第132期 #11

ちくわ祭

 新しい家族の始まりだった。
 切欠は三年前の夏。その春に他界した父の遺品整理があるといので僕は遠く北に離れた父の実家に呼ばれた。
「葬式の時はお世話になりました」
 実家の隣家のエックスさんに挨拶した。
 エックスさんは僕に指示を出した。ちくわ作りの手伝いだった。遺品は? と訊ねるとすでに段ボール一箱に梱包されて後は発送を待つばかりとのこと。
「手伝ってもらってた」
 ちくわ、焼くの、僕の父親に、らしい。エックスさんは故人の記憶をたどるようにギクシャク滑舌で説明してくれた。
 父の田舎では五年に一度ちくわ祭があった。まんこした男の数だけ女性がちくわを口に咥えて神輿の後を行列するという内容だが、それは百年位前迄。現代では青少年保護的に皆平等に一本ずつ控目に頬張だけ。
 父は祭の年には帰省してはエックスさんの補助をしたそうだ。知らなかった。僕は親不幸で二十代の中頃から三十の最近、父と田舎に一緒に帰っていなかった。
「白く焼く」
 市販のちくわのように茶色の焦目をつけずに魚の白身の色味のままの焼肌でないとダメ、僕はエックスさんからの熱烈綿密指導を受けながら作業した。

 祭に参加した。それなりに盛況だった。終わり頃、女に話し掛けられた。エックスさんの娘だった。手を引かれ夜の林に連れていかれた。
「食べて」
 熟黄桃色の着物を着た彼女は僕の焼いた齧掛のちくわを僕に寄越した。冷たくなった彼女の唾液付ちくわを僕は食した。その後で僕は彼女を抱いた。

 それなりにエックスさんの娘とセックスして休暇を終え、帰ろうとするとエックスさんの娘が駅で待ち構えていた。
「この子、酒屋の娘」
 エックスさんの娘が紹介したのはエイチという子だった。白い肌で、目の下のうす黒い隈が目立つきれいな子だった。
 恋人はいるの? 貯金は? 会社は休めないですか? 結婚しませんか? うふふふ。質問された。エイチを僕に呉れるという。エックスさんの娘も付く。
 僕は恋人に「お前といると萎える」とメールして向こうの暮らしを終えた。マンションでの恋人との交接や贅沢をした輸入品のソファもそれなりにまあ良かったが、自然に恵まれた父親の出生地で生きるのも悪くないなと思った。それよりも違う人生に魅力を感じた。

 女二人を侍らせて生活するのは楽しかった。エックスさんに言わせれば、金のある人間がこうした生活を送るのは昔は当たり前だったらしい。
 ただ僕には新しかった。



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