第146期 #3

羽ばたいた鳥は落ちる

白い大理石で圧迫された空間に、チャーチオルガンの音が響く。
入口扉から見上げると、真正面には高い天井から程近い壁面に設置されたステンドグラスがあり、そこから入ってきた月光は、入口扉真上の十字架に張り付けられた、苦悶の、しかしどこか神々しい表情を浮かべた男の石像を照らしている。
2列合わせて10台ほどの長椅子が置かれた小さな教会には、白いフードつきのローブを被った老若男女が所狭しと並び、手を組んで祈りを捧げている。誰一人として顔を上げるものはおらず、身じろぎひとつしない。
ただ一人黒いローブを被った初老の男が、ステンドグラス真下の、胸ほどまで高さのある祭壇の前で、他の信者と相対するように立ち、同じように顔を伏せていた。
オルガンの演奏が、止まる。
黒いローブの男は、手を組んだまま、ゆっくりと天を仰いだ。
「天にまします我らの父よ。ねがわくば、御名をあがめさせたまえ。ダメなら死にます!」
「「「だめー!」」」
顔を伏せていた信者たちが、一斉に叫ぶ。オルガンの演奏者がハイテンポのジャズを叩き、黒人特有の深みと伸びがある声を出す。オーディエンスの熱狂は最高潮だ。黒いローブの男は、スタンドマイクを手にして、喉がちぎれんばかりに絶叫した。
「おまえら、そんなに死にたいかー!」
「「「いえーい!」」」
信者たちが、あるものは笑顔で、あるものは涙を流しながら、絶叫で返す。
総立ちした信者の足踏みで、地震が起きたかのように教会がうねった。
「オゥケイ!みんないくぜー!」
黒いローブの男は、懐からクイズ番組の回答席に備え付けられるようなスイッチを取り出し、高々と挙げた。
「「「スリー、ツー、ワン! ファイヤー!」」」
ぽちっとな。
こうして教会は爆風に包まれ、生けるものは皆天に召されたのでした。

死ぬ教
―人間は生まれながらに罪を背負った存在らしいからとりあえず死ぬことを教義とする宗教。その鮮烈かつシンプルな教えに、老若男女問わず信者が増えているが、増えたそばからすぐ死ぬためにさっぱり勢力が拡大しない弱小新興宗教。なお、教祖は経営難ですでに自殺している―



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