記事削除: パスワードの入力

削除する記事の内容

今月は面白い作品があって良かったです。
書き手として長いので技術的にここが良いなあという指摘になっててなんだか素直な楽しみ方じゃない気がしますが、ごめんなさい。
ぱっと読んでみて面白かったと思い、面白いから読み返して、あ・ここが良かったから面白かったんだなということが多いです。

1 宵待ち
面白かった。投げっぱなし感が心地良かった。
「あの深々とした静寂の、あの冷え冷えとした肌触りの、あの暴力的なまでの色合いをもった、完全な宵が」といった一文は小説を読む際の楽しみだと思う。「冷え冷えとした肌触り」までは自然に理解できるんだけど、「暴力的なまでの色合い」としれっと書いているけど、「宵」って暴力的か? とつまづいて考えさせてしまうところが楽しい。ひとまずこの客にとって「宵」は暴力的で、なおかつその「宵」が客にとっては欲しいもので、店長にとっては欲しくないものだと。この、客の飢え。さらに「完全な」としてるところには、ちょっと極端すぎて病的さも感じられる。それからもちろん、「あの---の」の畳みかける音の楽しさ。
「宵」を知らない人物を店員として登場させたところも器用だった。第三者にとっては「誰からも反応がないのが気にならない」ようなものが、客にとってはどうしても欲しい。
客の「宵」に対する欲求を強調している。同時に、読者にとっては「宵」がそんな重要なものとは思えてないから、その橋渡しの役目も果たしている。
「宵」が欲しいって発見がないと書けない作品。
と、「客足も上がる」は、伸びるか、増えるのほうがしっくりこないかなと思った。どうなんでしょう。

2 金平糖と僕達
感想を書けない水準の作品。作文上のトラブルが多くて、こういうことなのかな、と安心して読めない。印象としては、ちょっとはかなげな感じがしました。
冒頭からまどろっこしい説明。優香ちゃんが裕福とかどうだとか関係なく、すぐ金平糖を登場させて良かったんじゃないかな。
あと「灰になってる」というのは、粉々になってるってことですか?
そして「地面から手が離れた頃」というのは、もう二人が死んでるってことですか?
作者だけに分かっていて読者には分かってないことの識別がまだちゃんとできてない感じでした。もっともらしい書かれ方してるけど、よく分からない部分が多い。

3 ひとめみた瞬間に
これも感想を書けない水準だなあ。
私、小説のネタになるかと思って、スナックで働いている40前半の子供のいるホステスと会って話すのね。もう子供は成人してる。幾分かは短編に投稿している作品に断片が出ているけど、なかなか良い話は書けない。薄っぺらいんだよね、話の内容が。旦那の他に恋人がいるとかどうとか。そんなん、別に好きになったら好きでいいじゃんとか思って聞いてる。でも本人にとってはそういう恋愛という経験を消費しているのが生きがいみたいになっててさ、で、この話はその人の話にすごく似てるの。
人間は誰かに理解されたいし、理解されると嬉しくてこれが恋愛かなとか思うし、それを消費して楽しむ分には勝手にやってらっしゃっていいのだけど、それはそれで、それは他人にとってはあんまり面白くない話なのかな、と最近思ってます。同じく恋愛を消費してる人にとっては面白いのかもしれないけどさ。

4 憧れの幽体離脱
良かった。面白かった。この作品の感想を書くためだけに、言訳として全部の感想を書いている。前回優勝したけどあんまり信用してなくて、信頼できる読み手の人に読んでもらって、その人にも良いって言われたのでやっぱり良いと思います。
削除申請をしたなんとかさんの作品を除いて、短編の全作品を読んでいる私としては、
市川さん(http://tanpen.jp/authors/22-13.html
森綾乃さん(http://tanpen.jp/authors/59-2.html
sasamiさん(http://tanpen.jp/authors/68-20.html
を思いだします。3人ともあんまり長続きしなかったけど。まず感性がやばい。あとスピード感、とにかく早い。
分かりやすいすごさとしては、「私は21グラムになる。」で言いきるところ。魂が21gという雑学は、映画にもなっているから知っている人も多いとは思うけれど、ここで説明を切る大胆さを持っている作者は少ない。
「空中散歩」のふわふわした感覚とそれを実現するための幽体離脱を、恋愛の高揚感に見立てられたこと、が良い。
で、さらりとやってるけど、構成で「空室」を持ってきて話に締まりをつけているところもすごい。これができる人は少ない。この空室のエピソードがないと、恋愛の昂揚感の見立てだけになっちゃう。幽体離脱の説明として司くんとの初めての空中散歩を描いているから、その高揚感の先に何が待っているかについては、二人の芝居で説明するにはその後を描かなきゃなんない。例えば「二年後」とか時間経過させて。それを、たまたま見かけた二人ですんあり説明させてるんだよね。上手い。自分たちの後先の暗示でもあるし、読者の私としては、それって本当に幸せなことなんだろうかと考えたりもして、解釈の余白も生まれている。こういう構成を意図的にできる人、本当に少ないんですよ。

5 ねえ、スタン
冒頭を読んで思わず、ミスチルのくるみを聞きだしてしまった。面白いんだけど、なんか爽快感に欠ける感じ。
言葉から言葉へ連想する楽しさはいつもあるんだけど、それだけみたいな物足りなさがある。
「夫なんてアリクイってことをもう隠してないからね、開き直ってる。いやんなってね、実家に戻ります、って手紙置いて戻ったの。」て、平然と話が進んでいくところとか。
「誰?って考えたら、おばあちゃん。アリクイのおばあちゃん、会いたかったわ」という跳躍もすごい。
て思うんだけど、そのすごさだけで、なんかこう、こちらの読み手の人生経験にいっこうにフックしてこない感じがする。バーの人に愚痴を吐く感じは分かるんだけど、こう、なんかこう、しっくりこない感じが。

6 Death and Alive
ドライな文体と生き死にモチーフの組み合わせがすごく良かったのだけど、なんかそれだけで、あともうちょっと糸を引く感じが欲しいなあって思った。
「「Hands Up」と解釈して、両手を挙げればよいのだろうか。それとも、脇に拳銃でも吊るしていないかをこの男は確認したいのだろうか?」とか、ああそういうことか、とか瑣末な追求は興味をそそられたのだけど、大枠の夢と現実みたいなところに対する深彫りが浅かった。
「スクランブルエッグにケチャップをかけていた時」と「自分の脳みそがスクランブルエッグのようになった感触」みたいなイメージの共鳴が、作品全体にもっと及んでいたら、たぶんもうちょっと変わっていたんじゃないかなと。

7 ××されない化け物
愛されない。こういう自分中心の人格は。
これも感想以前の水準だなあ。

8 銀座・仁坐・寒坐
今なら多少なりとも銀座と関わりのあった清原の話をしたほうが、書き手として善良じゃないかと思った。水商売には人を食いものにする側面があるでしょう。地方の女の子を騙す時の宣伝文みたい。前から気になっています。

9 おら動物になりテェ
切実な感じがするけど面白くはなかった。
感想を書く以前の作品だった。合唱。

10 人という存在 月見里 姫槊
これも感想以前の作品だなあ。
作品として見れない。作意があって、それを読者に伝えることのできるのが作品だと思う。
例えば「人と人との縁は絶対に偶然なんかではないのだ。」て結論にはぜんぜん納得できないし、それを納得できるだけの説明はこの文章の中にはないと思う。だから作品じゃないよなあ、と思う。まあでも、作意がなくともなんかすごくて、結果的に伝わってくるので作品になってる、て作品もあるんだけど。
作者が何を分かっていて、読者が何を分かっていないのか、の線引きができないかなと。

11スクリャービン
あ、隣の女を口説くわけじゃないんだ!
よく分からんけど良かった。体はカッと熱くなっていた。楽しい。カッ。
良いと思えるのは無駄な文章がないからなのかな。
私、スクリャービンとか今初めてyoutubeで聞いてるし、この人(https://www.youtube.com/watch?v=6eYw1MkmYW4)は美人だなあというくらいにしか言えないけど、というかほんとに美人じゃんね、てくらいにしか思えなくて、だからまったく共感できない世界観なんだけど、でもなんか面白いんだよな。腋臭の女に催すってのは分かるけど。
どこがどうだから面白いんだよとか、いちいちめんどくさいよね。面白い物は面白いでいいじゃん。つーかどうしてこの作品は面白いの? 分かんない。誰か教えて。

12 放っておけない私
これは、面白くなかった。私と俺に分割したアイディアは分かる、取り憑くのにテクニックがいる設定には面白みがあった。でも、それだけ。分かりやすいのでベタ褒めした作品を引き合いに出すけど、「幽体離脱」で言ったら、幽体離脱しただけで終わった話。それ以上でもそれ以下でもない。ただ、死んだ私と俺だけ。それだけ。「肉体がないので言葉が上手く伝わらない」とか、そういう考察はあるけど、ただ、私と俺に別れただけ。
さらに「(短編読者の皆様、さようなら)」という内輪ネタが面白く無さに拍車をかけてどん底だった。
感想を書ける水準ではあった。

13 えび天
これも、「放っておけない私」に似た感じ。
内容は「お互い好きあっているのにそうじゃないみたいに振舞って、馬鹿じゃないの?」で終わってる。
映像だったら見た目の良い俳優を入れたりすれば画面が持つけど、文章だと三島由紀夫くらいの文体もってこないと成立しないんじゃないのかな。
で二人の関係をえび天に見立てるのは、ちょっとバランス悪いなって感じ。大袈裟でしょ、えび天でいくらなんでもそこまで連想できないでしょうと。
印象としては、ほのぼのとしていていいんだけど。

14 体内時計
あ・これはもったいないなと思った作品。
真面目に丁寧に書かれてるんだけど、無駄が多いんだ。誠実な感じはするんだけど。
「私は21グラムになる。」みたいな大胆さがない。
例えば冒頭の「脳内にけたたましいアラーム音---音は止んでゆく。」は、「朝。アラーム音。起きた。」でいいじゃんと思う。けたたましいとか、きっかりとか、最も不快なとか、副詞、形容詞、は意外と要らない。仮にどうしても「最も不快」てことを言いたければ「この音が俺は一番嫌いだ。」として、文を分けてやればいい。けど、なくても問題ない。
企業に管理されるサラリーマンが描かれている。内容はちょっとシンプルかな。「放っておけない私」「えび天」と同じ感じでちょっと薄いか。「流入し続ける安価な労働力」あたりの説得力で、読みごたえは生まれているけど。
例えば「違法パッチ」を手に入れるために、引き換えに目玉を売って今は人口眼球で彼女は生活している。で体内時計での管理は免れているけど、今はその人口眼球によって管理されている、て堂々巡りにするとか。いくらでも展開はつけられるからなあ。

15 夜行船
夜行船に乗ってみたいものだね。

16 シューカツが終わるまで
これはすごく気持ち悪かったんだよな。セックスしてやれよって思った。私も意図的に気持ち悪い作品は書くけど、こういう底意地の悪い気持ち悪さはやだなあと。
文章とか丁寧だし、作品になってるんだけど、この男の人間性が気持ち悪すぎて本当に目をそむけたくなる。
「第一希望に見事通るとか、一番に決まることはないだろうが、内定を取り損ねることもないだろう」て女のことをバカではないがそんなに優秀でもないって値踏みしてるところとか、「三十を迎えても非常勤講師に甘んじている僕は、彼女が就職を決めれば、二十二歳のこの子に先を越されてしまう。」みたいな人間の小っちゃさ。で止めに「シューカツが終わるまでは、しない」て身勝手さ。我慢できないくらいにひどい。なんで女はこんな男と旅行に行っちゃうかな。
昔の作品だけど(http://tanpen.jp/72/15.html)という前科もあり、こう、女性に対する扱いのひどさを味わう作品なのか。
「一泊分の用意を持って、自分の古い車で連れてきた。受付で二人の名前を書いて、エレベーターに乗り、和室の一室に案内された。平日で、客の姿はほとんどなかった。温泉も貸し切りだった。高くはないが、会席料理も食べた。」という、話の本筋には無関係な逐次的説明もさらに気持ち悪さに拍車をかけてるんだよな。妙に律儀で、丁寧で、女性に対して攻撃的ではないよという表面を装ってはいるものの、内心にはどす黒い自己中心的な考えがある。そこが気持ち悪い。読むのに堪えられない。

運営: 短編 / 連絡先: webmaster@tanpen.jp