第99期 #10

売れ残り

 世間では、一般的に年寄りより若い子が好まれている。

 もちろん人によって好みは違う。けれどほとんどの人が、若い子を選ぶ。お店に足を運んでくれるお客さんも、私が年を食っているというだけで、あまり良いイメージを持ってくれない。
 私だって、まだまだ若いと思っている。十分現役だ。
 仮に、お店に私しかいないときにお客さんが来たら、お客さんは迷うことなく私を選んでくれる。その決定に不満を持つことなく。私だって、選んでくれたお客を満足させることができると信じている。

 だが現実は甘くない。
 お店には、私より後から入ってきた、私より若い子がたくさんいる。
 私の隣に、容姿はほとんど変わらないけど私より若い子がいたら、先の例にあげたお客さんだって、迷うことなくその子を選ぶのである。一度は私に興味を持ってくれたとしても、その子が私より若いと分かっただけで、私を捨ててその子を選ぶのだ。
 お店に訪れるのは、男性に限ったことだけじゃない。だが女性も同じである。むしろ女性の方がシビアだったりする。

 これが現実である。
 さすがに不憫に思ってくれるのか、店長は毎日のようにあたしを前面に押し出してプッシュしてくれる。けれど実際、お客に気に入られ一緒にお店を出ていくのは、若い子たちだけなのである。


 生まれた日がたった一日違うだけでもこの扱い。
 今日も私は一人取り残される。

 今だってそう。目の前の男性は私を見てくれた。食い入るように目を輝かせて見つめてくれた。手を差し伸べてくれた。
 けれど彼の母親は、姑のように言うのだった。

「おかーさん。牛乳あったよー」

「雄太。手前のは賞味期限が古いから、奥のを取りなさい」



Copyright © 2010 水守中也 / 編集: 短編