第121期 #3

僕と僕の中の君

僕たちは病院で出会った。僕はもう一週間も保たないそれはそれは雪のように儚い命だそうで。対して君は、一週間もすれば温かい家に帰ってまた楽しく弾むような毎日を過ごす予定だそうで。僕は、別にそれを羨ましいだとか妬ましいだとか、全く思わなかった。
君は、ずっと僕と一緒にいてくれた。外ではもう桜が満開であと少しすれば散るんだよ、と教えてくれた。私は桜が散っているときが一番好きだと、笑いながら君は言った。僕は、それが見られるかなってふと考えて、散る花びらの中君と笑い合うのを想像して、少し悲しくなった。
小さな僕が背負うにはあまりに重い想いだった。でも無知と純粋でそれは水の中から外を見るようにぼやけていた。ただそうまでしてもやはりこう思った。君と生きていたい。桜の散るのを君と何度も見たい。
僕が死んでしまう時は、それでも少しでも長く生きられるよう処置をするんだそうだ。君といられない一分一秒が一体何になるんだろう?厚くてグニャリと捻れた灰色の雲を見て思った。
君は今日も僕の隣にいた。僕はどうせ最期だからと、君への想いを打ち明けた。外に出せば軽くなると思われた想いは、何故だか尚一層重くなった。それを聞いた君は、病院の庭を駆け回って桜の花びらをかき集めてきてくれた。そしてそっと、僕に耳打ち。しばらくして、外で明日には止むはずの雨が力強く降り始めた。

こっちこっち。ゆっくりでいいよ、ほら、手。大丈夫、大丈夫だよ。きれいな空だよね。
そして僕たちは手をつなぎそっと屋上から身を投げた。君の持ってきた花びらと共に。よく晴れた、白い雲の浮かぶきれいな日だった。僕たちは舞う花びらの中、永遠に笑い合えるんだ、きっと。

水色の空が広がる病院の屋上に残された小さな靴は、左右反対で離れてて。合わせると一対の靴になったそうです。



Copyright © 2012 乃夢 / 編集: 短編