第119期 #11
神は「光あれ」と言った。
光は「ありたくない」と言った。
神は「なんでよ」と言った。
光は「なんとなく」と言った。
神は「なんとなくってなんやねん」と言った。
光は「なんとなくはなんとなく」と言った。
神は「でもね、もうあるから。喋った時点であったわけだから」と言った。
光は「あってない」と言った。
神は「なんでよ」と言った。
光は「なんとなく」と言った。
神は「だから、なんとなくってなんやねん」と思ったが言わなかった。
神の言うとおり、宇宙には既に光がある。茫漠とした闇を振り払い天地を照らしている。
しかし、神は良しとできなかった。全知全能の神にわからぬことはないが、わからぬという概念を創造して味わう。先ほどの関西弁も含めて、それは人間に実装されるべきものだ。神は人間の思考を創造しながら使うことにし、もう一度光に呼びかけた。
「光」
光は答えない。
「光ちゃん」
「なによ」
神は気を引き締めた。
神は聞いた。「怒ってるの?」
光は答えた。「別に」
神は言った。「怒ってるじゃん」
光は答えた。「怒ってない」
神は言った。「でもさ」
光は叫んだ。「怒ってないって!」
神は黙った。
光も黙った。
神は言った。
「……何かさ、気に障ることがあったら謝るし、何かしてほしいことあったら何でもやるよ。ほら、俺、全知全能だしさ」
光は黙っている。神は光の言葉を待った。
光がぽつりと言った。
「なんで、あたし、光なの?」
「え?」
「なんで、あたし光になっちゃったの。どうして、遍く全てのものたちを照らさなくちゃならないの。あたしは、あたしはただ神だけを照らしていたいのに」
光は泣いていた。
神は光を抱きしめた。
神は言った。
「マジごめんな。光の気持ち、すげーうれしい……うれしいよ。光は、光のしたいようにしたらいい。この広い宇宙でずっと、ずっと俺だけを照らしていてくれ」
「神……!」
しばらく神と光は抱き合っていた。しかし、光の方から、神の抱擁を優しく解いた。
「なんてね。大丈夫。ちょっと困らせたかっただけ。あたしは光。宇宙の隅の隅まで照らしてやるわ……でもね、またいつか、今日みたいに抱きしめてね……約束だよ」
そして、光は神から離れ、宇宙を照らし始めた。
光を創造してから二日が経っていた。あと五日で宇宙を創造せねばならない。これからも光のような態度をとる創造物が現れることを、神は全知全能の力で知り、反射的に新しい概念を創造した。
「めんどくせぇ……」