第99期 #8

春香の場合

 春香は悩んでいた。
「そもそも、冬美姉さんが悪いのよ」
 そう言われてしまえば、そうかもしれない。きっかけは、長姉の冬美が結婚した相手が冬馬だったことから始まったのだから。
 偶然にもお互いが四人兄弟と四人姉妹だった両家は、それから次々と縁談がまとまり、秋江は秋親と、夏帆は夏彦と結婚するに至っていた。
「いいじゃない。春太郎さん、いい人なんだし」
 秋江が口を挟む。ここまでくれば、残っている春香と春太郎が結婚することは既成事実に他ならない。しかし、そんな恰かも決められていたような相手と結婚しなくてはいけないなんて、春香にとっては煮え切らない思いでいっぱいだった。
「あら? 年の差を気にしているのかしら。そんなの最初だけよ。夫婦になれば気にならないものなの」
 夏帆が呟く。両家の兄弟と姉妹の大きな違いは、年齢だった。
 姉妹は冬美から秋江、夏帆、春香という順番なのだけれども、兄弟は春太郎を筆頭に冬馬、秋親、夏彦という順番であった。よって、春香と春太郎に至っては一回りも年の差が生じてしまうのだ。夏帆と夏彦も六つ離れているのだから、夏帆の言うことも一理あるのかもしれないが。
「口には出さないけれど、お父さんもお母さんもきっと望んでいると思うわ」
 冬美が諭す。それもそうだろう。親たちにしてみれば、親戚付き合いなんて少ない方がいいに決まっている。まして、春香と春太郎が結婚すれば、両家だけですべて事足りるのだから万々歳であろうに。
「……あたし、好きな人がいるの」
 春香は恐る恐る言葉を選びながら声を絞り出した。姉たちは、一斉に顔を見合わせる。薄々感じていたことではあるけれど、妹の告白にたじろがないわけにはいかなかった。
「この人よ」
 春香の差し出した携帯電話の待受画面を、姉たちは我先にと覗きこむ。そんな姉たちに向かって、春香は間髪いれずに平然と言いのけた。
「彼、武田春樹くんっていうの」



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