こんにちは。第60期感想その5(作品28・2・8・1・14・16・23・29・30)を書きました。
#28
ごっつぁんです
作者: バターウルフ
文字数: 800
初デートに意気込んでいる男が「あとはキスだ」というときに、ベンチに横綱が座っている。戸惑いを隠せなく、おどおどしている男にむしろ女の方からキスをする。そのキス・シーンを目撃して仰向けに倒れた横綱を二人が起こしてやって、キスの続きをはじめる二人の話。
横綱はただ日向ぼっこをしていただけかもしれないので、ちょっと可哀想だな、と思いました。キスできてよかったね! と思いました。
#2
大きな三角定規
作者: 藤舟
文字数: 1000
座敷牢で三角定規をみつけた「私」はとがってるところをガリガリ削りはじめるうちに、人間の皮膚を丁寧に剥げば三角になる、という話を聞いたことを思い出す。頭の中で仮想の人間を剥ぐ妄想にふけりながら牢の壁を削り、ついに脱出したと思いきや、そこは断崖絶壁で、「私」は墜落して死んでしまった、という話。
話しているはずの「私」が自分を「死んだのでした」と言いきっているのは「可笑しい」ともとれるし、読み方によっては「こわい」です。くだらなくて疲弊する質問なんてきかないでください、なぜかと問うようなやつはまぬけです、と聴き手に注文をつけながら延々と自分の空想話をつづける主人公の抱えるむなしさというのはわからなくもないです。みんな寂しいなあと思いました。
#8
ピアスの青年
作者: 八海宵一
文字数: 1000
クラスになじめない転校生の男と同級生の女が偶然に町で出会う。女は男が「陸上部向きの脚をしていて、陸上部の部長も勧誘したがってた」とのことを伝えるけれど、翌朝学校にきてみると二人を冷やかす噂がでまわっていて、その張本人が男を勧誘したがってた陸上部の部長であったことを知って、転校生は黙りこむ話。
この話を読んでいると中学校や高校というのは地獄みたいな場所であったなあ、と思いました。たまに「短編」に現役(というのも変ですが)の中高生作家をみつけると大変だな、と思います。というのも、この話のようにちょっと女の子と話せば冷やかされたり、クラスメートなんて勝手に組み合わせをつくられて一年過さなければならなかったり、とにかくいやでも周りとの調和を求められるからです。この早熟なアルバイト青年が学校に馴染めないのも当然だと思いました。
#1
四十五円
作者: アサギ
文字数: 853
高校合格のために友人と神社へ参りに行った「僕」は友人に5円玉をかす。が、その帰り道に友人は事故で死んでしまった。その後、めでたく高校生になった「僕」が友人の命日に高校で知り合った「アキ」と一緒にお参りにいく話。
アキというのが男だと、また別の話になってきそうだな、と思いました。
#14
擬装☆少女 千字一時物語14
作者: 黒田皐月
文字数: 1000
(おそらくゲイ・バーが舞台なんでしょうか?)古馴染みの「奴」に気がある「俺」は最近「奴」に群がる「虫」が多くなったことが気になっていて、「奴」を「俺」のもとへ奪回するべく「清楚な膝下丈ワンピース」や「化粧」をして「奴」の偶像になるべく努力する話。
「適度に締まった中背の身体、流れる水のような立ち居振る舞い、淡白だが静かに寄り添うような接し方」……つまり「奴」は知的で洗練されているというわけなんですが、そんな「奴」が男のワンピース姿に惚れることはあるんだろうか? というのが素直な疑問です……いや、多分、この物語の「俺」の女装のイメージがどうも「オッサン」に思えてならないからかもしれない。美男子の女装とオッサンの女装では話がちがってくるように思いました。「人間は姿格好ではない」と思いたいですが、オッサンの女装姿は見苦しいものがあります、どうしてでしょうか。
#16
少年たちは薔薇と百合を求めて
作者: qbc
文字数: 1000
ある変わった特殊学級に転校生がやってくる。美女だった。三人組の男子が彼女の気を惹こうとするが、いつまでたっても美女は男たちの名前を覚えてくれない。悪い男に乱暴されて記憶を奪われてるにちがいない、と推理した三人組のリーダーが仲間をひきつれて美女の家を訪れるが、美女は実は六つ子で、交代で学校に来ていたからだった、という話。
<腹の脂肪を振動させ、蓄積された力を前方へ放つ>という必殺技がおもしろかったです。でもその必殺技で倒された男は結局「悪の乱暴者」でもなんでもなかったはずなので、かわいそうです。
#23
保険金詐欺とばれて親指も保険金も失った春に
作者: 咼
文字数: 1000
保険金詐欺がばれて無一文となった主人公は裏庭のウサギを売って金を稼ごうと駅前に向うけれども「誰に断わって商売しとんネや」とヤクザにすごまれて列車へ逃げる。意外にウサギが車内で売れ、気が休まった主人公がそのまま列車で寝続けるという話。
「誰に断わって商売しとんネや」という一文が印象に残りました。それを「質問ではなく、単なる鳴き声なのだ」と書いている視点がおかしかったです。うさぎって実は人間のことなんじゃないか、と思うとゾクっとします。
#29
藻屑
作者: もぐら
文字数: 1000
気づいたら正方形の部屋にいた主人公は唯一の窓にちかづいてカーテンをめくる。すると窓の外にいろんな魚がいて、まるで窓を破ろうとしているかのように「こつこつごつごつ」と叩いていて、おまけに魚たちは主人公をみている。驚いて一歩下がってみると、カーテンと思っていたのはワカメで、男はどうやら自分が深海の底にいるのに気がつき、おもわず手元のワカメをむしゃむしゃ食べる話。
おもしろかったです。夢をみているように小説を読みました。でもその夢は自分の夢ではなくて作者のつくった夢なので、これは見事にやられたな、と思いました。もうすぐ窓が割れて、魚たちが飛びかかってくるかもしれないそのときに、手元のワカメを食べてしまう主人公の動きはリアルですね。
#30
彼方
作者: 壱倉柊
文字数: 998
上司を殴って地元へ異動になった主人公が祖母に家を訪ねる。祖母は金魚を飼っていて、その長生きの金魚をみていると、子供のころにカメやオタマジャクシなどを飼ったもののうまく育てられなかったことが思い出され、「自分が殺した」と半ば自分を責める。まもなくその祖母が亡くなって、それも自分のせいだろうか、あれから自分は生き物に優しくなれただろうか、と物思いにふける話。
子供は誰でも虫を殺すものなので、それが「自分が殺した」「殺した」「殺した」と思い悩んでいる主人公には話し相手が必要なのかもしれない、と思いました。もし恋人でも親友でも行きずりの誰かとでも、このことについてじっくりと話を聞いてもらったら、おそらく主人公はもう少し健康的な人になるんではないかと思いました。あるいは彼のような人にこそ物語が有効なのかもしれない。