第115期 #13

キルト

 死体に、寒そう、なんて言うと妹に笑われるかもしれない。口の端を上げて、鼻を鳴らすように。妹は普段から皮肉屋を気取る性質なので、その表情は想像しやすかった。
 見つけた死体は二本の太ももだった。線路沿いの歩道に並べて捨てられていた。太ももには女性の柔らかな丸みがある。地面に当たっている部分がひしゃげて平べったくなっていて、椅子に座るミニスカートの女の子が浮かんだ。この太ももは体と繋がっていない分、ひしゃげ具合も少ないのだけれど。
 いつも鞄に入れているビニールバッグを取り出し、死体を詰めると帰路を急いだ。バッグを胸の前に持ってきて、ビニール越しに死体を触る。まだ温かかった。僕は地面に横たわる自分の姿を思い浮かべ、寒そうだったのですぐに打ち消した。

 リビングにいた妹に防腐処理を頼むと面倒くさそうな顔をされた。最近生意気になりつつある中二の妹は、死体の防腐処理がとても上手い。小学生の頃からの経験によるものだ。
「あ、そだ、兄貴」
 リビングを出たところで呼び止められた。
「ん?」
 僕は立ち止まって顔だけを向ける。
「ヨリちゃん憶えてる?」
「ああ、うん」
 幼馴染だ。ただ小学校を卒業したと同時に引っ越して、以来四年間会っていない。
「ヨリちゃんのお母さんから電話があって、死体になったんだって」
「……へえ」
「んで、死体分けしたいから連絡してって」
「ん、わかった」

 死体組みは接着剤とホチキスを使うのが簡単だけれど、僕は糸で縫い合わせるやり方を好んだ。糸の柔らかさや、ある程度手間がかかる、その手作業感がよいのかもしれない。縫い目が少し盛り上がるところも好きな要素だ。
 死体分けでは頭をもらった。頭はお墓に入れるか親族が所有するのが一般的だけれど、僕の持っている死体に頭がないことを知ると譲ってくれた。断りはしたけれど、そのほうが頼子も喜ぶだろうと押し切られた。きっと親しかった誰かに死体組みの一つとして使ってほしかったのだろう。そうした考えの人も最近は少なくない。
 ベッドに置いていたヨリちゃんを持ち上げる。面影はあるものの、四年分だけ大人っぽくなっていた。もう少し連絡を取り合っていたらよかった、などと思うのはただの感傷だろうか。
 ヨリちゃんの首の端に糸をつけるところを想像した。ヨリちゃん、どんな声してたっけ。どんな表情浮かべてたっけ。僕は思い出しながら、小さなヨリちゃんを死体たちの上にそっとのせた。



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