第99期 #17

クリスマスの朝、雪が降る

 誰かが、「朝ですよ〜」と私に向かって叫んでいるような気がした。まだ眠ってもいないのに。
「でも夜は明けたの」
 私は最近、仕事を首になった。
「知ってる。でもこのままじゃあなたはダメな人間になっちゃう。秋葉事件の犯人みたいにね」
 どうでもいいけど、何で君はメイド服なんか着てるんだ。
「これ、ドンキホーテで三千円もしたのよ」
 私は財布から三千円出して彼女に渡した。もう帰ってくれ。
「馬鹿ね……」
 彼女は千円札を白いエプロンのポケットに入れると部屋を出て行った。私にはもう三万しかないんだぞと私が心の中で言うと、彼女はお返しに「バタン!」と大声で言いながらアパートの扉を閉めた。
 バタン?
 私はシャワーを浴び、身支度を済ませるとアパートを出た。

 冬の空を仰ぎ、針のように尖った冷たい風の中を歩いていると思わず酒が飲みたくなった。コンビニに寄って一番安いウイスキーを買った。店員の女の子はサンタの赤白帽を被っていたが、笑顔はまるで無かった。
 私はウイスキーを飲みながら職安を目指した。体と心が少しずつほぐれてゆき、職安に着くころには随分まともな気分になっていた。でも私は、そのあと職安のソファーで眠りこけていたらしい。恐い顔をした職安のおばさんに起こされたときはもう夕方で、早く帰れと言われたので私はもと来た道を帰った。

 アパートへ戻ると朝のメイド服が部屋にいた。
「メリークリスマス!」
 殺風景な部屋の壁にはクリスマス風の下手糞な絵が描いてあったり色紙でさっき作ったような飾りがあちこちに貼り付けられていた。そして小さなちゃぶ台の上にはケーキとシャンパンが。
「朝もらった三千円で買ったの。いいから早く座って」
 メイド服はケーキの蝋燭に火を点け、グラスにシャンパンを注いだ。
「ねえ、電気を消して」
 私は電気を消した。シャンパンを飲みながら、蝋燭の灯りに照らされた彼女を眺めた。
「Hなことは考えないでね」
 私は彼女をつき倒しキスをした。
「もう、ダメだってば……」

 その後のことはよく覚えていない。朝目覚めると窓の外に雪が降っていた。
 テレビを点けると、昨夜隣国との間で戦争が始まったというニュースが繰り返し流れていた。そしてなぜか軍服姿の彼女が突然テレビ画面に現れ、凛とした表情で演説を始めた。
「諸君!」
 私の部屋には彼女のメイド服だけが脱ぎ捨てられている。戦争が終わったら、また戻ってくるのだろうか。



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