第139期 #4
面接官の江井は、会社で唯一となった喫煙室でぷかあ、と煙を吹き出していた。
消費税値上げの四月から割高になった煙草だが、味は変わらず。
「いやあ、参りましたよぉ」
額の汗を拭きながら、同じく面接官の尾伊が喫煙室に入ってくる。禁煙派の台頭が著しい昨今にあっても、なぜか人事担当の喫煙率は高い。
くしゃくしゃの煙草を取り出して火を着け、ゆっくりと煙を吐き出しながら尾伊がぼやいた。
「さっきダイヤモンド課の面接に来た中途採用の子、キュービックジルコニアだったんですよ。いや、本人も知らなかったみたいでね。お引き取りいただくのが大変で……」
「それはまた。うちは、庭石の募集かけたら、墓石向きの庵治石がきちゃって。墓石部に行くようにって、説得が大変でしたよ」
「お互い苦労しますなぁ」
彼らは石の面接官だ。それも原石ではなく、中途採用として加工された石の担当なので、普通よりも難しい。
「あ、話は戻りますがさっきのジルコニアの子ね、どうも自分を天然モアッサナイトだと思って、ダイヤだと見栄はってたらしいんですわ。モアッサナイトは屈折率も高いし、作るコストもそれなりにありますしな。ところが実際は質の落ちるジルコニアでねぇ。それを伝えたら本人もショック受けてましたよ。こっちの方がショックですよ」
「はぁ……宝石系は加工されると、本人もそのうち自分が何だか分からなくなるんですかね」
「変な石はどこにでもいますからねぇ。江井さんのとこの庵治石は、墓石部に行ったんですか?」
「いや、それがなんとしても庭石がいいそうで。結局今回は採用見送りで」
「おやま、勿体ない」
「何せ重ねナシ二番ナシの庵治石ですからね。言い方は悪いですが庭石なんかさせられませんよ。というか庭石には庭石に合う石ってのがありますからね」
本人の希望に仕事を合わせるのは難しいですなぁ、と尾伊は呟いた。頷きながら、江井も呟く。
「しかし昔はこんなになんでもかんでも面接しなくても、大理石なら壁材か床材、抗火石なら断熱材と決まってたんですけどね」
「我々は期間の長い石が対象だからまだいいですよ。植物系の面接なんか大変らしいですからねぇ」
煙草を灰皿に押し付けて消し、尾伊が笑う。
「まあそう考えると、煙草の葉だけは今も世襲制でありがたい。もし煙草の葉にタンポポが採用されるようになった日には……」
江井が笑いながら後を引き取った。
「ま、そのときは禁煙しますよ」