第129期 #8

神の視点

童貞をこじらせた男と処女をこじらせた女が出会う。
はじまるのはひとときの沈黙と荒々しいセックスだ。荒く息を吐き、すべきことをイメージしようとするものの、あれ、手が想像通りに動かんよ。リードすべきは男、という昔ながらの言い伝えはナンセンス!女もある程度自ら動くべし。というすでに古くなりつつある精神でもって、動いてみるものの、あれ、あたしの腰はこんなにもぎこちなく、縦揺れをしてんだ。
つまり、事はまるで進んでいないにもかかわらず、はげしく消耗する体力。すでに性欲のかけらも砕け散って義務で動いている体の各部位。もうええよ、もうええよ、という死んだおばあちゃんの声が頭の中でこだまするのは気のせいかしら。いいや気のせいやないよ、おばあちゃんも天国から応援していて、今回は練習ってことでもうええんよ、と声をかけているわけだ。互いにやりたい気持ちはある。利害も一致している。けれども一向に進まない。
仕方なく立ち上がる女のパンティストッキングは破れていない。
溜息が漏れる男はめがねを外していない。
お前らつまりや、なにごとにも順序って大切やということを知らんのか。パンティストッキングは破らなあかんし、めがねはすぐに外すこと。しわの一本も見逃したないつう気持ちはわかるけども、ものには手順てもんがあるんや。おばあちゃんはあきれ顔で諭す。
そうなんだ、とめがねを外す男。あほ、今外したって意味ないがな、とおばあちゃんは怒鳴るが女、あら、めがねを外したあなたの顔ちょっと素敵じゃない、ってきゅんとなる。きゅんとなってじゅんとなる。けれどもなにができるというのだ、あたしに何ができるって。
焦ってパンティストッキングをぎゅんと上げる、女の癖。するとどうでしょう、食い込みが激しくなって、見事な卑猥物の出来上がり。めがねがなくたってその卑猥性に気付く。いやむしろ、肉感がぼんやりとしていて、良いよ!すごく良いよ!
性欲というよりも本能として、野獣のように飛びついてみる。この勢いを大切にしたいところです、と解説者もつぶやいている。そのパンティストッキングをてらてらなめて、このやろう、このすけべな化学繊維め思い知れって破いてみる。ダメよそんな乱暴にしちゃあイヤよ、と言いつつもちろん、いやよいやよもすきのうち。
おばあちゃん、ま、結果オーライってか、って天使の羽をぎゅってして天国に昇ってく。



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