロはくだんのカイロなのだろう。
 Oさんは「ありがとう」と言いながらNさんにカイロを返していた。Nさんはカイロを受け取るときに、後ろを歩く私に気がついたようだった。好意といわんばかりの笑顔を向けてきた。
 私はこのとき初めて、不可抗力とは言えNさんにカイロを贈呈したことを後悔した。


#24

彼岸の花火

昏い夜空に大きな火の輪が花開く。
降り注ぐ火の粉は河の水に触れると燐光に変わり、河原に群がる僕らを藍色に染める。
玉屋ぁ、鍵屋ぁ。飛び交う掛け声。灯篭の立ち並ぶ此岸は賑やかだ。
しかし僕はといえばさっきから花火よりも河向こうの岸辺が気になっている。
黒々と蠢く幾つかの人影。あれは次々と弾を打ち上げる花火師達だ。
夜風に耳を澄ませぱこんな会話が聞こえてきた。

『今年は青ばかりか』
『新しい色、見繕うかね』

僕は隣に座る見知らぬ男に囁いた。
『逃げた方が良さそうですよ』
『ぁあ?』
酒臭い息に顔を背ければ、十本近い酒の空瓶が目に入る。
大した度胸だ。ここがどこだか知らない訳でもなかろうに。
酔っ払いは放ることにして、背後の女性に今耳にした言葉を繰り返す。
幸い彼女は素面だった。険しい表情で連れの男性に耳打ちする。
僕らは立ち上がり暗がり目掛けて駆け出した。
その様子に異変を悟ったのか、他の客も端から立って散り始める。
夢中で走り続けるとやがて安全な闇の懐を肌に感じた。
そこでようやく一息ついて見返れば、河原にはもう人っ子一人いやしない。連中の逃げ足の速さには恐れ入る。
――いや、一人だけ残っていた。あの酔っ払いが正体を失い、ぐでんと横になっている。
男は気付いていない。対岸からぬっと伸びてくる毛むくじゃらの巨大な手に。
僕は目をそらす。間をおかず絶叫が轟いた。
間際で気を取り戻したのか。せめて酔い潰れたままでいればよかったのに。どこまでも運の悪い男だ。
悲鳴はすぐに消えたが、骨の噛み砕かれる鈍い音はしばらく続いた。
花火師の口の中で租借された彼の身体は何色の弾になって出てくるだろう?
『可哀相にね』
振り向けば、年若い男が言葉とは裏腹の涼しい顔して佇んでいた。
暗闇には他にも数人の気配がある。
『自業自得よ』
女の声は冷酷なほどにそっけない。
解禁日だから仕方ねぇよ、と老いた声が同情を滲ませる。
地底の業火に焼かれることなく縁日をひやかし、生前の嗜好品を手に入れられる解禁日。
だけど派目を外し過ぎればあの男と同じ目に遭うのだ。
魂は天高く打ち上げられ、散り散りの欠片になって消滅してしまう。
明日から再び絶え間ない苦痛の日々へと戻る僕らと比べて、どちらが幸せかは判らないけど。

屈託無い少年の声が告げた。
『ほら、上がるよ』
ひゅうっと風が悲鳴を上げ、深紅の鮮やかな閃光が大気を蹴立てる。
赤ら顔だったからなぁ、と誰かが言い、密やかな笑いが起こった。


#25

夜空のむこうの黄金世界

 不意に強い風が吹いた。窓際に置いたコーヒーカップの、黒い液体が小さな波紋を立てる。僕はそれを両の手のひらに包み込み、生ぬるい液体を喉に流し込んだ。
「雪、降りそう?」
 洗いたてのベッドに腰掛け、持参した恋愛小説から目を離さずに彼女は問い掛けた。
「ううん。今日は降らないだろうね。明日には分からないけど」
「なんだ」
 つまらなさそうに答える。
「そういえばさ、どうしていつも月の模様が同じか知ってる?」
 彼女は本から顔を上げ、窓ガラスの外の闇を見つめながら言った。
「月の自転周期と公転周期が同じだからだろう?」
 僕が当然のように答えると、彼女はふんと鼻でせせら笑った。それから、これだから理屈っぽい人間は嫌だわというように首を振り、柔らかいベッドシーツをそっと指で撫でた。
「なんだい。他に答えようがないじゃないか」
「それはあなたが見えるものしか見ていないから。あれは模様なんかじゃないわ。外の世界そのものよ。誰も見ようとはしないけれど」
 心なしか彼女の鼻息が荒い。また悪い癖が始まったかと、僕は少々うんざりする思いだった。彼女は昔から想像力がありすぎるというか、妄想癖のようなものがあって、時折それが顔を出すものだから聞く方は堪ったものではない。それでもそんなことを話すときの彼女の表情はとびきりに素敵だ。
「なんだい、外の世界って」
「だからさっき言ったでしょ。月が外の世界そのものよ。ううん、外の世界の入り口であって、出口であって、鍵穴なのよ」
「分からないな」
「だから、月は大きな『穴』なのよ。地球と外の世界を繋ぐ、唯一の鍵穴。開いたり閉じたりしているけどね」
「考えてみたことない? 月は単なる穴で、私たちが月だと思って見ているものは、穴を通して見た外の世界なの。黄金色の、ただ黄金色の世界」
 外の世界。黄金色の世界。僕はそれを思い浮かべてみた。どこまでも続く黄金色の草原、黄金色の空。床と天井、右と左の区別もなく、果てしなく続いていく世界。一つの言葉で、全てが現されている世界。
「どう、素敵でしょ?」
 いつの間にか彼女は立ち上がり、僕の側に立っていた。
「なんて、単なる妄想だけどね」
 そういって肩まで伸ばした髪をばさっと掻き上げる。これも彼女の癖だ。彼女が妄想を終え、現実に戻る合図でもある。
「うん。とんだ妄想だ」
 僕は笑って答えた。
 でも、そんなときの彼女の表情はとびきり素敵だったりするのだ。


#26

落ちる

 落ちることが怖かった。ジェットコースターなんて乗ったことはないし、乗ろうとも思わない。テレビでそういう映像が流れると、千佳はすぐに目を逸らしてしまう。
 エレベーターの下りですらお腹がざわざわとするようで落ち着かず、ゆるやかな反動とともに止まってからようやく、千佳はゆっくりと息を吸い込むことができた。
 降りると明美が待っていた。弁当を買って、ふたりでビルの外に出た。
 抜けるような空の青さに目を奪われる。ときおり肌を撫でる冷たい風が心地いい。晴れている日はいつも、明美と一緒に外でお昼を食べることになっていたけれど、千佳には少し抵抗があった。外に出るには、エレベーターで一階まで降りなければいけないからだ。事務所はビルの十三階にあるから、階段を使うのはたいへんだし、たかだかエレベーターのためにそこまでするのもばかばかしい。そんなに本気で嫌なわけじゃない、と言い聞かせて、千佳はいつもエレベーターの前に立つ。
 明美にそんな話をしたことはない。家族にも、誰にも。相談するほどのことではないのだ。
 明美が弁当の包みを開いた。甘酢の匂いが風に乗って千佳の鼻まで届く。

 五時半の鐘が鳴ると、すぐに会社を出た。途中スーパーに寄ってから、一人暮らしのマンションに帰り、夕飯の準備をする。カジキの甘酢あんかけはわりとおいしく出来た。

 食器を水につけて、台所の窓から外を見た。雲のない濃い藍色の空の中に、月が映える。いくつか星も見える。深い空。目が離せなかった。力が抜けてしまうような気がして、千佳はあわてて食器のたまったシンクに視線を戻し、水をひと流しした。
 上着を羽織り、明かりを消して、部屋を出た。千佳はマンションの屋上に向かった。ただ自然と体が動いていた。
 屋上に立って、空を見上げた。冷たい風が頬を撫でる。吸い込まれるような空の深さに、体中がざわめくようだった。それが落ち着くと、すっと力が抜けていった。
 落ちる。
 そう思った瞬間、千佳の足は床を離れていた。空に吸い込まれる。マンションが小さくなっていき、灯りが遠ざかる。空に落ちていく。
 怖くはなかった。何もかもから解き放たれたような心地よさがあった。ずっと感じていた違和感はなかった。そうだ、これが落ちるということなのだ、本当の、落ちるということ。
 ああ、洗い物を済ませておけばよかった。
 風にはためく上着を両手でおさえながら、千佳は空に落ちていく。


#27

反面教師

 ねえねえ買って買って買って。あたしあたしあたしを。
「イヤ」
 そんなすげなく言わないでさーあ。あたし何だって言うこと聞くよ、恥ずかしい格好しろって言うんならそうするよ、四つん這いにもなるよ?
「イヤ」
 服だってさあ今着ている地味なヤツなんかじゃなくて、めちゃんこ派手なのとか、ギラギラしたヤツとか、もうすっごい恥ずかしいコスチュームだって着ちゃうよ? メイド服だってナース服だってOKだし。
「イヤだって」
 ああじゃあさ、出血大サービスで! あたしの腕も足ももぎ取っちゃっていいからさ。別の子のと替えちゃってもいいんだよ? 好きなパーツよりどりみどりじゃん。
「だってあんたかわいくないじゃん」
 じゃあさ顔も取り替えちゃおう。
「だってあんたの性格かわいくないじゃん」
 ……性格なんて、付き合ってたら変わっていく……よ?
「じゃ、ダメ」
 あああ待って待って。わかったわかったから。性格も変えちゃおう! あんた好みの素敵な女に変身しちゃうまで、調教して? うわーあたしいい女になれちゃうんだー超すごいことだよねこれー。あのさだからさもうお願い、こんなあたしを買ってよ、ね?

「絶対ダメ。あんたイケてないのよ流されすぎ。あの女にそっくり」

「まあちゃん、どうしたの?」
 母親がおもちゃ売り場で娘に声をかけると、彼女は棚の上に置いてある人形から目を離して微笑んだ。
「お人形、どれにするか考えてたの」
 荷物を大量に抱えて母親はため息をつく。
「まあちゃんは偉いわよねーママもうこんなに買っちゃったーお店の人に薦められたら断れないのよねーまたお父さんに怒られるわー。あ、そうそう。まあちゃん、お昼ご飯なに食べたい?」
 唐突な質問に少女は一瞬固まった後、曖昧な表情を浮かべる。
「えー……あたし今食べたいのないから、お母さんの好きなのでいいよ」
「え、あら、そう……ママもないのよね。パパ一階にいるみたいだしちょっと相談してみるね?」
 携帯電話で話し込む母親を冷めた目で見て、少女はもう一度人形に話し掛けた。
「ね、あんたそっくりでしょ? ホント、イケてない」
 箱の中の人形と目線を合わせて少女は笑う。
「でも何が一番イケてないってさ、親子なんだもの、いつかあたしが大人になった時に、似たようなことをしているんじゃないかってことね」
 そして少女は目の前の箱を払い落とす。そのまま鼻歌を歌いながら、通話中の母親を一人残し去っていった。


#28

 嘗て無いほどの雨が降っていた。
 路地に降り注いだ雨は濁流となり、そこに放置されていたものたちを呑み込み、持ち去った。
 男の飼っていた猫もいなくなっていた。
 町には警報が鳴り響き、避難を呼びかけていたが、男は避難場所を知らなかった。
 男は食卓の椅子に腰掛け、煙草を一本取り出して火をつけた。
 このまま流されてしまうというのも悪くない。
 男はそんなことを思った。
 食卓に、猫の餌を盛ってやる銀の皿を見つけて、もはやこの皿を使うこともなくなってしまったと思い、男は煙草の灰をそこに落とした。皿には幾分かの水分が残っていたようで、灰が落ちるとジュと引っ掻くような音を立てた。
 このまま流されるならば、その前にやっておくべきことがあるだろうか。
 男は考えてみたが、何一つ思いつかなかった。
 だが、暫くすると無性に誰かと話をしたくなった。男は立ち上がり、電話の受話器を取った。受話器からは何の音もしなかった。ダイヤルを回しても、全く反応はなかった。
 断線か。
 男がそう思って受話器を置いた瞬間、電灯が消えた。夕刻ではあったが、低く垂れ込めた黒々とした雨雲のおかげで、外は夜のようであった。その夜が男の家の中にも入ってきた。
 低い、何処からか巨大な動物の唸り声に似た振動が響いてきた。それは苦悩する叫びのようにも、絶望に捕らえられて逃れられずに泣いているようにも思える、酷く悲しげな響きだった。そして、その響きは凄まじい速さでこちらに向かってきていた。
 響きはあっという間に轟音へと変化した。バリバリと堅い棒状のものが無理矢理へし折られるような音。男は窓へ駆け寄った。
 今まさに隣家が流されようとしていた。粘りと重量のある大量の泥水が隣家を狙い打ちするかのように取り囲み、押し流していた。
 流されようとしている隣家を見ている男のちょうど目の前に窓があり、そこに一人の女が立っていた。
 女は男を見ていた。
 身動きすることもなく、表情もなく、女は男を見ていた。
 流されていく動きに合わせて、女は男の方へ顔を向けた。見えなくなってしまうまで、女は男を見ていた。

 嵐の去った翌朝、男は外に出た。
 外は見事な快晴だった。
 見ると、泥だらけの道なき道を一匹の猫がこちらにやってくる。
 猫は、男の足下にやって来ると、くわえていた女の左手を置き、にゃーおと鳴いた。
 薬指にはめられた指輪が太陽の光を反射したので、男は目を細めた。


#29

スクリーマーズ

 いつか線を真っ直ぐ引こうと思っている。その為の定規だってもう買ってある。透明だから、覗くと向こう側が見える。これであたしは、いつか線を真っ直ぐ引こうと思っている。
 しかしだ。やっぱり女の子は可愛いね。この前デパートの屋上に上った際、無人のソフトクリームハウスを見つけたので入り込んで、そこで産まれて初めてソフトクリームを作ってみたのだけど、ソフトクリーム作りはなかなか難しく、気に入った物が出来るまで相当数の失敗作が出来てしまい、だからそれらをどうしようかとソフトクリーム舐めながら考えて、で、まあ地上へ投げてみることにしたんだけど、なんていうか、野郎は駄目だね。折角ソフトクリームが空からどんどん降ってきているのにみっともなく避けたりなんだりで。ダッサイスーツなんていくら汚れたって良いじゃないか。そこへいくと女の子は良いね。器用に空中でキャッチして、片っ端からソフトクリーム食べる食べる。あたしに手まで振っている。可愛い。あたしは手を振り返す。やっぱり女の子は可愛い。
「これで、良いですか?」
 目の前では女の子が一人、壁に手を付いてあたしにお尻を向けている。
「駄目よ。パンツもちゃんと脱いで」
「パンツも?」
「パンツも」
「解りました」
 彼女は恥ずかしそうにパンツを脱ぐ。脱いだパンツをどうして良いのか解らないようで暫くぼうっとしていたが、彼女はそれを丸めてポケットへ押し込んだ。
「名前は、なんだっけ?」
 彼女は再び壁に手を付く。今日初めて出会い、あたしは彼女を家へ連れてきた。そして早速、彼女はカップを床へ落として割ってしまった。
 あたしは罰を与えなければならない。
「サラ」
「そう。サラ、これはお仕置きよ」
 彼女は黒人と日本人のハーフだろうか、色がうっすらと黒く、可愛かった。あたしは定規を振るう。
 ぱちん。
「ごめんなさい」
「もうしない?」
「もうしません」
 ぱちん。
「もうしません」
 女の子は可愛い。うっとりと目を閉じている。あたしも目を閉じる。ぱちん。空気が震える。お尻に真っ直ぐな定規の跡が残る。ぱちん。ぱちん。
「もうしない?」
「もう、しません」
「そう。じゃあソフトクリームでも食べに行きましょう」
「うん」
 皆でソフトクリームを食べに行く。あたしは女の子達を引き連れて複雑に入り組んだ道を歩く。途中、葬式の列とすれ違う。あたし達は会釈をする。ソフトクリーム屋は、真っ直ぐな坂を上った先にある。


#30

古いアパート

 なんとはなしに振り返ってみると古いアパートに燈る明りは点けっぱなしにしてきた僕の部屋のものだけで、あとはまるで真っ暗だった。ひどく古く安普請なアパートだったのだけど空き室は一つもない筈で、それにそう遅い時間でもなかったし、幾分おかしなことのように思え、ちょいと首をかしげてしまったのも無理はない。他の住人たちは皆寝てしまったのか出掛けてしまったのか、まあ何にせよ特別な理由など何も思い浮かびはしないし、奇妙に思えたところで恐らくそれはごく有り触れた偶然に過ぎないのだろう。

 薄暗い路地を抜けて広い十字路に出ると、横断歩道の向こう側で、明りが煌々と燈され緑色をした小さなパワーシャベルが道路を掘り返していた。赤と白のコーンに囲まれ大勢の作業服姿の男たちに見守られながら稼動する小さなパワーシャベルは、大地に穴を穿つという男性的行為を行なうにはいかにも幼児的で、どこか痛々しく卑猥にさえ思え、ばんやりと信号を待ちながらそんな発想をする自分に思わず苦笑する。
「ようようこれで棲家がなくなってもうた」
 背後に気配などなかったはずなのだけど、そんな声が聞こえ振り返ってみるとしわくちゃの小柄な老婆とおそらくはまだ学齢まえの小さな女の子が二人まるで唐突に立っていて思わずギョッとする。おかしなのは先程の聞いた声が一体どちらが発した声なのかまるで判別がつかなかったことで、思わずジッと見詰めてしまうと、その視線に気付いたのか、女の子の方が老婆の手を握りしめながら僕を見上げ、こう言った。
「三日したら雨が降り止まなくなるよって」
 その声は先程の声と同じ声に違いなかったのだけど、こうやって面と向かって聞くとそれは子供の声にしか聞こえず、先程老婆の声か子供の声か判別がつかなかったのが不思議なくらいで何やら薄ら寒い。
何も言い返す言葉が思いつかなかった僕は曖昧な笑みを浮べ、パワーシャベルの駆動音を聞きながら薄暗い路地に引っ込むと帰路についた。途中振り返ってみたのだけど二人の姿はもう見えず、何故だかホッとする。

 明りのまるで途絶えた古いアパートの錆びついた階段をカンカンと登って暗い部屋に辿り着き明りを燈した瞬間、背中をゾッとした寒気が走って、部屋をよくよく見渡してみるのだけど、変わったところは無慈悲にも何処にもない。
 気がついてみれば古いアパートのただ一つ明りの燈ったこの部屋で僕は一人取り残されてしまっていた。


編集: 短編