仮掲示板

66期全感想その1

ご参考までに。



 全体的な雰囲気は、夏を漂わせていいとは思うんですけど、回りくどい所が多いのではないかと思いました。そういう効かせどころがいちいちあるので、文章全体を見失いそうです。作者も読者に対してそういう言い回しや表現を楽しんで欲しいとは思っているでしょうし、また好まれてもいるでしょうが、もう少しメリハリをつけたほうが印象深いのではないかと思いました。そういう表現に統一性をつけたらかえってやりすぎかなあ。
 キリンにレトリバーにカントリーなんだけど紅茶で、アメリカとNYにサバンナってちょっと飛びすぎじゃないかなあと思ったんですが。



 この推理はちょっと甘いような気がするというか、あまりにも単純なんだけどそれを笑う話なのかしら?殺人の初心者は簡単に人が死ぬとは信じられないので、つい何度も刺してしまい、挙句には刻んでしまいがちで、殺人のプロは一撃で、それで死ぬことを知っているという話をどっかで読んだので、分裂症という単語を出さなくても十分説明がつくのではないかと思いました。

 では、お題「その日の午後二時、T.Nは何故あのように殺されたのだろうか」

 
 アイ ラブ ユー
 
 いつからこんな関係になってしまったのだろうか。愛しあっていたはずなのに、あの人は事あるごとに私を殴るのだ。そのうち私は外出さえも禁じられ、一日中こうしてあの人が帰ってくることを恐れる為に生きている。がりがりがり。私は台所の刺身包丁をあの人が外出している間ずっと、砥ぎ続けた。
 あの人は決まって午後二時に一度帰宅し、私がちゃんと家にいて、決められたとおりベッドで寝ていることを確認する。そしてそのまま書斎に入り、クラッシックを流しパソコンの電源を入れる。私はその曲の背後に気配を隠し、半分開いた書斎のドアから入り込む。カーテンの閉じられたその小さな部屋の、私は闇になって彼の背後に立つ。そうして彼の頚動脈を、手にした刺身包丁ですっぱりと切ったのだ。あの人はスプリンクラーのように血を噴出しながら、切られた傷口を押さえて立ち上がり、憤怒の顔で私を捉えようとする。規則正しい心臓は、あの人から順調に血を奪っていく。私は包丁を奪われまいとその柄を必死に握り締め、部屋中を逃げ回った。やがてあの人は仰向けにひっくり返った。ペンキの缶をひっくり返したように、血が広がる。あの人の体ががたがたと震え始める。寒い寒いとつぶやく。しかしそれもいつか途絶えた。
 どれくらい時間が経過しただろう。クラッシックも止まってしまった。私はゆっくりとあの人に近づく。思い切って心臓あたりに刃をつきたててみる。そのまま手当たり次第ざくざくと刺し続ける。腹はもうはじけてしまった。けれど、彼はもう二度と怒らなかった。
 顔を上げると、彼の端正な顔が目に入った。そうだ、この顔に心を奪われた。長いまつげ、すっとした鼻、美しい唇。私は何度もその唇に口付けた。やがて彼の体の一部が硬くなってきていることに気付く。私は自分の中心をそこにあてがい、するりと彼を受け入れる。冷たい彼の感触にため息がこぼれる。そうして激しく腰を振りながら、腹に手を置くとずぶずぶとめり込む私の指。私は冷たく硬い彼をきつく締め付けた。登り詰める意識の中、気付くのだ。私たちはこうして愛しあうべきだったのだと。もう一度彼の唇にそっと口付ける。私たちが、初めて交わしたキスのように。


 T.Nが無くなった。どこかにいれればよかった。


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