第121期 #2
俺は泣いた。
思いっきり殴られたからだ。
理不尽な暴力。
問題は痛みとか傷とか辱めじゃなくて、意味不明で訳の分からないでも単純な論理がまかり通ったあげくにそれに抗議する事もできないという事。
そういう世の中やねん。ということ。
つまり俺は悲しいのである。
裏を返せば俺の理想の通りには世の中ができてないってことだ、それは仕方が無い。
それくらいは飲み込まないといけない。大人だからね。
でも殴るっていうのはどうなの?
抗議すらできずただ殴られる。殴られた後で抗議したって、痛みは消えやしないし、なんか口の中切れてるのも治ったりしないし。血の味がする。
つまりだ、いきなり殴るって事はお前いきなり殴られても仕方が無いって事だってわかってんのか? あ? 殴り返すぞ、もしくは警察いこっか?
って事なんだけど、俺はそんないきなり殴られ殴り返す様な世の中は嫌なので殴られてもぐっとこらえて、ただ悲しくなる。子どもだから。
今日受付で働いてて、もうすぐ時間だから窓口を閉めようとした時に突然ガラの悪そうなアロハ着たやせたおっさんに襟首を捕まれて殴られたのだ。更にもう一度殴られた。もう一度。痛い。
なんで? しらんよそんなん。
「おらコラてめえ、かかなあじこんじゃあこらああ」
というわけで俺は泣いていた。泣いていたと言っても言っておくが大泣きしたって訳じゃない、ちょっと涙をにじませた程度だから。言っておくけど。
アロハのおっさんには誰かが呼んだ警備員と一緒に退場願った。
最後まで何いってんのかわかんなかった。
さっきも言った気がするけど、別にそんな怖かったわけでもない。
ああ言うのこわいよねーっと後輩のカナちゃんに傷を消毒液をしみこませた脱脂綿で消毒して貰いながら話しかける、
なんなんでしょうね?
何か心当たりとか無いんですか、
いや…
ガーゼも張ってもらう。
ところで駅前に新しくイタリアレストランができたらしいんだけど今日行ってみない? ごちそうするからさ、
あー今日はちょっと用事があって…すみません。
余ったバンドエードと消毒液の箱を棚に戻している。
あーいいよ別に気にしないで。
来週なら良いですよ。
…
俺はまた泣いた。鼻水も垂れていた。血もだらだら垂れていた。
痛かったからじゃない、むしろ痛くなくなってきたので泣けてきた。
病院の駐車場でナイフを持ったおっさんは言った。
「お前が受付時間内やのに門前払いしたうちのかかあ昨日死んだんやぞ」
しらねえよ