はじめまして。
第60期作品群を読ませていただいたので、感想を述べます。
過去の掲示板記事を読むことができないので、内容に重複部分があったらご容赦ください。
全体に、発想は面白いものが多く、楽しんで読むことができた。しかし、千字という字数の短さがもっと意識されてよいように思う。千字は非常に少ない。その範囲内で作品を完結させようとする努力があってよい。
千字で、ある程度の完成度を求めるなら、一字も無駄にはできないし、工夫も必要。発想はいいけれど、それを文章で表しきれていない、とか、文章は面白いけれど内容はありきたり、といったアンバランスさを感じた。
また、余韻を残したいのか、謎を残しておいて読者に不快感を与えたいのか(強い印象を残したいのか)、筆者の意図がわからないことが多かった。
筆者が必ず読者を想定しなければならない、とは思っていないが、敢えて投稿するのならば、筆者なりの「意図」は持つべきだし、それが伝わるように書くべきだとは思う。不案内なことと、行間を楽しませることとは違う。
「四十五円」
書きたいことは理解できるが、まとめ方が息苦しい。内容が字数に見合っていない印象を受ける。語りを工夫するとよいかもしれない。郷愁や感傷を描くなら、情緒の感じられる文章が必要なのでは。
「大きな三角定規」
言葉遣いに神経質な人を描くのは難しい。「よほどまともな公共放送のニュースでも言葉使いに虫唾が走るタイプの人間」が「ようやっと」を使うだろうか……
「虫唾が走る」部分が語り手と私とでは違うのだろうか。よくわからない。自分で「○×なタイプ」と言ってしまうところに異常さを感じればよいのか……異常さの描き方に工夫が足りない。
「金魚ガ笑ウ」
発想は面白いが、題名が発想の面白さを活かしきれていない気がする。
字数に余裕があるので、もっと謎を膨らませてもよいのではないか。
「図書室の思い出」
よくまとまってはいるが、基本的な発想がありきたりすぎる。語りに工夫も少ない。中心となる会話で楽しませてほしかったが、投票したいと思うほどには面白くなかった。
「擬装☆少女 千字一時物語14」
あるシリーズの中の一作としてならば面白い。が、そこに頼って投票するのは憚られた。それは千字という枠を超えていると感じられる。もしシリーズ化するのなら、一作目だけを投稿し、あとは自サイトで発表しては如何。
独立した作品として読むと、謎が深すぎる。なにやら面白そうではあるが、どこを面白がってよいかがわからない。語り手は女性らしいが、女性らしくない語り方をする。「虫がつく」という表現を男性に対して使い、発想の転換を楽しませる。実は男勝り(と感じるが、本当にそうかどうか疑わしい)な女が少女性を偽装するから、上の題名がつくのか。語り方の面白さだけでは物足りない、男女の逆転も中途半端、語り手の決意も迫力が足りない、という印象。
……と書いたが、筆者サイトまで行って漸く作品を少し理解した。すっかり騙された。筆者の意図はどこにあるのだろう……私は、ジェンダーを揺るがしたいのかと思っていたが、勘違いだった。
「赤いマリオネット」
本作のような形式は好きだが、完成度が低い。前半の、信号機を凝視するところから生まれる幻想は面白いが、後半は楽しめなかった。
「少年たちは薔薇と百合を求めて」
題名と内容の関連がつかめない。
何をしたいのかがわからない。読者への皮肉とさえ受け取れる。悪意?全体が不快な皮肉にしか思えなかった。形式への挑戦、ちょっとしたSF、では片付けられない悪意が、登場人物の造形からうかがえる。単純に面白がることはできない。
「保険金詐欺とばれて親指も保険金も失った春に」
文体への工夫は感じるが、いまいちリズムに乗り切れない。題名も、もう一歩。また、この語り手をどのような人物として描いているかが伝わりにくい。統一感がない。
二段落目、後ろから四行目辺り「奴等は〜」での主語と、次の文の主語が違うらしいのに、明記されていないので「奴等」が「耐える」のかと一瞬、勘違いした。三つの文で連続して語尾が「だろう」になっているので余計に。この手の勘違いを狙っているとは思えないが如何。
「女たちと古い本」
筋は面白い。しかし有名作品の引用の仕方は成功していない。語りから情緒が感じられない。オノマトペの使い方にも工夫がほしい。
「旅、馬、東、そして西」
東西南北の使い方は面白いのだが、車に乗った馬のイメージが好きになれなかった。まとまりはよいと思う。しかし題名が作品の内容を表現しきれていない。
「ごっつぁんです」
時事問題のおちょくり方こそ「中途半端」。発想は面白いが、余計なことに字数を割きすぎていて、どこに焦点をしぼって読んだらよいのかわからない。