第131期 #2
カン、カン、カン、カンカン。
さぁ今日も始まるよ。今日の紙芝居は何がよろしいか。
夢の中を抜け出せなくなった少年の話がよろしいか。
あらすじはこうだ。少年はその日見た物を必ず夢に見た。やがて夢の中の部屋がいっぱいになってくると、少年は部屋の外を出る事にした。
さぁ聞きたいかい?ん?あんまりおもしろそうじゃない?そうかいそうかい。
ならこれならどうだ、突然歩くことのやめれなくなった男の話。どうだい聞きたいかい?
あらすじはそうだな。男は貧乏な男だ。そう、ある日古着屋で安い靴下をたくさん買う。でも一組のショッキングピンクの靴下を履いた時、足のくるぶしがむずむずした。なんだと思って立ち上がると、出るわ出るは次の一歩。止まらなくってそのまま玄関を出て街を練り歩くお話よ。
やがてコンクリートで靴下が破けて・・しまった。落ちの部分を言ってしまった。これは今日はできないな。
次のお話だ。
あら、今日は妹さんはどうした。来てない?そうかい。
さぁ、ならこれはどうだ。手からすり抜けた風船。それをとろうとジャンプした少女が空に浮かんでしまうお話。
違う違う。飛んだんじゃない、浮かんだんだよ。
あれは夏の日だった。車で5分の大きなスーパーで配られていた風船。それもとびっきり赤い風船ばかりだ。それをもらった少女はうっかり手の力を緩めてしまう。ここぞとばかりに空へと昇る風船だ。少女は慌ててジャンプする。かろうじで空に伸ばした手がヒモをキャッチ。あとは落ちるだけだった。だが不思議。なかなか地面に足がつかない。少女が下を見ると車の天井がよく見える。
あっ、鳥の糞がついてら。
お母さんは青ざめた顔で見ている。少女はわんわん泣いてしまう。そこに迫り来る入道雲。果たして少女は無事に着地できるのか。
全米が泣いた感動紙芝居。シーラと風船。乞うご期待。
どうだい、引きがあるだろ。続きが聞きたいだろ。だが残念、今までのお話は全部今作り出したお話ばかり。だからこの紙芝居用の紙は真っ白。ほら裏も真っ白。
だからこの水飴を食べてお帰り。ほらえびせんくっつけてネコ型ロボを描いてあげるよ。ありがとよ、おじさんの嘘に付き合ってくれて。でもお話はもうおしまい。
ほら、あんなに大きな入道雲が迫ってる。一雨くる前にとっととお帰り。
そうしてボロボロの淡いピンクの靴下を履いた紙芝居おじさんは帰っていくのでした。
僕は真っ白な紙芝居を夢で見ることになる。