第124期 #3

七面鳥から目を覚ます

「そんならあんたは、七面鳥が原因だとでもいうのか」

 警官の言葉に対し、椅子に座った男は困ったように俯いた。
 平凡な顔立ちをしたその男は、クリスマスの夜に臓物を体中に巻き付けて歩いているところを捕まった。
 当初こそ人々はこの悪趣味な振る舞いを嘲笑いもしていたが、それもそれらの臓物に行方不明の肉屋夫婦が混ざっていたことが分かるまで。
 男の家は警察によって速やかに捜索された。台所の中、分厚いカーペットの下、きっちりと閉じられた地下室への蓋を開けると、おぞましい勢いで腐臭が吹き出し、死体慣れした警官でも倒れる者が続出した。
 そこは足の踏み場もないほどに腐肉と骨で埋もれた地下室で、膝ほどの高さまでが肉で溢れていた。
 この腐肉が詰め込まれた室内で男は「楽しいひととき」を過ごしていたらしく、テレビとソファが腐肉に埋もれるように置かれていた。

「あの中ではどんな番組でも楽しかった。私はあれにたくさん話しかけました。幸せでした」

 生まれた時からほとんど誰からも相手にされずに育ったこの男は、一昨年の新年に、売れ残った七面鳥を肉屋の店主の「親切で」大量に押し付けられた。
 男はそれを使っていなかった地下室にしまい込み、そして一日の大半をそこで過ごした。

「不思議な優しい気持ちになりました。確かに、少し臭かったかもしれないけど、それでも部屋を出て体を洗うのは悲しかった。私はお金を払わずに誰かに何かもらったのは初めてで、それが何でだか泣きたいくらい嬉しかったんです」

 やがて肉が腐り溶けて減ると男は急に「寂しく」なって、肉屋に肉を買いにいった。買う量はいつもたっぷりと両腕に抱えられる程。店主は意外な上客の出現に喜び、再び「親切に」おまけした。

 買っても買っても肉は溶け減り、その度に買ってきた時より少なくなる。寂しさを覚えた男が肉を購入する頻度は次第に頻繁になり、とうとう店が売る肉を切らした今年のクリスマスの一月前、肉屋の店主とその妻は体中を刺されて男の地下室に投げ込まれた。

「あの部屋に肉が増えるのが、ただただとにかく、幸せでした」

 そうしてたっぷりと肉が増えたことに満足した男は、その肉を体に巻き付けて聖夜に躍り出るという暴挙に出た。

「あれは、なんだか急に幸せな自分を皆に見せびらかしたくなったんです。でも、誰かに見せつけるものじゃなかったですね」

 照れたように呟いた、それが男の最期の言葉だった。



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