10「Air-Complex」
・納得できない点
思わず投票しそうになったが、しなかったのは、やはり暖房が本当に暖房のことだったから。つまり駄洒落ぽかったから。
もし暖房や冷房やドライといった名前でなく、ただのフトシとかノブオとかいう青年たちの会話だったら最高だった。ドライに「ドライ」と呟かせなくたってよかったのに。そこまで読者を馬鹿にしないでいただきたい。駄洒落をつかってくれなくても、それくらい、わかるつもりだ。
・参考にしたい点
駄洒落は勘弁してほしいけれど、
「女の子はちゃんとコントロールしないとダメだぜボーイ」
「オーケー。俺が工場のエンジェル達と仲良くなって暖房の電源を再起動してやるぜ」
こういうセリフにはかなりグッとくるものがある。なんとすばらしいセンス。まさに現代の模倣ではなく、次の時代をつくりそうな予感を感じさせる。
11「花筏」
・納得できない点
物語としてのバランスが……気になる。全体としてはすごく好きなのだが。
多分、女が「花筏」について唐突に話しはじめる点がひっかかるからだと思う。もちろん、ここがキーポイントなのはわかっているつもりだが、やはり、不可思議な女を最初から最後まで不可思議として描くのは人物描写のバランスが悪いと思う。
私ならば、「破壊にも似た保護のもと、都会で自然は営んでいる。」と都市の自然について独自の考えを持っているこの主人公に、ごみ拾いかなんかさせてみたい。通勤中であっても、彼は無造作に捨てられる空き缶に我慢ができない。コンビニの袋かなにかに拾いながら会社へ向かう。そこで女を登場させ、「なにしてるんですか」と一言、女にたずねさせる。女からほめられた男が「いやあ、空き缶はともかく花びらは落ち続けるし、意味ないっていやあ、意味ないんだけどね」と会話をはじめたところで、女の「花筏」を登場……とやってみたい。
・参考にしたい点
川というのは、というよりわれわれが好む自然とは「破壊にも似た保護のもと」にある、ということが何気なく語られているけれども、これは大事な考え方だと賛成する。大自然というのは、ほんらい「癒し」などとは程遠いもので、もっと暴力的で残酷なものである。「人工」という響きを普通、悪い単語として使う人が多いように思えるので、ひさびさに新鮮だった。花筏というのも、造られた都市の川でみるからこそ、生きてくる。
12「ありがとう」
・納得できない点
昔飼っていた犬に助けてもらった、というオチをどう取るか。私はここに不満を覚える。というのは、この犬の存在が、作者の心のなかで突如浮かび上がったものに思えないからだ。頭で考えて、論理的に「これでオトそう」というのがみえみえだからだ。いってみれば、逆にナンパされるのを狙ってわざと黄色のハンカチを落として歩いているかのようである。
・参考にしたい点
文章が滑らかで、読みやすい。
「会社で大変なミスを犯し多大な損害を与えてしまった亮輔は、死んで詫びようと考えふらふらと道を歩いていた。」
という出だしの一文も無理がなくて、すぐに主人公・亮輔の自殺について入り込めていけた。これは簡単なことではないと思う。普通、自殺する主人公の小説に付き合うのは疲れるものなのだ。
13「梨葬」
・納得できない点
冒頭の「議論」が硬すぎる。これはわざと翻訳調にして、若い男女二人の滑稽さを強調するためなのかもしれないが、読み手にとっては彼らが幼なじみなのかはどうでもいいことなので、この議論の硬さに興味がわかない。ここは省略するかむしろ、後半に触れられる彼女の「梨のような胸」の話を、わざと最初にもってきて、
「俺たちは幼なじみだから貴様の梨のような胸をもませろ」
「イナ! 私と貴君は家庭教師の関係デアル。すみやかに私を合格サセルために汗をナガセ」
「俺は家庭教師の前に健全ナル日本男子デアル。カツ、金銭よりも貴様の梨のような胸を報酬として求メル」
というのはどうだろうか。
・参考にしたい点
「梨は祖母の好物だった。女が梨を祖母の口元へ運ぶ。祖母は口角から滴をたらしながら小さくカットされた果実を噛み砕く」
この部分がとても小説の文章だと思った。固有名詞にたよる短篇作品が多いなかで、きちんと描写ができている文章を読むと落ちつく。こういう文章が読めると参考になる。
14「指の夢」
・納得できない点
とても面白いような気がするのだが、悔しいことに、この話の状況設定がまったくわからない。男と女と監獄と監視員がでてくるが、これは空想の監獄の話なんだろうか。それとも現実世界のことなのか。男女を隔てているのはフェンスだけなのか、壁はないのか。他にも囚人はいるのか、いないのか……基本的な絵がみえてこないので、せっかくの指の動きのことにまで意識がむかない。残念。
・参考にしたい点
話の意味はわからなかったけれども、指と指だけの絡まりあいというのは、清純さを保ったまま相当にエロチックであるなあ、と参考にしたく思った。
15「夢」
・納得できない点
文字数が少なすぎるが不満なのと、小説家は無理だから漫画家になろう、という結論にはまるで納得がいかない。
・参考にしたい点
「読み返してみる。駄作だった。」という箇所は小説というより、小説家のありかたとして、とても大事なことだ。駄作だとわかっていればこそ、次作への意欲も湧くというものだ。その一方で 「この作品に敵うものなど、ないと思った。まさに、最高傑作」とうぬぼれる能力もなければ作家などというのは阿保らしくてやっていられないだろう。作品というより作家論として参考になる。
16「世界の死」
・納得できない点
「夢をみる機械」と「世界の死」と「人間の死」のテーマがあわさることなく、それぞれ暴走している感じがする……というか、つまり村上春樹「世界の終りとハードボイルドワンダーランド」ってことだろうか。
あと、ささいな点だが「お洒落なコンドームの箱に似た煙草ケース」が気になる。お洒落な、という点が。
・参考にしたい点
千字で村上春樹の大作を要約せよ、という大会であったならば、これはそこそこいい線いくのではないか。リスの比喩の中で「誰にだって秘密はあるわ…」ともっていくところなど、本家以上ではないか。あと、彼の短篇「眠り」もうまく組み込まれている。
17「雪」
(投票予定)
・とりあえず一言
今期の作品「ありがとう」が描きたかった境地はここではないかと思う。この作品はすばらしい。
18「擬装☆少女 千字一時物語42」
(投票予定)
・とりあえず一言
前期、作者を絶賛したので今期はかなり意地悪に読んでみたのだが、否定すべき点がない。名文とは程遠いが、独自だ。独自ゆえに、癖になると離れられない魅力を持ちうる。飛行機は滑走路から飛びたち始めたか。
19「積み木の空とウロボロス」
・納得できない点
積み木がいつも邪魔をされてしまうだけの話であるから物語としてものたりない。教訓話として
読んでも、「出るくいはうたれる」とか、そういう連想となる。
・参考にしたい点
手足が動かなくなっても無理矢理動かして、積み木を積もうとするその執念が、なにか不思議な読後感を残してくれる。
20「私の夢を見る私」
・納得できない点
私が彼女になり、それは夢であり、潜在意識であり、雲がしゃべりだす。すこし設定が雑である。彼女の声にしぼって作品をつくればよかったのではないか。
・参考にしたい点
全体が抽象的だったなかで、「足首の太い血管の出血」というのがとても目立っていて、ここがいいと思う。