第12期 #18
「ハイ、みんな元気? 晴ノ台学園放送部が送る木曜プログラムの時間だよ。DJはおなじみツカサ・ショーコ、イエイ。今流れた曲、分かった? そう、『チュエルボン』の『ラヴ・エミュレーション』だね。みんなイイ恋してね、OK? それじゃ、今週もイッてみようか!」
「今日読むリクエスト、コレ? うげえ、また来てるよコイツ。気ッ色いんだよね、この○※△♂野郎。マジマジダメダメ代えて代えてお願い。え? じゃアンズ書いてよ。そうよ今よ。ホラ、曲終わっちゃうから!」
ショーコがオープニングで自分の近況を適当に喋っている間、私はその横で、よくニセの手紙をデタラメに書きなぐっていたものだった。おかげで私には沢山のアバターができた。
「ありがと、アンズ」
新しい曲を流している間、ショーコは私の頬にそっとキスをした。いつだってそうだった。私はショーコのわがままをつい許してしまって、そんなことの繰り返し。そういうリレーションシップだった。ちらと編集室の小窓を伺い死角になっているのを確かめると、ショーコは私の眼鏡をそっと持ち上げて唇にもう一度キスをした。男の子とはぜんぜん違う、柔らかな感触。
「愛してるよん」
きれいなアーモンド型の眼で私にウインクをした。そんなこんなで私はいつもどぎまぎさせられっぱなしだった。
ショーコは学園のトップDJだった。一年生の時からウィークリープログラムを持っていたのは、ショーコだけ。構成のミヤシタ先輩、音響のツジ先輩、タイムキーパーのサカキバラ君、色んな相手と色んな噂があった。でも、ショーコはいつだって自由、周りが呆れてしまうほど奔放だった。
「噂? What’s sad?」
ショーコがマイクの前に座れば、五〇分間のファンタジーが始まった。私はアシスタントとして、いつもその渦中にいた。彼女の声を、パフォーマンスを、ずっと傍で聞いていたいと思った。
そして今、私は分娩室にラジオをかけてもらっている。スピーカーからは、あの頃と変わらない声が聞こえる。
「ハイ、みんな元気? パラダイス・エフエムが送るハッピー・プログラム『論よりショーコ!』の時間だよ。今日は、私の大切な大切な友達がママになる日なの。みんな安産を祈っててね。絶対絶対にね。ウィズ・ラヴ!」
看護婦さんたちは笑みをこぼした。ヤスシが手を握っていてくれる。
大丈夫、がんばれる。私の不安は、遠い遠い彼方へと飛び去っていった。