第129期 #9
ぼくは雨の日がキライだ。
お母さんが泣いてばかりいるからだ。泣いている理由なんてたいしたことじゃないことばかり。洗濯物が乾かないとか、雨音が悲しいとか、雨が降っている、ただそれだけで泣いている時だってある。
晴れの日のお母さんは、明るくて元気いっぱい。
はりきって、ぼくを学校まで送ってくれたりする。ていうか、ぼくの後を勝手についてきちゃうだけなんだけどさ。お母さんは本当に楽しそうなんだ。
「友だちとうまくやってる?」「給食はおいしいかい?」などなど、いろいろと話しかけてくるんだ。話が途切れるときまってお母さんはこういうんだ。
「ああ今日はとってもよい天気」
本当にうれしそうな顔をしてしみじみと言うんだ。目なんかキラキラさせちゃってさ。
雨の日のお母さんは、じめじめ泣いてばかりで、しんきくさいったらありゃしない。
ぼくは外にも遊びに行けず、仕方ないので、てるてる坊主を作るんだ。
「早く雨が止んでくれますように」そう祈りながら、いっぱいいっぱい作るのさ。
雨が止まない時は、お母さんの涙で家の中に海ができる。
ぼくは救命ボートに乗って、てるてる坊主を作り続ける。大丈夫。てるてる坊主がお母さんの涙を飲みこんでくれるから。
くもりの日のお母さんは、どうってことのないただの普通のお母さんだ。
だからぼくは、晴れでもなく雨でもないくもりの日がいちばん好きだ。できればずっとくもり続けてほしいと思うくらいにさ。
嵐の日のお母さんは、最悪だ。家中のものをめちゃめちゃにしてしまう。お茶碗もお皿もコップもあたりかまわず投げつけて壊してしまう。テーブルだってひっくり返すし、窓ガラスだって割ったことがある。ぼくもぶたれたり、けられたり、すごくひどいことをいっぱい言われたりする。ぼくは、「ごめんなさい。ごめんなさい」ってひたすらあやまり続けるしかないんだ。
嵐が過ぎた後は、後片付けが大変でまいっちゃう。おまけにぼくの心もカラダも傷だらけでまいっちゃう。だから嵐は来てほしくない。できればこの先永遠に。
お天気お母さんだからしょうがないんだ。って思うことにしている。それにぼくにとっては、たった一人のお母さんで、たった一人の家族だから。
さてと、いつまでもブツブツ言ってても始まらない。これからぼくは忙しくなるしね。梅雨に備えて、てるてる坊主を、たくさんたくさん作らないといけないんだよ。
梅雨が明けたら、また会えるといいけれど。
じゃあ。