第117期 #2
例えば人畜無害の"ふり"をしていれば、誰も私のことを嫌ったりはしない。いや、嫌ったりできない。害の無い者を嫌うというのは余程の理由が無い限りあまり受け入れられるようなことではないからだ。それに誰も気付いていなかっただけの話。…当の彼女も含めて。
これは、人から嫌われることを極端に嫌がった、彼女の話。
挨拶をされたら不器用であっても笑顔で返す。できることなら自分からする。からかわれたら嫌な顔せずその三倍は言葉を遣って言い返す。はっきりした自分の主張は持たない。人の悪口はそれとなく避ける。…人付き合いというのは本当に面倒臭い。しなくていいのなら、したくない。こうまで頑張っても、私は鬱陶しがられている。だがこれもいわゆる『キャラクター』、個性ということでまあなんとか今までやってこれたわけで。
私はこれくらいしか人との付き合い方を知らなかった。
人畜無害でいれば、誰も文句を言わないことに気付いたのは、大分遅くて中二の冬だった。ただ、それから私は変わった。私を取り巻いていたじめじめとした空気は、気付いた次の日からカラッと乾いてどこかへ行った。私の悪口を聞こえるよう言っていた意地の悪い連中も私に笑いかけるようになった。
その時、私は、この小さな社会はなんて単純なんだろう、ちょろいもんだな、なんて思った。
高校生になって、少し頭の良い学校へ行くと周りは社会常識をわきまえている人ばかりになった。そのおかげで、私は自分の欝陶しさにはどんどん鈍くなっていった。
誰かが言ったんだ、私のことを、気持ち悪いと。
すると周りのみんなは、普段からチラチラとそんなことを思い始めていたみんなはどんどん私のことを嫌いになった。
その時、私は、この小さな社会はなんて単純なんだろう、ちょろいもんだな、なんて思った。
これが私の今までで、でもこの話にはエピローグがあって。
私は人から嫌われているのが、嫌だった。吐き気をもよおすほどに。頭が痛くなるほどに、視界が捻れていくほどに。それこそ…死にたくなるほどに。
でも私はみんなのことなんかキライですから、そんな自分に嫌気が差して屋上から落ちたかっただけであり、
決してみんなと一緒に心から笑い合いたかったわけではありません。