第10期 #28
「出席をとる」
戸張高校に赴任してきてから三年目になる担任の原は出席簿を手にとって言った。
「新木順平」
「はい」
順平はあくびが出そうになるのをこらえながら答えた。
「茨城楓」
「はい」
楓はピアスの穴を空けたばかりの耳を触りながら答えた。
「加藤明日香」
「はい」
明日香は原の高圧的な口調に苛立ちながら答えた。
「木村龍介」
「はい」
龍介は消え入るような声で答えた。
「坂巻翼」
「……」
「坂巻は休みか」
誰も何も答えなかった。
「椎名晴彦」
「はい」
晴彦は朝食のときの父親の寂しそうな表情を思い出しながら答えた。
「柴聡子」
「はい」
聡子は昨晩龍介のホームページを見つけたことを龍介に言おうかどうしようか迷いながら答えた。
「鈴木朝子」
「はい」
朝子はまつげを指で整えながら答えた。
「高野真里菜」
「はい」
真里菜は治の汗の匂いにうんざりしながら答えた。
「高橋亮太」
「亮太くんは途中で怪我しちゃって、ちょっと遅れるそうです」
千沙は落ち着こうとつとめながら答えた。
「田中葉子」
「はい」
葉子はスクリーントーンを買いに行かなきゃと思いながら答えた。
「種田治」
「はい」
治は翼がまた学校を休んだことに悲しみながら答えた。
「千葉一兵」
「はい」
一兵は机に原の似顔絵を描きながら答えた。
「鳥羽理尾奈」
「はい」
理尾奈は弟の正人に殴られた右肩を押さえながら答えた。
「中村務」
「はい」
務は千沙が亮太の代わりに答えたことに動揺しながら答えた。
「服部幸次郎」
「……」
「幸次郎」
「……」
幸次郎は何も答えずに窓の外の景色を眺めていた。
「羽野小百合」
「はい」
小百合は幸次郎なんか学校に来なければいいと思いながら答えた。
「柊柚月」
「はい」
柚月は原の切れ長な目をじっと見つめながら答えた。
「吹雪創」
「はい」
創は理尾奈の辛そうな顔を気にかけながら答えた。
「古橋研一」
「はい」
研一はUFOのことを話してもどうせ誰も信じてくれないとあきらめながら答えた。
「的場千沙」
「はい」
千沙は通学中に手をつなごうと触れた途端逃げ出した亮太を思い出しながら答えた。
「睦月健次」
「はい」
健次は椅子から尻を軽く浮かせながら答えた。
「室井杏子」
「はい」
杏子は千沙が亮太と仲良くしていることに苛立ちながら答えた。
「横溝要」
「はい」
要はいまここにミサイルでも落ちてくればいいのにと思いながら答えた。
「それじゃあ授業をはじめる」
原は出席簿を閉じて言った。