第148期 #21
私の子供は、生まれたときから老人だった。
生まれたての赤ん坊の、真っ赤でしわくちゃな顔とは違って、乾いて黄ばんだ顔だった。悲しいような疲れを漂わせた醜さに、若い医師も世慣れたような看護婦も、同様に表情を消した。
「私はこんな子産んでません」
妻は息が抜けたようにそう呟いて、それきり正気の境には戻ってこなかった。
私の子供は育って益々老人だった。二歳の頃には耳に障害があることがはっきりしており、そのせいだろうか言葉も不明瞭だった。
私は子供の世話の大体を乳母に任せていたが、気が向いたときには縁側で子供と二人、寝転んだ。
ふすふす、と頼りない呼吸を繰り返す我が子は、三歳でありながら百歳の老女のようだった。
五歳の頃、私が絵を描く様子に珍しく興味を示したので、使っていた絵筆を持たせてみた。
白いキャンバスの上に青い線がしん、と引かれた瞬間、私はこの子の鮮やかな叫びを聞いた。
世界を彩る色を現す方法と、食べたものや見たものをそのまま紙の上に写す技術を彼女は最初から持っていた。
それは七歳の頃にはほとんど完璧となる。
子供の絵を見た乳母は、興奮に顔を赤く染めた。
この子は女の子の一生分の幸せを捨てて、絵のために生まれてきたんですよ!
その後の記憶はやや曖昧だが、乳母を殴ったことは間違いないらしく、警察所のようなところで警官二人にこってり絞られた。
日が暮れた我が家に帰ると当たり前だが乳母はおらず、老婆のような我が子はくしゃくしゃの画用紙を抱えて一人、テーブルの前に座っていた。座ったまま、漏らしていた。
「ごめんな」
ぽつりと言って、初めて我が子に頭を下げた。
ふがふが、と鼻をならして、老いた娘は笑うように泣いた。
風呂上がり、よたよたと歩き回る娘をどうにか寝かしつけ、くしゃくしゃに丸まった画用紙を広げてのばす。ためらいと動揺が、刺さるような線で何本も何本も引かれていた。
この子は溢れんばかりの才能を持ちながら、私に頼らなければ生きていくことすらままならないほどに醜く幼い。
それなのに、と私は一人泣いた。それなのに私は彼女に嫉妬している。
こんなにも哀れな娘に。
私は声をあげて泣いた。耳の悪い娘は寝ている。どうか気づかないでくれ。
今夜一晩泣かせてくれたら、明日も娘と生きていける。