第137期 #12

女とコーヒー

 目玉焼とコーヒー。パソコン周辺機器とコーヒー。クラブサンドとコーヒー。クワガタとコーヒー。おでんとコーヒー。コーヒーに最適な言葉の組み合わせを考えながら僕は、朝、自宅の階段を降りていた。
 キッチンに従姉がいた。従姉はお正月休みで遊びに来ていた。従姉はコーヒーを飲んでいた。女とコーヒー。僕はこれが最善の対だろうと思った。
 おはよう、と従姉が言う。

 僕が、僕の家族の所在について従姉に尋ねると、みんな買物に行きましたと従姉は答えた。戸棚からマグカップを取り出し、ダイニングテーブルの、従姉の前の席に座って僕もコーヒーを飲み始めた。
 僕は従姉に質問した。
「コーヒーと一番合う言葉は何だと思う?」
「給食牛乳とコーヒー」
 液体に液体をセットするとは思ってもみなかった。
「ハムサラダとコーヒー」僕が言った。
「ハムサンドとコーヒー」従姉が言った。
 ラダとンドの違いだがハムサラダのほうが語感がいいなと僕は思った。緑黄色野菜の色の鮮やかさが目に浮かび、それとコーヒーの落ち着いた琥珀色の視覚的対比も良い。
 その対比の妙について検討を深めようと従姉に話し掛けようとしたら、従姉が話題を変えた。
 従姉、テレビを見ながら不愉快そうな顔つきで。
「昔流行った歌がまた流行ってる」
「そうだね」
「私が子供時代の歌」
「そうなんだ」
「ハムカツとコーヒー」
「カリフォルニアオレンジとコーヒー」
「台湾バナナとコーヒー」
 従姉の会話の中に、意味は存在しないのかもしれなかった。
 その都度に伝えたいことを言葉にした時、その時の思考一切合財を言葉に置き換えることはどうしてもできない、と僕は感じている。それで歯がゆさを感じたりする。もっと的確な表現を身に着けたいと思う。でも従姉みたいに、そもそも感じたこと思ったことをそのまま言っただけで明瞭な意志内容がなく、それでも楽しく会話が進みゆくのであれば、これはこれで僕とは違う言葉の使用方法なのかもしれない。

 従姉が言った。私は、正しい判断なんかが人間にできると思いあがっているところがいけ好かない。
 僕は答えた。
「なるほど」
 おでんと女。子供時代と女。人間と女。なるほど女とコーヒーが合うのではなくて、女であれば何とでも合うのだ。重要なのは何とコーヒー、ではなく、女だった。
 従姉が言った。
「哀しみとコーヒー」
 僕は憐れみとコーヒーと思いついたが、あえて言うほどのこともなし、だから沈黙した。



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