仮掲示板

第186期の感想

「自業自得」
 努力しなかったから主人公は独りになって、それが自業自得だとするのは小説の前提であって、主題ではないような気がする。いわば、誰でもが書いてしまう(使い古された感じ)であろうものである。だから、その先を書いてほしかったと私は思う。自業自得から脱却した先を書くことで光が生まれ、小説の方向性が見えてくる。そうでなければ、自己投影的な文章に終わってしまうと私は考えている。
 あと、どうもタイトルに違和感がある。読んで感想書いて、そのまま流そうとも思ったが、やはり、どうも、タイトルが違うという感覚は捨てきれない。

「おじあく戦争の後に」
 おじあくとは何かという疑問。
 何か入ってこなかった。乾いた感じというのであろうか、気持ちよりも情報としての文字とでもいうのであろうか。読むのではなく、見ていて、漢字の多さであったり、不明さであったりが邪魔をして、昨今、どういった書き方が正解なのかは分からないが、大きな画面で小説全体のビジュアルが確認できる方法と、小さな画面で部分部分を拡大表示させる方法とでは、小説の体裁(内容ではなく見た目)に変化があるように思う。この小説は何となく小さな画面のような感じがする。これでは、感想になっていないか。

「ファンシー」
 面白い世界観であると思った。ただ、呼び鈴とか、最後の一行(サニーとサマーの関係性)とか不明な箇所もある。句読点の不足も含めて、ちょっと分かりづらいのかな。別のお話の前に、今作を、世界観ではなく、読み物として面白くして欲しかった。

「モロコシ畑でつかまえて」
 さくっとしていて、面白い世界観。ぶっ飛び過ぎなかったことと、文字数をもう少し書いても良かったんではないかと思ったことがマイナスである。
 私は歯で母的な食べ方をする。

「ExpandAl」のびのびすけ
 うまく説明できないけれど、なんか良かった。碁石からパンダに替わる様なんかが。タイトルは造語だと思うけれど、中にパンダが隠れていたりして。ただ、ちゃんと感想を書こうとすると、途端に疲れて(否定の意味ではなくて)しまう。
 イメージの飛躍。あるものとあるものをぶつけて、そこに発生する何か。序盤の部分が実はパンダの描写だったのかと、読み返してみても、やはり、碁石のことであった。ただ、囲碁ではないようで、序盤の物語が何を示しているのかは気になる。中盤では性交のイメージを連想させる。機械的な序盤と、非機械的な終盤、それをつなぐ中盤の性交のイメージは、やはり、パンダを連想するにふさわしいし、生々しい感じがいい。

「不安、不安、安定剤」
 毎と日の間とか。挑戦的な感じはするが、私には上手く働かなかったようである。前作とは違うアプローチでその点については好感が持てる。ただ、薬の説明の背後にある主人公の不安定さについて、私はもう少し欲してしまった。最後の一文を書くことで破綻が消えてしまい、味気ないのである。いや、もっと、鮮烈な感覚であってほしく、最後の一文は嘘くさいのである。

「浦島太郎」
 意味の不釣り合いな語を並べることを立川談志はイリュージョンと言っていた。

「日記的なこと」のびしずか
 性交と湿気かな。物語に漂っているのは物語の湿気なのか、性交からくる湿気なのか、分からなくなった。日常感のあるループが、唯一ある作品のように思う。作品の順番や、誤字は気になるところではあるが、一貫性があり、気取ってないとろこが良い。この作品は「忘れ物」の対極にあるものと私は評価する。

「春はロマンチック」
 女の子。焼くというよりも、粘土で成形する、ろくろをまわすとか、そんなことをイメージする。
 従業員。隣に座るということは、大きな絵ではないなと、現に従業員もそこには触れていない。
 私。空間は何なのか。意図があるのか。
 良いと感じるときもあるが、この作者の作品が評価される基準が分からない。嫌みとかではなく、本当に分からない。今作に関して、私は否定的ですが、他の方はどう感じるのか。

「忘れ物」のびのびた
 読みやすい。味付けが固定されているのは残念に思う。そろそろ別のアプローチでもいいのではないか。これが、私の率直な感想になる。ただ、震災という時事であったり、構成であったり、物語性であったりは、否定する余地はない。他の作品が自己投影であったり私小説的であったり、解説的であったりする中において、相対的に評価は高いと言わざるを得ない。

「Fade Away」どらどらえもん
 孤独死の私がネズミに食われるということが書かれてある。黄色が度々出てくるのは、その世界は黄色=黄金色との解釈なのであろうか。黄色にした意味は知りたいところである。唯一は死んだものが主人公であること。私という一人称で死んだ私を書くということは、実は三人称をも内包していることになる。永遠に死に続けるといったループ性や、ネズミが川へ行くあたりからの描写。そのあたりの言い回しの難しさが崇高なイメージを与えはするが、内容は死を繰り返すということに終止する。だとすると、タイトル「消えていく」から逸脱することにもなるとは思うが、存在を忘れ去られるという意味合いなのかも知れない。

「英雄たちの墓場」
 分かりやすい構成。ただ、何となく読んだことのある印象を持ってしまった。
 前三作は身近な視点、友達であったり、クラスメイトであったりしたが、今作では英雄という明確な個人ではない不安定なものに取り組んでいる。繰り返される歴史の中で、英雄は入れ替わる。その都度、死人が増えるだけで、国という本質が変わらないという虚無。そんなことを私は感じるが、先に書いた印象は、背伸びをした感じ、地に足がついていない感じの小説になってしまったからだと思う。

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