仮掲示板

65期感想

『ホームルームの時間』
 先生の語り口が、怪しいセミナーの講師のようです。意図的?
 魂に何かが詰まっている、という発想は私にはまったくありませんでした。
『思慮深い人』
 明日地球が滅びる、ということはその前日に初めて知らされたということなんだと思いますが、そんな日に限って夕方まで寝ていたりしたら最悪ですよね。あー休みも終わりかー何もできなかったなーというショックとは比べ物にならないきっと。
『空のボク、大地のボク、海のボク』
 これはツボにはまりました。自分の身の回りと、どこかにあるらしい身の回り以外の世界というたった二点だけで出来た世界観。これを日記の文章で書かれると恥ずかしくなりますが、この作品はそうではないので素直に読めました。とても健康的で、きらきらしています。
『キーボードの上の羽』
 動揺した鳥の羽ばたきって、幾つになっても落ち着かない気分にさせられるものです。
 その使い方がとってもよかったと思います。
『瀬戸際の主』
 きっと「ばあちゃん」にとっては、語り手が異世界の住人のように感じられるのでしょうね。
 「ばあちゃん」が語り手の出現に体を硬直させるところが「異世界」と照応していて素晴らしいと思います。
『秩序を想う』
 例えば「彼」が醜男で、尚且つ世界をめぐるビジネスマンだったんだけど今は違う、という設定だったらもっとわかり易かったです。
『おおきいもの』
 さ、三人いた!
『早春賦』
 まさか蛙が映画に言及するとも思えないので、「俺」と「私」の話はまったく時空が違うものなんでしょう。
 間違って冬に目覚めた蛙が仲間のいる春を思って鳴き続けていた、というオチのある話と見せかけて、実は違うという頭脳プレーでしょうかこれは。
『時代遅れ?なアタシ』
 なごみました。
『仙丹』
 噛んで含めるような話の運び。まったく安心な世界観。素晴らしいですね。
『チョコっとした小説』
 男というものは、チョコをもらったという事実よりも、チョコそのものにこだわるものだ、というお話?
『掌』
 私はいい話風のテレビコマーシャルによく泣かされます。
 最後に「終」とつけられると、この夫婦にその後不幸なことが起こりそうなのでできればやめてほしい。
『ゴーレムを創る』
 「オリジナル(「虚体」「虚血」)のコピー(シミュラークル)のコピーであるゴーレム」と「オリジナルである僕」がイコールに見える(「絶対矛盾的自己同一」)のだと知った「僕」は、オリジナルであることを取り戻すためにゴーレムを殺そうとしますが、ゴーレムは実際に「僕」の生き写し(ドッペルゲンガー)でした。その生き写しに取り込まれた「僕」はオリジナル性を失い(「アムニージアック」)、「ゴーレム」そのものになってしまいました。「僕」は、オリジナル性を取り戻すために髪を染めたりしますが、それは見かけだけのことであって、オリジナル性でも何でもありません。ゴーレムである「僕」にはオリジナルを識別することができない、あるいは、心身ともにゴーレムなので、ゴーレムを創るまではオリジナルだと認識していた「同居人=家族」が本当はゴーレムであることを見破ります。「ゴーレム」に「浸食され」た「ゴーレムである僕」の中で、炎症が起きています。その炎症は、「ゴーレムである僕」の生命を脅かしかねない「オリジナル」の発芽なのかもしれません。
 と、こういう話なのだと思いました。それで、この作品が素朴だなと思った主な理由は、「ゴーレム」とか「シミュラークル」とか「ドッペルゲンガー」とか、「そのままの言葉」を使っているからです。「表現」と言われている場所は、たぶんその先にあるんだと思います。
『擬装☆少女 千字一時物語22』
 わー変化球ー!
 はじめの「佐倉」の台詞がもっと紛らわしい感じだともっと気持ち良くだまされたと思います。
『マイソフィスト』
 「吉田」が「私」のドッペルゲンガーみたいで恐かったです。
『僕の天秤』
 日付があるのがすごく恐い。
『タイム・ワープ』
 これは素直に楽しみました。だって戻れるだなんて思わなかったので。
 戻れない状態で語り手がどうするか、というお話だと思わされたので。
『横断者』
 この回りくどいというか一歩進んで二歩下がる語り口がとっても魅力的です。
『桜の樹の上には』
 タイトルは梶井基次郎「桜の樹の下には」のもじりです笹帽子さん。
『猿の証明「2+2=5」』
 何度も読んでいたら活動弁士が喋っている内容のように思えて来ました。
 映像はフィルムに傷がついている風の嘘臭いセピア色で。
『子犬のワルツ』
 映画のワンシーンのよう。雪とか「戸川君」の髪とかピアノ(鍵盤)とか、音への配慮も含めて映画的。
『せぶんてぃ〜ん』
 この関係のまま中年期に突入している様子が面白そう。
『餅を焼く』
 語り手のひねくれ具合が可笑しいですね。
『未来の乗りかた』
 投票は「何となく」でしちゃダメ! という政府発行の小説、とか。
『幸福を促進できる?』
 古風な話ですね。古風な話、好きです。
『泥鰌』
 なるほど。

 以下おまけです。

24

 とあるアミューズメントパークに画期的なアトラクションが出来たというので、ヒロキは仲間を引き連れて早速行ってみた。
 その屋内アトラクションは一人用らしい大きさで、ボール型のボディに四角いドアがついていた。それが幾つか置かれている。案内板にあるアトラクション名には、『未来の乗りかた』とあった。

 未来の乗りかた
 1.扉を開け、中のシートに座り、シートベルトをして下さい。
 2.表示される画面の中から好きな『テーマ』を選び、『決定』ボタンを押して下さい。選んだ『テーマ』があなたの未来になります。
 3.クリア条件はゲーム内で確認して下さい。あなたが死んでしまったり、諦めてしまったりした場合はゲームオーバーです。また、ゲーム中には様々な誘惑が現れますが、その誘惑に負けてもゲームオーバーです。
 さあ、未来を体感して下さい!

 そんな説明なんか読もうともせず、ヒロキはダッシュで『未来の乗りかた』に乗り込んだ。中は戦闘機のコックピットみたいだった。
「すげー! かっこいいー!」
 ヒロキの仲間も、他の『未来の乗りかた』に乗り込んだ。リアクションはヒロキとまったく同じだ。
 コックピット内のスピーカーからアナウンスが流れる。
「ようこそ未来へ! 画面の中から『テーマ』を選んでください!」
 ヒロキはシートベルトも締めずに目の前の画面をじっと見つめた。「戦争」と「平和」の二択だった。ヒロキは、そりゃ戦争でしょ! と『決定』ボタンを思いっきり叩いた。
「この『テーマ』で本当にいいですか?」
 アナウンスの声にいらいらして、ヒロキは『決定』ボタンを連打する。
「それでは、あなたの『未来』のスタートです!」
 すると画面が暗くなり、『戦争』をテーマにしたヒロキの『未来』がスタートした。

 ヒロキは知らない場所に立っていた。倒壊した建物とその瓦礫で塞がれた道。倒れて動かない人たちの姿もあった。
「……うお!」
 その時わりと近くで爆発が起きた。爆風に混じって石が飛んできてヒロキの頭に当たった。リアルに痛かった。
「すげー」
 頭は痛かったが、ヒロキは感動していた。来てよかったあ!
 ヒロキは、きっと別の場所に仲間がいるだろうと考え、走り始めた。みんなで協力し、このゲームをクリアするのだ。

25

 ……そういえば、お酒飲んだんだっけ。少し息苦しくて、ぼーっとして、意識が定まらない。しゃっきりしようと、横になったまま体を左右に揺すったらベッドから落ちそうになって、反射的に抱き枕をつかんでいた。

 目を開けると、嶋野の顔が目前にあった。すごく近い。ばっちり目が合う。
「目、覚めました?」
「……な、何であんたがいるの」
 文句のひとつでも言ってやろうとした時、しかし嶋野のほうが迷惑そうに眉をしかめたのだった。
「先輩に連れ込まれたんですよ。酔ってて覚えてないでしょうけど」
 ……あー。さっきの抱き枕は嶋野だったのか……。
「そう。ごめん。迷惑かけた」
 すぐに解放してやろうとする私。ところが、嶋野は私から離れようとしないどころか、そっと抱き返してきた。
「先輩……ちょっとだけ、こうしてていいですか」
「……」
 私は何も言わず、そのまま抱きしめられていた。お酒のにおいが少しと、あとは洗剤のかおりがする。
「なんか落ち着く。嶋野、お父さん?」
「え? 違いますよ」
 嶋野が笑うと私の体も揺れる。ああ、このまま眠ってしまいそうだ。すると、それを察知した嶋野はぎゅっと力を込めた。
「俺、先輩にもっとどきどきして欲しいんだけどな。俺のことで泣いたり、笑ったり、むちゃくちゃになって欲しい」
 彼はまっすぐ私を見つめていた。私は何かを伝えたくて口を開いたけど、唇が動いただけでうまく言葉にならなかった。
 その時嶋野は本当に幸せそうに微笑んで、やさしくキスをしてきた。私は、素直に受け入れた。
「……嶋野、うまいね」
「俺、先輩が気持ちいいって思うことならなんだってしますよ」
「じゃあ嶋野……もっと」
 彼が私の頬をなでる。そしてさっきよりも、もっと気持ちいいキスをしてくれた。そこでようやく気づく。たぶん、私嶋野のこと――

 部屋の電話が鳴った。
「ごめん……」
 さり気なく彼から離れ、冷たい受話器を取った。さっきまで飲み会で一緒だったサークル仲間だった。
「おう、飯島だけど」
「なに?」
「わるい、寝てたか」
「ううん、だいじょうぶ」
 なんとなく、私には彼がどんな用事でかけてきたのかがわかった。電話なんて取るんじゃなかった。
「明日、嶋野の四十九日だろ、お前、行くよな」
 私はベッドのほうを振り返った。そこにはもう、嶋野の姿はなく、代わりに見慣れた抱き枕が、ちょこんと置いてあった。

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