第124期 #4
――バンッ!
死を想起させる、銃声に酷似した衝撃音。
大地が大きく揺れた。
かろうじてアイツの攻撃をかわした俺は、後ろを振り返り、全速力で逃げる。力強く地面を蹴り、風を追い越して、アイツとの距離を保つ。
しかし、アイツの執念は生半可ではなかった。俺との間合いを素早く詰めては、何度も俺めがけて凶器を振り下ろす。そのたびに、振動が俺の体を伝い、胸の鼓動を加速させる。
アイツは憎々しげに俺を睨みつけた――殺意を、たっぷりと含んだ双眸で。
――なんだよ……なんなんだよ! 死にたくねぇ、死にたくねぇよ!
迫りくる死を振り払うように、疲労困憊した足を必死に動かした。それでもアイツは俺を追いかけてくる。死神の明確な殺意は、絶えず俺を襲ってくる。
足が重たい。だが、俺の中に芽吹く生に対する執着心は、鈍る足を加速させた。
俺は死角を探す。見渡した限り、都合よく隠れられそうな場所はない。悲鳴を上げる足の痛みに耐えながら、俺は死角を求めて狭い通路を目指した。
――見つけた! あそこを右に曲がろう!
曲がった瞬間、身を潜めよう。息を殺し、アイツがいなくなるのを待つんだ。
一縷の希望が見えてきた。不思議と足が軽くなり、疲労も痛みも和らいでいた。
嬉々として、俺は右の道に入る。
――はあっ、はあっ……そ、そんな……。
俺は立ち止まり、絶望する。
眼前には白い壁。隠れる場所なんて、どこにもない。
もう、逃げ場はない。
後ろを振り返り、視線を上に移す。
アイツが俺に凶器を叩きつけようとしているのが、視界に入る。
終わった……俺の人生。
思えば、いつも死と隣り合わせだった。
だけど、今から死ぬ――死の臭いが纏わりついただけの、たったそれだけの、つまらない人生だった。
どうして?
俺が何かしたか?
殺されるようなことを?
死んで償わなければならないほどの罪を犯したか?
俺の人生って、何なんだ?
忌み嫌われて。
何度も殺されかけて。
死ぬために生まれてきたようなものじゃないか。
誰か教えてくれよ。
俺が悪いのか――
――バンッ!
――ぶちゅん。
「やっと当たった……って、うわっ! 床が汚れちまったじゃねーか! あーあ、これも汚れちまったな」
若い男は、振り下ろしたスリッパを、まるで汚物を摘まむような手つきで、ゴミ箱へ放り投げた。
――床には、潰れたゴキブリが体液を撒き散らし、無残な姿で息絶えている。