第125期 #10

手乗り象の夢

キリンとどちらにしようか、しばらく迷ったけど、象に決めた。
 最初は、キリンにするつもりでいたのだけど、いざ店で、象を目にしたとたんに、迷いが生じてしまったのだった。
 象のその、ボディの淡い桃色と、灰色がかったブルーの瞳から発せられる物憂い感じが絶妙だったから。
 それに比べて、キリンは、屈託なさすぎるような気がした。ボディの黄色も、あまりにもキリンっぽかったし。瞳を覆っている眠たそうなまぶたとカールしているまつ毛は、捨てがたかったけれど。どことなくラクダに似ている顔つきが気に入らなかった。
 てのひらに乗せた時の感触も、象の方が圧倒的によかった。
 象のその、薄っぺらくて透けて見えそうな二つの耳が動くたびに、ごくごく微かに起こる風が手のひらをくすぐる、その感触がたまらなく心地よかった。
 できれば、このままてのひらに載せて、家まで連れて帰りたくなったくらいだ。
 店主にたずねると、なつくまでカゴに入れておいた方が無難だと言われた。そうしないとどこかに飛んでいってしまうかもしれないらしい。
 「飛ぶんですか?」
「もちろん。象なんですから。小さい分だけよけいに」
「なつくまでどのくらいかかるでしょうか?」
「まあ、飼い主との相性にもよりますが、愛情をかけて面倒をみてやると、通常は1週間くらいでなつくと思いますよ。なつくと、自分から喜んでてのひらに乗りたがります」
店主によると、象は、コアラやうさぎに比べると、手がかからないので、お世話するのが楽だということだった。コアラは、驚かせてはいけないし、うさぎは、さみしがらせてはいけないけど、 象の場合は、愛情を持って接してやりさえすれば、多少は、驚かせても、さみしがらせても大丈夫らしい。
 そう言われても、愛情を持って接してやりながら、どうすれば、驚かしたり、さみしがらせたりできるのか? よくわからなかった。

「とうとう象ちゃんも連れて行かれちゃったね。」
「キリンさんとどっちか迷っていたみたいだったね」
「まさかこんなに早く別れが来るなんて」
「今度は、誰の番かな」
「さみしくなるね」

ふいにあの店の象の仲間たちが、象について語り合っている光景が浮かんで来て、やけに感傷的な気分に陥ってしまった。 
 かわいそうなことをしたのだろうか? カゴの隙間から見える象に向かって、心の中で問いかけてみた。象は、我関せずというふうに、ゆっくりと鼻を上下に動かしていた。



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