第10期 #27

踏切

 カンカンとなる踏切の音が随分と間が抜けているように思えるのは、遮断機がひどく錆びついているせいだろう。点滅を繰り返す警報灯もどこか薄々としてはっきりとしない。ただ奇妙なのはそのことではなくて、随分と以前から警報の鐘が鳴り響いているのに関わらず一向に列車が通る気配がないということの方だった。空はどんよりとした薄暮で、ひどく錆びついた遮断機はその空と丁度、釣合いが取れているように思えた。

 随分と時間が経った後、突然何の前触れもなく警報が止まり、ひどく錆びついた遮断機がギギっと棹を震わせながら上がっていった。空は相変わらずの薄暮でどこかで烏がカァと鳴いていた。そして、ゴトゴトを音をたてながら、線路の向こうの遠い所からひどく錆びついた列車がやって来て、丁度踏切の所に停車した。錆びた列車はしばらく錆びたドアを震わせた後、大きな力で無理矢理抉じ開けたように勢い良くドアを開けた。中からは幾人ものどこか錆びついたような人々が降りて来た。

 私は彼らを歓迎すべくゆっくりと諸手をあげて「おおい、こっちだ」と言った。



Copyright © 2003 曠野反次郎 / 編集: 短編