第129期 #10

最上川メルァ!

「雨降りて、開く花びら、最上川……」
「どうしたのいきなり」
放課後、友人と一緒に帰宅していたら突然俳句を口にし始めた。
「生まれたて、ホワホワ赤ちゃん、最上川……」
「もはや最上川関係ないよね……」
どうやら、今日の国語の時間に勉強した俳句に刺激されたようだ。私が喋っても「んー?」とニマニマするだけで一向に話を聞こうとしない。
ちょっとイらっとするが、まぁあえてここは我慢しよう。
「よせやよせ、ゴミを捨てるな、最上川……」
「そろそろ偉い人に怒られるんじゃぁないかな」
最上川を愛する人たちから一喝されそうな俳句である。ゴミ投棄なんかの俳句にするなら賛否両論があるだろうが、実際に見たことが無いと思われるコイツが口にするような俳句ではない。
しかし、最上川ってつけると俳句っぽくなるもんだなぁ。
完っ全に無季俳句ですが。
「ニジマスが、あぁニジマスが最上川」
「ニジマスがどうしたのよ……」
というか、そもそも最上川にニジマスは生息しているのだろうか。
こういうことは調べてから言うべきである。公開した後に「当たり前だろ」とか、「何も知らないなら最上川使うなよ」などと言われても世間一般の皆様は自業自得と思うことだろう。
当然である。
「ねぇ、最上川って見たことあるの?」
無茶苦茶気になったので、ひょこっと聞いてみた。
「ん?……………………無いヨ☆」
ドゴッ。
「メルァ!」
私はもうなんだかわからなくなり、持っていた学校の通学鞄で友人の背中を横から振るようにして殴った。友人は両手を少し上げると、奇声を発して膝をついた。
もうここまでくると、先ほどの奇声までわざとらしく聞こえてしまう。ウケ狙いだろうか。だとしたら弱く叩きすぎたか。
……起き上がらない。
「……大丈夫?強く叩きすぎた?」
「うそピョン☆」
ピョコ、と両手を頭の両サイドにくっつけて言った。おそらくウサギのモノマネかなんかだろう。
「メルァ!」
二度も友人の背中を叩くハメになるとは思わなかった。
でも、自業自得だと思う。
変な友達だが、でもやっぱり私の友達。
――今度私が叩かれたらメルァ!って言ってやろうかな。



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