第139期 #3

享受

お父さんのつくったみそ汁にはジャガイモが入ってなかった。
下の方に沈んでるのかなと思って、箸でみそをぐるぐるかき混ぜてみたけどわかめと大根しか見えなかった。
眉をひそめる。
「お父さん」
「ん?」
「ジャガイモは?」
そうたずねるとお父さんは髪の毛をぐしゃぐしゃかき混ぜて、あーだがうーだがうめいた。
「忘れてた」
「なんで?うちのみそ汁はいっつもジャガイモ入ってるじゃん」
「オレん家は入ってなかったんだよ」
「オレん家ってどこよ」
「オレの実家。なのに美智子がみそ汁にジャガイモは譲れないってきかないから」
ふうとため息をついて、お父さんはどこか遠いところを見つめるような顔をした。
たぶん離婚したお母さんとのことを思い出してるのだろう。
私を置いてきぼりでいっぱいケンカしたくせに。
お母さんのみそ汁忘れてジャガイモ入れなかったくせに。
そんなさびしいって顔するなよ。ムカツク。
「私いいよ。別にジャガイモなくても。ちょっと濃い味のみそ汁でも」
「やっぱりちょっと濃かったか」
「うん、でもいい」
お母さんのみそ汁好きだったけど。
もうそれは過去だから。
「ハナ」
「何?」
「お前の彼氏がみそ汁にジャガイモ入れたいって言ったらどうする?」
私は笑った。
「めっちゃ入れるに決まってんじゃん」



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