第99期 #16
「みなさん恐がっていらっしゃるけど、ほんとうはマゾじゃないかと屋福さんのこと思うことがありますわ」と、小雪さん。
「なんだよ、このひとは、なんということをいってくれるんだ」
どういう仲なんだろうと、ただ漠然と二人の会話を聞いている栄太。
きれいな細い指でグリップを固めると、小雪さんがまず最初にグリーンにのせた。次は屋福さん。
「ぼくは、このくらいの距離が一番打ちやすいんだよ」
そういいながら、残り150ヤードを軽く振り抜いた。
「いい目的ができたじゃないか?」と、滝音プロが言ったので、はっといまの状況に気持ちが舞い戻ってきて、目が覚めたように感じる。
同じくらいの距離を残して栄太のショットになった。さて何番でどのくらい飛ばすのか考えていなかった栄太である。
狙いはグリーンに立っている旗の根元だ。それは、練習でも見慣れた目標だ。
キャディさんが残り140ヤードだと教えてくれる。
9番アイアンを渡された。
滝音プロは黙っている。ルールはアドバイス禁止である。たとえ指導ゴルフでもいまは、ゲームに集中しろという姿勢だ。相談するならキャディさんに聞くしかない。
耳のかなでかすかに響く音がある。
「パーをとったらオーダークラブをプレゼントしてもらえる」
気持ちよく、ナイスショット。
栄太は、9番ならいつも、だいたい150ヤード飛ばしているのだ。
見事にグリーンを飛び越えて次のホールの林の中に打ち込んだ。
なんか、それで、いいような気がしている栄太。打ちっぱなし練習は飛べばよかった。
よく飛んでいるじゃないか。
ボーっと、そんなことを考えている栄太だった。
「どうした? ちゃんとキャディさんのいうこと聞いていたのかい?」
滝音プロのアドバイスは、もうおそかった。
「あら、まあ、このホールはおあずけね」と、小雪さんが言った。それから、
「どこかでパーをとればいいんだから、ここは、さっとあきらめたほうがいいわよ。おとこらしくね」
男らしくかぁ……、と、何もいえないまま、考えている。
栄太が、ゴルフコース攻略をおもいだすまでには、しばらく時間と慣れが必要だ。