第99期 #5

事件

 暴走族のアタマをやって居たお婆さんが逮捕された。
 容疑は自転車の上で裸の少女に曲乗りをさせて居たと言うものだ。
 しかし暴走族のアタマがそんなに簡単に逮捕されるであろうか。
 これには矢張り裏があった。
 暴走族の権力抗争である。
 副総長が会長のムッソリーニ下等さんに電話で連絡したのだ。
 「ピングーカーを手配せよ」
 ピングーカーはペンギン飼育用の車で逮捕されたお婆さん所属の暴走族の資金源がこれらペンギンだった。
 アタマはお婆さんだが、その下に副総長が居りアタマの上には会長と名誉会長が居た。
 会長や名誉会長とは言え決して名誉職では無く実権を握って居たので、しばしば権力抗争の火種になった。
 会長がピングーカーを手配したと言う事は会長が本気でアタマを潰しにかかった証拠だ。
 何故ならピングーカー手配はアタマ専属の権限であり、それによってアタマの威厳も保たれて居た。大事な資金源だから。
 それをアタマを無視して会長に手配されてはアタマの面目丸つぶれだ。
 「おのれ会長のムッソリーニめ、あたいの頭越しにやりくさって」
 やけくそになったアタマが無茶な動員をかけたものだから、下っ端が腹を立てて資金源を断たれたならいい資金源がありますぜと少女の曲乗りが金になりますぜと嘘をつかれて、その上裸ならもう高値間違いなしと酒の上でのこととは言えアタマのお婆さんは信じ込んで仕舞った。
 「そうかえ、そうかえ、んならやりまっしょい」
 とアタマはさるスジから上玉を調達させて曲乗りをやらせて居た所、検挙されたと言う訳だ。
 「婆さんそんなもの金になる訳無いだろ、いったい何年生きてきたんだい、あなたは嘘をつかれて居たんだよ」
 と警察署で全てを教えられて思いのたけをぶちまけた。
 「アイヤーアイヤー部下の嘘に乗せられたわいな。あんた何年生きて来(たんだい)って私は若いころ九州探題研究の権威で大学で日本史を教えて来たんだよ、その私がグレン隊のアタマを務めるまでの女の生きざまを馬鹿にしちゃいかんよ、罰が当たるよ、スズメバチだよ、なんちゃって」
 結局お婆さんは厳重注意と言う事で放免になった。
 もうあんな馬鹿な事はやらないだろう。
 お婆さんには真人間に更正してもらいたい物だとの警察側の発表で事件は一段落したのであった。



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