第99期 #11
電話が鳴る。受話器を上げてみると叔父からだ。
「おう、久し振りだな。元気か?」
「うん……。叔父さんは?」
「俺か。俺はこの通り、ピンピンしてるさ。そんなことより、おまえ、少し頼まれてくれないか?」
「何?」
「柿木焼酎を買ってきてほしいんだ」
「聞いたことないよ、そんな焼酎」
「酒屋に行けば分かるから。いいか、頼んだぞ」
電話はそれで切れた。
まったく、死んでも強引さは治らない……。
そう思って愕然とした。そうだ。叔父は先日、亡くなったと聞かされていた。どうしてその叔父から電話が……。
唖然としていると、今度は背後から懐かしい声が聞こえてきた。
「いいなぁ、柿木焼酎か。あれは安くて美味い。俺も欲しいなぁ」
振り向くと、そこには七年前に死んだはずの親父が……。
「なあ、頼むよ。俺にも買ってきてくれないか」
俺は恐れながらも、生前、親父が安い焼酎ばかり呑んでいたのを思い出していた。毎晩、大量に呑むから安いものしか買えなかったのだ。
「ああ、いいよ。だからおとなしく待ってろよ」
そう、引き攣った笑顔で言った。
「悪いな」
親父は子供のような笑みを見せて、拝むように手を合わせた。これも懐かしい親父の仕草だ。
そういえば、まだ生きていたころ、親父には何もしてあげられなかった。少しばかり後悔する面もないわけではない。またこうして会えたのだから、好きな酒ぐらいは呑ませてあげたい。そんな気持ちもあったのだろう。親父の姿を名残惜しそうに眺めながら、家を出て買い物に行った。
しかし、柿木焼酎なんて聞いたこともない。
「まあ、いいか」
そうつぶやいて歩き出した……。
*
目を覚ました。
やっぱり、夢か……。ふと暦を見て、親父の命日が近いことを知った。