第146期 #2
久しぶり、元気だった?こうやって面と向かって話すのなんて本当久しぶりだ。
この10年どうだった?俺は上京して大学通って、今はしがないサラリーマンだ。部下もできた。お前、大学には行かなかったんだっけ?確か家の仕事継ぐって言ってたじゃん。よくあの本屋に行ってたなぁ。俺もお前に薦められたからたくさん本読んだよ、大学入ってからも。
そういえば俺が上京してから彼氏はできた?なんだかんだいってお前かわいいからな、悪い男に引っかかってないか心配だったんだぞ。俺?お前は驚くと思うけど、大学だと結構モテてたんだぞ。ははっ、遊んでたな俺も。
まぁ雑談はさておき、一つ報告しておきたいことがある。見て、これ。そう、俺結婚したんだ。いやぁ、社内結婚とかするもんじゃないね、今はみんな認めてくれたけど。
とても優しい人だよ。ちょっと控えめでおしとやかな感じだけど人あたりがよくて、意外と面倒見もいいんだよね。なんかどことなくお前と似てるかもな雰囲気。お互いに惹かれあって、抱き合ったりキスをしたりして、そういったことがとても自然なことに感じてさ、ただ純粋に一緒にいたいと思った。
お前の知ったこっちゃない話かもな。でも、故郷に帰ってきて一番最初に報告したかった、お前に最初に。
結婚の話の後にいうのもなんだけど、この10年間ずっとお前のことが頭にあったよ。本当に、だって俺お前のこと好きだったから。「だった」じゃ過去形になっちゃうな、訂正するわ。俺お前のこと好きだから、今も。
覚えてる?上京の前日に二人で会ったの。別れの悲しさを紛らわす様に二人で抱き合ってたね。外の寒さなんて関係なしにずっと。このまま時が止まってくれればいいのに、とか思ってた。あの時、毎年休みになったら絶対会いに行くよって俺約束してたよな。その約束破っちゃった。本当にごめん。ずっと会いたかった。ずっと会いたかったんだ、けど…。
お前の葬式には出たけど、その後1回も墓参りしてない。そう、ずっと避けてたんだ、現実から。
だからさ、そろそろ…現実を受け入れなきゃなって。お前とこうやって向きわなきゃなって。本当に、ごめん。今まで顔見せないで。でも俺、今でも…今でもお前のこと好きなんだ。もう、ごまかさないから。
今までありがとう…そして、これからも――
俺は元気にしてるよ。お前も元気そうだね。また来年のお盆来るから。
俺、大人になるよ。