第122期 #17
巨大なショッピングモールの夢を見た。
ひと気のない夜のショッピングモールを僕は一人で歩いている。昼間の活気はどこにも感じられず、まるで死んでしまった町のようだなと僕はぼんやりと思う。店頭に立つマネキンたちが亡霊のように僕を見ていた。
併設されたスーパーマーケットの前まで来ると、腹が減っていることに気が付いた。誰もいないショッピングモール、少しくらいなら大丈夫だろうと僕は意気揚々と店へと入り、買い物カゴに片っ端から商品を投げ入れて行く。コーンフレーク、菓子パン、コーラ、或いはサイダー。すぐに買い物カゴはいっぱいになって、さながら週末の買い溜めみたいになる。レジへ向かい、買い物袋を頂戴すると商品を移し替える。大きな袋が二つ、いっぱいになるまで商品を詰めていく。
両手に袋を持ちながら、休憩スペースまで歩く。せっかく夜のショッピングモールにいるのに、まるで普段と変わらないなと僕は思いながらコーラを飲んだ。月が高い。そろそろ帰った方がいいだろう。
ガラス張りになった入り口まで来て、扉を押し開ける。外は暗くて街灯も何も見えない。どうしたものかと周囲を見回せば、また月が見えた。今度はやけに近く、酷く大きい。反対を見れば青色の惑星が浮かんでいて、なるほどと僕は思う。宇宙にいるのだ。僕は徐に買い物袋から林檎を取り出すと、それを齧りながら景色を眺めてぼんやりと呟く。
――地球は青かった。
夢から覚めると、見慣れたマクドナルドの店内にいて、彼女と向かい合いながら座っていた。店内BGMはモーツァルトを流し、彼女はいつものように文庫本を読み耽っている。
「やば、寝てた」
「ん」
無表情で彼女が答える。既に萎びたポテトを齧る。
「いやあ、ショッピングモールの夢を見てさ」
そこまで言ってから続きが思い出せない。まったく、夢というものはどうしてこうもすぐに忘れてしまうのか。
「凄い夢だったんだよなあ」
「ショッピングモールってさ」
本から視線を上げて彼女が言う。
「宇宙船みたいだよね、何か」
宇宙船?その言葉を聞いても僕は先程の夢を思い出すことが出来ない。彼女はまた文庫本へ視線を落とす。
「今度、あそこのショッピングモール行こうよ。服選んであげるから」
「マジで?」
彼女がこくんと頷く。
窓の外では月が出ていて、街外れのこのマクドナルドの周りは酷く暗い。まるで宇宙にいるみたいだなと僕は思って、また眠りに落ちた。