第148期 #14

盛者必衰

彼が物心ついた時、そこはすでに大きな王国だった。
水も食べ物も豊富にあり、王国は栄華を極めていた。
似て異なる民族たちがそれぞれに領土を持ち、それぞれに産み増やしながら、国は次第に広がりを見せていった。

だが、あるとき、空がふと陰った。
それは一瞬だった。
圧倒的な爆風が襲い掛かり、町や人を押し流していく。
彼は地面に張り付くようにしてそれに耐え、いつの間にか気を失っていた。
次に目を覚ました時、彼は目を疑った。
大きかった町はほぼ更地のようになり、わずかに残った人々がほそぼそと生きながらえているだけだった。
自分の身を見下ろしてみても驚いた。足は痩せ細り、腕も欠損していた。
身を引きずるようにして、自分の兄弟や子どもを捜してみたが、どこにも見つからなかった。きっと死んでしまったのだろう。
彼は泣いた。

ある日、また空が陰った。
今度は大きな丸い塊が落ちてきた。
地面に着地し、柔らかくたわんだそれは町を飲み込みそうなほどに大きく、そしてとても甘く、栄養豊富な食べ物だった。
むさぼるように人々はそれを食べ、元気を取り戻し、むくむくと国は肥えた。
彼もそれを食べ、しわくちゃだった腕も顔もつるりと張りを取り戻した。
光を取り戻した目で彼は大地を眺めた。
失ったものは仕方がない、家族はこれからまた増やせばよい。
人生はそうやって続いていくのだろう。
そうやって人々が前向きになったとき、肥え太り血気盛んになった民族同士で内戦が起きた。
甘い栄養豊富な食べ物を巡って、奪い合いが始まったのだ。
彼もそれに参加した。
天からの恵みは次、いつくるのかわからない。より強く生きるためにそれはどうしても必要だった。

その時また、空が陰った。
細かな雨がシャワーのように降り注いだ。
その瞬間、彼は息絶えた。

ハンドクリーナーで掃除されたテーブルに、ぽたりと生クリームが落ちた。
話に夢中な女性二人はそれに気づかず、やがて会計をして出て行った。
店員が食器を片付ける。
彼女は仕上げにアルコールスプレーを入念に噴射して、丁寧にテーブルを拭いた。



Copyright © 2015 kyoko / 編集: 短編