第117期全作品一覧

# 題名 作者 文字数
1 神信  飽人 992
2 セキララ・ライフ 乃夢 916
3 行進 山本高麦 1000
4 Three-way deadlock だりぶん 990
5 インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア わら 1000
6 ボタン しろくま 731
7 2005年11月25日1:11 qbc 1000
8 あくまとあくま 食べかけ 740
9 パレード こるく 1000
10 息子 なゆら 932
11 DuihitZ 金武 820
12 五時二分 皆本 1000
13 ロロ=キタカ 344
14 密閉信仰 朝飯抜太郎 992
15 『波濤の娘』 吉川楡井 1000
16 落としもの 伊吹羊迷 1000
17 猫川俊太郎の死 euReka 995

#1

神信 

この世界には、何人神様がいるだろうか。そしてあなたはその神をどんな感じだと思っていますか? 優しい感じですか?怖い感じですか? いろいろあると思います。なら、悪い神しかいなかったとしたらこの世界どうなると思いますか?             ある朝、俺はベットからおりた。いつもなら、母親が起に来るのだかなかなか来てくれなかった。               「仕方ない、起きるか」そしてまず、最悪なことがひとつ起きた。「母さん、なんで起こし・・、母さん」             揺らしても起きなかった「なんでだよ、うあーーーーーーー」  もともと母親は体が悪く寝たきりでだけど、適度なちょっとした運動がてらに俺を起に来てくれるのだ。そして母親が良くなるように、毎日神社にお参りに行ったのに良くなることがなく、死んでしまった。これで3回目だ。最初は父親、次に姉、二人とも事故で死んでいる。このままでいくと、俺に関係してる人が死んでいくか、それとも順番どうりに俺が死ぬか。と、考えている時だった    「どうだ、人が死ぬ感じは」「サイコーだよな」        といった声がした。                    「誰だ」  「俺らは神」                   「うそだ、神はそんな悪い人たちではないはずだ」      「おいおい、誰がそんなこと言ったよ、いまの神はみんなこんな感じさ、人を助けようとしない、逆に笑って死ぬのを見るも立ちばかりだ、まぁ、多少いい奴らはいるけどな」          「そんな、ならこれはお前たちが仕組んだのか」       「ご名答よくわかってるじゃん」 「なんでだよ」       「もう神を信じるのはやめろとい「信じたっていいじゃないか」「まぁ、それはお前の自由だ。んじゃあせいぜいお祈りするん な、ハハハハハ」                      といって消えてしまった。                  「神を信じるな(笑)上等だ俺の引きの強さでいい神たちに、お祈りしてやる、やれるもんなら俺の夢をなくしてみろ」      いかがだったでしょうか、あなたは今まで何回神を信じてきましたか?ひょっとすると今まで運がなかった人は悪い神に仕組まれていたのかもしれませんよ(笑)さてあなたは、神を信じますか?信じませんか?


#2

セキララ・ライフ

例えば人畜無害の"ふり"をしていれば、誰も私のことを嫌ったりはしない。いや、嫌ったりできない。害の無い者を嫌うというのは余程の理由が無い限りあまり受け入れられるようなことではないからだ。それに誰も気付いていなかっただけの話。…当の彼女も含めて。
これは、人から嫌われることを極端に嫌がった、彼女の話。

挨拶をされたら不器用であっても笑顔で返す。できることなら自分からする。からかわれたら嫌な顔せずその三倍は言葉を遣って言い返す。はっきりした自分の主張は持たない。人の悪口はそれとなく避ける。…人付き合いというのは本当に面倒臭い。しなくていいのなら、したくない。こうまで頑張っても、私は鬱陶しがられている。だがこれもいわゆる『キャラクター』、個性ということでまあなんとか今までやってこれたわけで。

私はこれくらいしか人との付き合い方を知らなかった。
人畜無害でいれば、誰も文句を言わないことに気付いたのは、大分遅くて中二の冬だった。ただ、それから私は変わった。私を取り巻いていたじめじめとした空気は、気付いた次の日からカラッと乾いてどこかへ行った。私の悪口を聞こえるよう言っていた意地の悪い連中も私に笑いかけるようになった。
その時、私は、この小さな社会はなんて単純なんだろう、ちょろいもんだな、なんて思った。

高校生になって、少し頭の良い学校へ行くと周りは社会常識をわきまえている人ばかりになった。そのおかげで、私は自分の欝陶しさにはどんどん鈍くなっていった。
誰かが言ったんだ、私のことを、気持ち悪いと。
すると周りのみんなは、普段からチラチラとそんなことを思い始めていたみんなはどんどん私のことを嫌いになった。
その時、私は、この小さな社会はなんて単純なんだろう、ちょろいもんだな、なんて思った。

これが私の今までで、でもこの話にはエピローグがあって。
私は人から嫌われているのが、嫌だった。吐き気をもよおすほどに。頭が痛くなるほどに、視界が捻れていくほどに。それこそ…死にたくなるほどに。
でも私はみんなのことなんかキライですから、そんな自分に嫌気が差して屋上から落ちたかっただけであり、
決してみんなと一緒に心から笑い合いたかったわけではありません。


#3

行進

「質問に答える気がないのですか?」と真ん中の面接官は少しムッとした表情で続けた。「どうして君は教師になろうと思ったのか,志望動機を聞いているのです」。イラつきを隠そうとしない主査の隣で,副査の女性がしきりに何かを書いている。節くれ立った汚い指だ。
「きれいな指ですね」。副査は,はっとして顔を上げた。

僕は,小学校の運動会が大嫌いでした。運動音痴だったわけではありません。そもそも赤組と白組に分かれて得点を競い合うのが嫌だったのだと思います。
競技の前にはお決まりの入場行進がありました。バトンを操れる女子や,大太鼓や小太鼓を抱えることのできる体格のよい子は,選ばれて列の前に出されます。その他大勢は縦笛(リコーダー)を吹きながら歩きます。もちろん僕はリコーダー組でした。
クラスに笑顔の可愛い女の子がいました。名前も,顔の作りすらろくすっぽ覚えていないのに「いつも笑っている」印象がある子でした。
その子には,左手の,人差し指と薬指がありませんでした。彼女はリコーダーが吹けません。指が足りないのですから,リコーダーの穴を押さえることが出来ないのです。
入場行進の練習で,彼女は目立っていました。彼女はハーモニカを持たされていたのです。音楽の時間ならともかく,僕にはそれが耐えられませんでした。行進の列では,彼女はいつも僕の右後ろにいて,否応なく視界に入って来ました。

運動会当日,誰かが休んで列がずれたのか,彼女は僕の右隣にやってきました。
行進が始まりました。大太鼓の合図でみんながリコーダーの準備を始めたとき,僕はとっさに彼女の左手を握っていました。彼女もびっくりしたのでしょう,初めは手を振り払うそぶりをみせたのですが,僕が力を込めると,彼女はその倍の力で握り返してきました。
結局,僕たちは,彼女はハーモニカを右手に持ち,僕はリコーダーを左手に持って,仲良く手を組んで校庭を「行進」してしまったのです。僕はそのときの「手」の感触を忘れることができません。
その年,僕のクラスは赤組でした。応援合戦の歌の終盤,「フレ〜フレ〜あ〜か!」の「あ〜か!」の箇所で,僕は大声で「し〜ろ!」と声を張り上げていました。あとで担任の先生に呼ばれました。「なぜあんなことをしたのか」。僕は答えませんでした。

「面接はこれで終わりにします。今日はお疲れ様でした」。主査は立ち上がりかけたが,副査はまだ僕から視線を外していなかった。


#4

Three-way deadlock

 ある男が街でクスリを売っていた。彼はボスからクスリを仕入れ、売りさばいていたが、そのアガリを毎回おさめなければならず、彼はボスのシマをいつか奪って自分のものにしたいと考えていたが、ボスは滅多に姿を見せず、彼は一度も直接あったことがなかった。
 ある日、彼はボスに娘がいることを知る。彼はその娘を誘拐し、身代金と交換すると偽ってボスをおびき出し殺害することを思いつく。しかしボスと同様に、情報を集めようと試みたが、何の手がかりも得られなかった。
 また別のある日、男がバーで酒を飲んでいると、若い女に話しかけられた。悪い気もしなかったので、男はしばらくその女と話していたが、その会話の中で男はその女がボスの娘であることに気付き、また彼女が父親を憎んでいることも知った。彼はすぐには誘拐せず、彼女を味方につけることにした。
 何回か会う内に、彼女は男を好きになった。そして彼は計画を彼女に打ち明ける。彼女は賛成し、さっそく父親に電話をかけた。彼は取引場所を指定し電話をきった。

 取引場所にボスは鞄を持って現れた。男は拳銃を抜き出すとボスに銃口を向けた。
「俺が欲しいのは身代金じゃない、あんたのシマと命だ」
と彼が言うと、ボスは鞄を男の方に投げ、拳銃を抜き、彼に向けながら言った。
「私が死ねば、クスリの入手ルートは永遠にわからないだろうな」
と彼が言うと、娘は拳銃を抜き、自分の父親に向けながら言った。
「全部喋るか、ここで死ぬかよ」
と彼女が言うと、男は拳銃を娘に向け直し言った。
「早く言え、さもないと娘が死ぬぞ」

 ボスは娘が男を愛してることに気付き、もし彼を撃てば、娘に撃たれるかもしれないので、撃つことが出来なかった。男はボスを撃てば、情報は手に入らないし、娘を撃てば、直ちにボスに撃たれるので、どちらも撃つことが出来なかった。娘は男に銃口を向けられ、父親からも何の心配もかけられていないことで、どちらとも自分を愛していないことに気付き、もし父親を撃てば、怒った男に撃たれるかもしれないので、やはり撃つことができなかった。

 膠着状態が続いていた。しかし突然鞄から音が鳴りだし、激しい閃光があたりを包んだ。スタングレネードだった。銃声が二発聞こえた。

 「完全な三すくみではなかったようだな」
と言いながらボスは鞄を拾い、娘が撃たれて死んでいることに気付いたが、彼にとってはどうでもいいことだった。


#5

インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア

 そうだよ、ほんとに吸血鬼だよ。醤油顔の小男じゃ説得力ねぇってか。俺の背は低くねぇんだよ。ここ百年で俺以外がでかくなったんだよ。ああ、百年なんてとっくだよ。俺もう四百年以上生きてるから。平戸で商売やっててな、南蛮人に噛まれたんだよ。珍しい体験か。ここだけの話だぜ。日本で最初にラーメン食ったのは水戸黄門って言われてるだろ。あれな、ホントは、俺。もちろんラーメンなんてねぇよ。出島ができた頃かな、ヒマだから料理してたわけよ。いろいろやったよ。その中でな、豚の骨から出汁とって醤油で味整えて、小麦で作った麺を入れるっていう料理を生み出してな。そう、最初からとんこつラーメン。嘘じゃねぇよ。辿り着くまで五年かかったんだからな。五年もだぞ。え、四百年のうち五年……。あのな、寿命がいくつだろうが、五年でも一秒でもかけがえのねぇ時間なんだよ。その時やったこと、考えたこと、全部血肉になるんだから。あ、今いいこと言ったよな俺。ん、豚ならたくさんいたよ。そう、外人向け。で、日本人も豚食うようになってからまた作ってみたわけだ。そしたらみるみる流行ってよう。当時博多にいたから。ああそうだよ、人生ほとんど長崎だよ。むしろ平戸からもあんま動いてねぇよ。三百年かけて、佐賀県横断しただけだよ。ほら当時なんて徒歩の時代だから。うん、俺は飛べない。文句あっかよ。あのなぁ、日本で吸血鬼やるの大変なんだぜ。西洋建築が入って来る前だとよ、旅しようと思ってもさ、完全に日光遮断できる建物が毎日見つかるとは限らねぇわけよ。棺桶背負って歩くわけにもいかねぇし。三百年で九州から出られもしなかったけどまあ上々だよ。あー、鉄道できてから一日で東京まで来た時はさすがに馬鹿馬鹿しくはなったよ。そう、俺にとっては最初から「東京」なんだよ。江戸時代全部生きたくせにな。ちょっとウケるべ。それから全国回って、ここ何十年かは東京だ。外に出る必要もほとんどねぇし、夜だけ店開けてても儲かるしな。ニンニク使わねぇから女性客に好評だ。ああ、案外あっさり長崎弁は抜けたな。だから最近イングリッシュ勉強してんだよ。あん、血なんか吸わねぇよ。捕まっちまうじゃねぇか。豚の血は飲むけどな。なんだよ、ラーメン屋の小さいおじさん鬼って。座り悪すぎるだろ。いいんだよ吸血鬼で。なんだいその顔は。吸血鬼らしさ発揮すんぞコラ。あ、いや、すいません。警察は勘弁してください。


#6

ボタン

 自動販売機にコインを入れてボタンを押すと、ゴトンといって温かいコーヒーが出てきた。
 手に取った缶をポケットに入れた。ポケットがブルルと振動した。ケータイがバイヴっていた。友人の雄介からのメールだった。
 これからビリヤードをしないかと雄介は僕を誘ってきた。僕は素っ気なく「しない」とだけ打って返信した。
 コンビニへ行って雑誌を買うことにした。大学の試験勉強も疲れる。目当ての雑誌を手に取るとレジへ向かった。
 財布を開いてみると小銭が足りない。お札は1万円札しかなかった。
「細かいのがなくてごめんなさい」と言おうか迷ったけど、やめてケータイをレジに当てて清算を済ませた。
 家に帰り、2階の自分の部屋に戻ってパソコンを開いた。メールが1通届いていた。アメリカに行っていた絵里からのメールだった。今こっちへ帰ってきたらしい。これから橋で会わないかと言ってきた。
 僕は「今行く」とだけ打ち込むと、雑誌の入ったコンビニ袋をベッドの上に放り投げ、急いで階段を駆け下りて出て行った。
 橋には絵里がいた。彼女と目が合い、僕達は向かい合った。アメリカになんて行ってきて、太って帰ってくるんじゃないかと心配していたけれど、変わりない彼女が居た。メールの文面から感じられたように、彼女は昔から何一つ変わっていなかった。
 成人式にも来なかったよな――。高校を卒業して以来、3年ぶりの再会だった。
 僕はこの日をひたすら待っていた。今まで伝えられなかった3年分の思いを、今彼女に伝えようと思った。
 僕は、人差し指で軽く彼女の鼻を押した。彼女は驚いて、そして頬を赤くして、うんと頷いた。
 僕達は寄り添ってゆっくり歩きながら家に帰った。家にたどり着くまで、僕達はお互いの小指を結び合わせていた。


#7

2005年11月25日1:11

(この作品は削除されました)


#8

あくまとあくま

「助け…助けて…誰か」
 枝を踏みつける蹄の音、森に響く怒号。それから逃げる最中、私は嗚咽を噛み締めながら吐いた。

 天気の良い日には木に登って遠くを眺めるのが好きだった。今日もそうしていたのだが、青く綺麗な鳥を追いかける内にお父様との約束を破ってしまったのだった。お父様は私によく言い聞かせた。
「振り返って、城の天辺に掲げた旗が見えなくなるまで遠くに行ってはいけない、その先には悪魔がいる」
 
 どれくらい城から離れたのだろう。額に汗で濡れた髪が張り付く、振り返った時にお父様との約束を思い出した。その時、足元に何かが刺さった。矢だ。太陽の光を受けて鏃が鈍く光っている。
 
 私は声にならない悲鳴をあげて城への道を走った。木の枝が、まだ幼い足に傷をつける。その後ろから
「見つけたぞ!逃がすな!」
「仕留めろ!我々の安住のために!」
その恐ろしい形相と殺気はまさに悪魔だった。出口のない恐怖が私のすべてを包み込む。そのなかでふと、帰ったらお父様に叱られてしまうのだろうと思った。
「やった!旗だ…もう少し…」
しかし、木の根に躓いて背中を無防備に晒した私の肩に矢が刺さる。痛みに悶える私に、忌々しい足音が近づく
「助け…助けて…誰か」
その時、足音が止んだ。と同時にざわめきが聞こえる。顔をあげると見覚えのある足が見えた。お父様だ。

 お父様が手をかざすと森はたちまち静寂に包まれた。忌々しい足音の元はすべて石になってしまった。悪魔の石像は皆、恐怖に侵された表情をしていた。肩の傷に触れながら私の耳元でお父様は呟いた。
「さぁ、城へ帰ろう。我が悪魔の息子よ」
朦朧とする意識の中でその表情だけが焼き付いた。私を抱きかかえて城へ向かうお父様の後ろで、風に吹かれて悪魔の石像は真っ白な砂になってしまった。


#9

パレード

 梅雨。曇天の新宿。歌舞伎町入り口前の巨大な横断歩道で信号待ちをしながら、私は隣に立つ女の手首を見ていた。凛とした顔立ちで、女子大生風に見えるその女の手首には、はっきりと一本の傷が刻まれている。どうしてこの子が手首に傷を付けなければならないのか。私にはそれがどうにも理解できなかった。
 溜息混じりに顔を上げると、私は異変に気が付いた。私の前に立っている男の手首にも傷があり、その横にいる老婆の手首にも傷があった。はっとして、ぐるりと辺りを見回せば、そこにいる人間が全員同じように傷を持っている。私は呆然とした。これは一体どういうことなのだろうか。
 その時、それまで交通量の激しかった目の前の道路から突然車の往来が消えた。周りの信号が全て赤に変わり、人々が何かを迎えるように顔を上げた。
 左方から爆音が聞こえた。思わず驚き、そちらを向けば何台もの戦車が連なり、空砲を上げながらこちらに近づいてくる。その後ろには大掛かりなブラスバンドの隊列が続き、盛大に行進曲の演奏を始めた。人々は待っていたとばかりにその手を空高く突き上げ、歓声を上げ始めた。それはまるで、自分達の傷をパレードに見せ付けているかのようにすら見えた。
 パレードは靖国通りを西から東へ、市谷方面へ行進を続ける。パレードが我々の目の前を行き過ぎようかとした時、人々はついに待ちかねたかのように次々と車道へ飛び出し、その後ろへと列を成すと、お互いに手を取り合い、力強く行進を始めた。その中に私は大勢の懐かしい顔ぶれを見た。母親がいた。初恋の相手がいた。しかしながら、彼らはみな一様に手首に傷を持っているのだった。
 一体何が起こっているのだろう。
 彼らはどこへ行くのだろう。
 いや、何をするというのだろう。
 私はどうすればいいのだろう。
 私は

「わかっているくせに」
 いつの間にか私の隣に立っていた少年が、その手首を私に見せつけニッと笑う。彼の手首には十字の傷が刻まれていた。
「誰だってこうして傷を付けてるんだ」
「でも」
「そうやっていつまでも黙って見ているつもりかい?」
 私が何かを答える間もなく、彼もまた車道に走り出し、パレードに加わった。音楽と人々の歓声がどんどんと遠退いて行く。パレードは今、過ぎ去ろうとしていた。

 あとには誰一人いない新宿に私が一人、残された。呆然とパレードの行き先を見つめる私の頭上では、カラス達が延々と旋回を続けていた。


#10

息子

息子は素直ないい子だったんです。
いや、だった、じゃなくて今でも素直な子だと、わたしは思っています。
わたしは息子が望むものは何でも与えました。例えば魂だとか、欲望、なんていう概念も、わたしなりのやり方で、わたしなりの解釈で与えました。
それが親としての最低限の務めだと思っています。わたしから言わせてもらえば世の中の親は息子に対し、何もしなさすぎるんですよ。もっとかまってやらねば、もっと与えてやらねば、たとえ親がリスクをしょってでも与えるんです。わたしはそう思います。ただ、
その結果かもしれません、息子は何でも欲しがりました。次から次へと欲しがりました。息子が欲しがれば、わたしたちはどうにかして手に入れる、するとそれを10分ほど眺め、次のものを欲しがる。その繰り返しでした。欲しがるものはだんだん大きく、高価で、手に入れにくいものになっていきました。それでもわたしたちはすべてをなげうってでもそれを手に入れようとしました。時には血なまぐさいことにもなりました。少々、法を犯しました。ぬぐい去れないほどの罪を作りました。それでも息子が健全に成長するのなら、と我慢をして手に入れました。気づいたら、手下がいました。
息子が欲しがるものを手に入れるためには、わたしと妻、ふたりだけでは不可能でした。あらゆる能力を持つ手下を仲間に加えることは必然でした。5分あればどんな鍵も開けてしまうものや、すぐに暴力に訴えて相手を黙らせてしまうもの、反対に暴力を振るわずに言葉で言いくるめてしまうもの、政界、財界、様々なコネクションを持つもの、不思議な機械を発明するもの、2k先の林檎に穴をあけることのできる射撃の名手、羽のついた帽子をかぶって飛ぶ永遠に年を取らない少年、中華鍋だけで様々な料理を作れる中華の鉄人、ピエロ、話しだせばどんな状況であろうと爆笑をとれる落語家、獰猛な犬も1分あれば手なずけてしまうブリーダー、妖怪やお化けの知識が底知れない荒俣宏、葬式参列の際も熱血を垣間見せる松岡修造、周りの状況に左右されない大名行列、ピエロの家族、くるくる回るビニール傘、やがて雨模様、おしゃれ小鉢、素敵なダイヤリー、赤黒い動物、うっとうしい蝿、わたしは、海賊船の船長になっていたのです。


#11

DuihitZ

失敗の本質という有名な本のビジネス簡略版を読んだ。技術力の
高い零戦が敗れていく姿に、技術力の高い携帯やパソコンが国際
ルールからはじかれていく姿が書いてあった。零戦のスピードと
日本人の天才的機銃操作に対して、アメリカはスピードを高めず
防御を高め、二基一組の編隊によって封じ込め、素人が撃っても
敵機に近づけば炸裂する弾で、零戦のアイデンティティと努力を
無にした。アイフォンも複雑な部品は使ってはいない。むしろ日
本製は職人しか修理できなかった。プラットホームの共有化など
により、市場から出されて行く。

イノベーション、?

日本人イノベーター、生き残ったの
は行かなかったやつか、帰国子女だ
って内田樹がブログに書いてた。

日本は同化圧力が強い、と
は茂木健一郎。和をもって
貴しとなす、日本人の行動
原理である。…逆説の日本
史井沢元彦。聖徳太子は、
仏教原理や天皇原理の上に
この原理を一番に置いた。
島国であるゆえのことであ
る。また、農耕民族に対し
ての原理でもあろう。

縄文人は狩猟民族で二重まぶた。弥生人は農耕民族で一重まぶた。農耕には、水争い、土地争い、集積する富による貧富の拡大、がある。

部落民とされる人たちは縄文系かね。タン
パク質とれてるから体が大きく毛が濃ゆい
。毛嫌いされた、泣いた赤鬼。肉食を仏教
で禁忌にしました。


あうんの呼吸、本音と建前、付和
雷同、空気を読む、2000年ぐらい
連面と続けられた習慣ですものね


芸能人は縄文系か、在日系。在日
系は一重まぶた。在日系は空気を
読む習慣は弥生系には遠く及ばな
い。職業スタイルが違いすぎるの
だ。

新人類、と呼ばれた若者が出た頃は、世界一
の豊かさにより終身雇用が崩れだす頃であっ
た。農耕的家族経営が世界市場とクロスした


一億の国内市場だけで生活は
できるはずなのか、鎖国をす
ればいいのかはしりませんが
、うまく縄文系の人事を取り
入れたほうがよろしくないか


#12

五時二分

 ぽつん、ぽつん、と点滴が落ちている。耳を澄ますと彼女の静かな呼吸音が聞こえる。白いシーツに覆われた胸が微かに上下している。窓の外にはカーテンを閉めたくなるような青空が広がり、その下にミニチュアのような町がある。左下に学校の校舎と校庭が見えるけれど、あそこは私の通っている高校とは違う。ジャージ姿の生徒が部活に励んでいるのが遠く望めた。
 病室に置いてある折り畳み椅子は、講堂で使うようなパイプ椅子よりも座り心地がよいのだけれど、それでも腰かけると、きしりと小さな音を立てた。腰かけたあとはつい彼女のほうを見てしまう。今の音で彼女が目を覚まさなかっただろうかと。
 最初は四人で訪れた。それは三か月ほど前のことで、そのときの彼女は口に酸素マスクを被せられていた。ずっと目を瞑って、呼びかけても返事はなく、けれどただ静かに胸を上下させていたのは今と変わりなかった。
 私と彼女は同じグループに属していたけれど、それほど親しくはなく、話したことも数回ほどしかない。今ここで彼女が目覚めたとしたら、戸惑いの表情を浮かべる自信があった。
 膝の上に鞄を置いて中から単行本を取り出す。鞄を床に降ろして単行本を開ける。本のページを捲る音はこの病室の静けさを壊さないだろうか。横にいる彼女に聞いてみようかと口を開けて、またゆっくりと閉じた。文字に目を滑らせて、けれど大抵は内容が頭に入ってこない。本のページを捲る。紙の音を聞く。ドアの向こうから話し声が聞こえてくる。談話室で患者さん同士が話しているのだろう。医師や看護師の人の足音も聞こえる。忙しそうだったり、そうでもなかったり。でもそれらはやっぱりドア越しに聞こえてくるもので、こことは違う場所での出来事に思えた。
 テレビの横に置いてある時計はマイメロのもので、彼女のことはよく知らないけれど、マイメログッズをあげたら喜ぶのかもしれない。時計の針は五時二分を指していた。私は立ち上がり、彼女のそばに歩み寄った。長かった彼女の髪は、手入れのためか短くされていた。
 病室を出て通路を歩きながら、大人になってからも彼女の病室で同じように本を開く自分と、突然目を覚ましてお互いに戸惑う二人を想像した。
 エレベーターには私一人が乗り込み、壁に肩を預けて、そっと目を瞑った。短くされた髪の端に触れる、自分の指先を思い出した。まるで大切なものを扱うかのような、どこか怯えた指先だった。


#13

1句目 風通す部屋にうつぶせ寝の父が

 2012年6月8日(金)。父はまた12時半ごろ家に帰って来た。延長労働を再び。

2句目 延長の労働再び卵とじ

 今日の昼食。朝食は昨日の浅蜊汁を用いた雑炊であった。昨夜の夕食はハンバーグに芋サラダと少し大きめの浅蜊の味噌汁。

3句目 縁台が完成をせし南東に
 
 既に南西側には縁台があった。今回は南東にと母。

4句目 親指の負傷をしたる母の事(2012年6月3日)
 
 私は上記4句の俳句や川柳を「便器ーず先生に選をして貰おう大賞」に応募して選外佳作に選ばれたのだがどうして佳作や優良に選ばれないのだろうと不思議に思って便器ーず先生に電話して見た。

「あー君の4句ね。良かったけど華やぎにちょっとね、欠けてね、う、げほがほぐほほほ」
 と電話が切れて私は茫然とした。


#14

密閉信仰

酔いもあって、私と彼の昔話はとめどなく続いた。
「祭りといえば食ってばかりだったな」
「お前だけな。俺は、ああいう食べ物が嫌いだった」
「雰囲気で美味く感じるもんだよ」
「味じゃない。衛生の問題だ」
少し思い出す。そういや彼と彼女は見ているだけだった。
「最近は、ひどくなってきた。スーパーの野菜とかも気になる」
彼は確かにやつれたなと、ぼんやりと思った。そんな風に彼を見ることに何か罪悪感めいたものを感じた。
室内に目を向けると、彼のコレクションが目に入る。彼の後ろの棚には大小様々な缶詰が並べられ、私と彼の座る椅子やローテーブルまで大きな缶詰の形をしている。
「あれ、空気の缶詰か。懐かしいな」
そう言うと、彼は嬉しそうだった。
「缶詰の良いところはモノ自体を保存できることだ。案外、そこにあるというだけで人は満足できるもんなんだよ」
「俺なら、本当に入っているのか、と疑うけど」
「それを信じれるかどうか、だ」
私と彼は少し笑った。それで私の気が緩んだ。
「奥さんは元気か?」
言ってしまってから後悔した。彼は平然と答える。
「ああ、元気にしている」
俺は動揺を抑えて言う。
「半年前かな? 前に会ったのは」
「半年? それはない。少なくとも一年は前だ」
「そうか」
確かに彼女と最後に会ったのは一年前だ。彼と会ったのは数年振りなのに。
もう終わったことだったが、俺は彼から目をそらした。


「シュレディンガーの猫を知ってるか?」
私は彼の突然の話題転換についていけない。
「何?」
「箱の中に猫を入れる。箱には仕組みがあって50%の確率で毒ガスが出る。このとき猫の生死は50%の確率で重なり合っている。誰かが箱を開けるまで」
それが、何だ。
「俺はこれを希望の話だと受け取った」
今更に、彼の目の冷たさに気付く。
「可能性を密閉する。希望はそうやって生まれる。この缶詰には南アルプスの空気が入っている。そう信じれば幸福になれる」
彼の言葉は静かだった。晴れた日の雪原、あるいは教会に差す朝日のように。
「密閉したものは、誰にも干渉されない。変化しない。希望は希望のまま保存される。俺は……俺は、それでいい」
そう言って彼は、愛おしそうに、テーブルを、巨大な棺桶のような缶詰を撫でた。
私は恐ろしい想像に身を強張らせた。
声が震える。
「奥さんは……彼女は、どこにいるんだ」
彼は、視線をゆっくりと私に向けた。そして、人差し指をテーブルに、とん、と置いた。


#15

『波濤の娘』

 あの娘は波濤の娘だ。人を二万人、食った。
 娘が去った後には、花が残った。蛆虫の食う花だ。あの肋骨の柵で支えられた、干からびた肉の。いまでは希少価値の高い紅色の花弁を人々は持て囃し、いずれは撤去費用も嵩むであろう、大型の記念碑を建てた。麓に捨てられた赤子がいた。透明な硝子箱のなかに入れられ無菌状態を保持されながら、超意識投影のための高周波教育を受ける。
 記念碑には去り行くあの日の日付と時刻、娘が浚った人々の数が刻印された。

 赤子は成長し、痩躯の男子に育った。髪は赤毛で、瞳は夜を湛えた黒。巨鴉が伸ばす双翼の如く、はっきりとした眉毛が瞳を抱えた。周囲は身寄りなく生まれた彼に、是が非でも素晴らしい名前をと画策して何度も筆を振るった。高々二、三文字に込められた思いは強烈で、改めて考えればなんてこともない文字も、彼の名前に授けられた途端に墨色の綾が失せた。彼が拒絶の仕草を見せるたび文字群が嬉々とするようでもあった。
 終ぞ彼は名前を持たなかった。
 勇敢なあの子と呼ばれるようになった。

 彼のランドセルには花が咲いた。血みどろの鮮花が植わった黒の合成革は、かの出来事を思い出させた。光が反射し艶かしい油膜の変化を見せる花弁の陰から、苔むした腕が伸びる。蔦でも根でもない、腕だ。彼の首に腕が巻かれ、クラスメイトは瞳を輝かせた。皆が、萎びた暁光めいた瞳だ。
 好奇な眼差しは一年ともたなかった。飽きたのとは違う。皆、外側に行ってしまったのだ。何故かと問うことに意味はなかった。避難もできぬ彼の漆黒の瞳は大海嘯に向けられていた。
 彼がはじめて客観的に宿命を認識できたのは、首筋に痛みが走ったからだ。彼は生まれ落ちた記念碑を訪れる。枯れた花々が横たわる大地のその下に、幾重にも折り重なった紅の層を見つける。歪み、潰された女の顔と頭蓋があり、駈寄る。
 尾けてきた引率の教師が彼を捕まえた。家に帰ろう、の一点張りだった。
 僕の家は此処です、そんな奇麗事を吐く余裕もなかった。

 教師の肋骨は未熟で、彼の重い魂を支えるには不十分だった。耐え切れず瓦解するその上に立ち、彼は泣いた。耳を劈く芝居がかった慟哭を責める者はいない。代わりに曠野は非常警報に包まれ、再び町から人が消えた。

 彼岸から来る少女の首筋に、彼は爪を立てた。
 数百の花弁を散らせ少女は泣いた。
 笑った。
 血と泥の雑じった花は迂闊な恋の色だと云って、笑った。


#16

落としもの

 埃ぽくて薄暗い喫茶店の観葉植物のあいだを、彼女はねずみみたいにチョロチョロと通り抜けてゆく。僕はそれを急ぎ足で追いかける。一足先に奥の席に腰かけた彼女がこちらを振り向いて手招きしてくれた。今日初めて見るワンピース姿がまぶしい。
 シートが少し破れ、黄色いスポンジが覗いている一人がけのソファに、彼女と机を挟んで座る。喫茶店なんて初めてなのに、なぜだかとても落ち着くのだった。店中を満たしているコーヒーの香りのおかげなのかもしれない。
「ごめんね、わざわざ来てもらったのに、こんな天気になるなんて」
人生初デートにタイミング悪く近づいていた台風は昨日通り過ぎてくれたはずだったのに、今日はあいにくの雨だった。
「それは根岸くんのせいじゃないでしょ?」
それにさ、と彼女は続ける。
「雨は嫌いじゃないから」
小さな窓を見上げる彼女につられて僕も外を見る。鈍色の空、けだるい水滴が一定のリズムで軒先から落ちる。
「……ここへは、よく来るの?」
「うん、この席で本読んだりぼーっとしたりするの、好きなの」
マスターらしき渋いおじさんがやってきて、一杯のコーヒーを彼女の前に置いた。頼んでもいないコーヒーとは、やはり相当な常連なのか。僕は少し嫉妬した。僕もコーヒー、とだけ言う。
「台風は雨雲を全部さらってくものだと思ってたんだけど、そうでもないのかな」
僕の記憶の中では、台風の次の日はいつもスカッと晴れていた。彼女は考え込むように視線を泳がせた後、呟くように、
「台風も、忘れられたくないんじゃないかなぁ」
と言った。
 僕がなんだかその言葉にやられてしまって、うまく返事が出来ずにいると、
「虹! 根岸くん、虹が出てる!」
いつかドラマで見たように千円札を机に置き、あわてて彼女を追いかけた。

 雨上がりの歩道橋から見る夕方の空は赤や紫や青や橙や灰をぐちゃぐちゃに混ぜたようなすごい色で、それに向かってくっきりとした虹が地面からぶっとく伸びている。彼女は柵から身を乗り出してはしゃいでいて、僕はすぐ前でぶらぶらと揺れる彼女の左手を握ってもいいものか逡巡する。何してんだ、ほら握れ、さあ、早く、男だろ!
「ねえ」
彼女が不意に振り返り、僕は伸ばしかけた手をあわてて引っ込める。虹の色がいっそう濃くなった気がする。いたずらっぽく彼女が笑う。
「言い忘れてたけど、さっきの、私のお父さん」
僕は小さな嫉妬と恥ずかしい千円札を思い出し、両手で顔を覆った。


#17

猫川俊太郎の死

「福島出身」と告げるだけで、その場を嫌な気持ちにする。私の真ん中に空いた大きな穴が虹を食べている。
「だけど福島だけが汚染されてる訳じゃないでしょ。東京だって毎日被曝してるのよ」
 などと会社の同僚は言ってくれるのだけれど、私は福島を誇りに思ってるわけでもないし、勝手に同情されるのも迷惑な話である。
「ねえ、あんた達まだ放射能とか気にしてんの?」と同じ課の女が、うっすらと赤い鼻水を垂らしながら話に割り込んできた。「だけど自分の不安を放射能のせいに出来る人って、逆に羨ましいけどね」
 ため息をつくと携帯にメールが届いた。

「件名:愛してっぺ」
 福島の友人から。
「本文:あんた、東京に彼氏でも出来たんかいな。311からずっと電話にも出えへんし、そらあメールの文面かて関西弁になるわ」
 と友人は私を責めたが、実は関西へ移住することになったので、今関西弁を練習している最中なのだと告白した。
「:福島はもう限界じゃけえね、彼氏と別れたぜよ。そしたら昨日ね、あの猫川俊太郎も死んだとよ」
 猫川俊太郎というのは、友人が小学生の頃から飼っていた猫の名前で、もうかれこれ百年は生きている猫なのだと、小学生だった私たちは信じて疑わなかった。
「:でもなんくるないさ。地球は丸いのさ」

 残業を終えて会社を出ると、暗闇の中からキラキラと輝く東京が現れた。空気を吸い込むと肺の奥までキラキラしているような気分になった。
「おかえり」
 私は駅のホームに立ち、電車に揺られながらキラキラと夜の街を運ばれて行く人々を眺めた。もしこれがアウシュビッツ行きの電車だとしても、誰一人驚く者はいないような気がした。

「ずいぶん遅かったな」
 アパートの明かりを点けると、ソファの真ん中に一匹の猫が鎮座していた。
「俺のことを忘れたか?」
 いいえ、俊太郎。でもあなたは死んだはずでしょ?
「まあな。でも本当の死を受け入れる前に、お前の顔を見ておきたかったのさ」
 死にも本当や嘘があるの?
「俺は死ぬほど疲れただけ。眠たいだけ」 私は動かなくなった俊太郎を胸に抱くと、ソファに頭を沈めた。
 私を一人にしないで。
「お前は今でも昼寝くさい匂いがするね」と俊太郎は言うと、私の子宮を縦に切り裂くジッパーを恋人のように優しく下ろした。「俺は大好きなお前の中へ帰るだけさ」
 馬鹿馬鹿。死にたいのは私のほうなのに。
「百年後は人間になりたいな」
 私は、猫になりたい。


編集: 短編