第14期 #28
風がうなる。途端に身体が目覚め、どれくらいの間か、気を失っていたのだと知る。凄まじい圧力。あまりにも乱暴に吹きつけられ、服を着ているのかどうかなどという細かな感覚は吹き飛ばされ、ただ、全身凍りつくように寒い。薄い皮膚の下に張りめぐらされた血管やら神経が根こそぎ引っこぬかれてしまったようで、どこまでが顔で、腕で、脚なのか、ほとんど未分化なまま、自分は強い風を受けている、それもずいぶん前からそうであると思う。なにが起きているのか、目を開けて周囲を見渡せば済むのだが、ふと気をぬこうものなら恐ろしい力によって目蓋を捲られはしまいかと、どうしても強くつむってしまう。私はただ寒さと圧力を感じるだけの存在となる。
凍った体に触れようとする。途端に脇の下から塊のような風が一気に抜けていき、不安定になった右腕が激しく揺さぶられる。ぐいと手の平を胸に押し当て、五本の指でしがみつき、這うようにしながら首を登り、顔に辿り着いた最初の感触は唇。次に真ん中の指が避難するように鼻の穴に潜り、残りの指は冷えた頬を丹念に探るのだが、それはその下に在る私の意識への問いかけのようでもあり、あるいは単純に皮膚を擦り合わせることで暖をとる本能なのかもしれない。全身麻痺のような状態で、指先とそれが触れる顔の表面の感覚が少しずつ確かなものになっていくのがわかり、それではと人差し指はリズミカルに頬骨を擦るというアクロバットを始める。なおも人差し指で頬を擦り、思考する。
私は速度を意識した。
私は加速している。
目を開けた。
見渡すかぎりの青。青空。彼方には縫いこまれたように大地が続く。太陽。太陽は燃えている。
私は落ちている。
恐ろしさは感じない。もう覚めてしまったのだから。
落ちていく。それにあわせて寒気が増していき、頭の芯までも凍りついたようになる。スケートリンクを想像する。つるつる滑りそうなものだが、とても上手に思考することができる。論理的に。美しく。
どんどん加速する。太陽は私を照らしているのに、少しも暖かくない。落ちていく私を追うのでもなく、待ち構えるでもなく、私を捉えて逃がさない。継続的に、光は私を照らす。なぜ私は落ちていくのか。誰を恨むでもなく、ただ疑問は疑問として現れる。
墜落。最後には叩きつけられる。たっぷりと熱を吸った大地。太陽はもうそこで待っている。
私は逃げられない。どんどん落ちていく。